第127話 灰

『ライ様!たすけに――』


 縦穴を落ちている途中、リリィの声がそこでなぜか途切れてしまう。

 意識共有が使えない?


 くそっ!そんなことよりコハルだ!まだか!


 暗闇を落ちながら目を凝らす。


 見つけた!


 暗闇を落ちるコハルを前方に見つけ、


「ライトニング!!」


 もう一度、魔法を放って加速し、コハルに追いついた。


 抱きしめる。つかまえた!!


「よしっ!!」


 すぐに重力魔法を発動する。オレの魔法では2人分は支えれないが、かなり落下速度が減速した。


 あとは、地面が見えたら…

「ライトニング!」


 地面に向かって、身体を浮かせるためにライトニングをぶっぱなす。


 魔法の威力でさらにスピードをころして、着地した。


「はぁ……な、なんとかなった…コハル!大丈夫か!」


 一瞬ほっとするが、そんな場合じゃない。


 コハルはあいつの攻撃を直撃してるんだ。コハルの頬をぺちぺちと叩いて意識を確認する。

 意識がない。頭から血を流している。


「エリクサーを!」


 アイテムボックスからエリクサーを取り出して、コハルの頭にかける。


 すぅーと傷が治り、血が消えていく。


「コハル!コハル!」


 目を覚さない。


「飲んでくれ」


 口に瓶を当てるが、意識のないコハルは飲むことができない。口の端から、エリクサーがこぼれ落ちる。


「ごめん!我慢してくれ!」


 オレは自分の口にエリクサーを含み、コハルに無理矢理飲ませた。


「……コクリ」


 コハルの喉が鳴る。何度か、コハルに口移しでエリクサーを飲ませる。


「……ライ?」


「ふ、ふぅーー…よ、よかった…」


 目を覚まし、オレの名前を呼ぶコハルを見て、オレは一気に脱力した。片手を地面について、ぐったりと下を見る。


 あぁ、ほんとに良かった。コハルが無事で。


「ど、どうしたの?ここは?」


 まだ意識がハッキリしていない、虚な目でコハルは言う。


「ピーちゃん……ピーちゃんは!?ライ!!ピーちゃんが!!」


 突如覚醒したコハルが、必死にオレの胸にしがみつき、服を強く掴む。


 どう伝えるべきか、安静にしててほしい。

 でも、先延ばしになんてできない。


「………これ」


 オレは、ピーちゃんの灰をかき集めた袋を渡した。


「……ピーちゃん?…ピーちゃん!ピーちゃん!!ライ!ピーちゃんが!ピーちゃんが!ああ!あぁぁぁ!!」


 コハルが袋を抱きしめて、ボロボロと泣き出した。


 オレも涙を流す。


「ピーちゃんは……コハルを守ったんだ…」


「わかんない!わかんないよ!」


 頭を左右に振るコハルにかける言葉が見つからなくて、オレは抱き締めることしか出来なかった。



「ありがとう…」


「うん…」


 オレとコハルは身を寄せ合って、壁にもたれかかって座っていた。


 コハルは、ピーちゃんの灰をみている。


「なんでこんなことに…」


「ピーちゃんは自分の力以上の力を使って、オレたちを守ってくれたのかな」


「ぐすっ…」

 ポロ、コハルが涙を流す。


「あのさ、コハル」


「なに?」


「これから言うことを、今まで言わなかったのは、確信がなかったからで、今も確信がない。コハルに変な希望を持たせてしまって、悲しませたくなかったからだ。それをわかった上で聞いてくれるかな?」


 オレは、あの本のことを話そうと決めた。


「うん…」


「ピーちゃんは、もしかしたらフェニックスなのかもしれない」


「フェニックス?」


「知らないか?」


「伝説の不死鳥だろ?」


「うん。ピーちゃんの力は本当にファイアーバードのものなのかな?ちょっと前から、オレはピーちゃんがフェニックスなんじゃないかって思ってたんだ。

 だってさ、ファイアーバードが人間の窮地を救い、心を通わせて、力を貸してくれるなんて、そんな凄いことできるかな?

 オレには、ピーちゃんはフェニックスなんだって、伝説の生き物なんじゃないかなって、そう見えていた」


「それは……わかんない……でも…もし、不死鳥なら…」


「復活する……かもしれない…」


「うん…かもしれない…」


「ごめんな…」


 確信のない、夢物語を語って、申し訳ない気持ちになる。これで、なにも起きなかったら、変に期待だけして、悲しいだけだ。


「ううん。少し元気が出たよ。もし…ダメ…でも…ライのことは嫌いにならないよ」


「ありがとう…ごめん…」


「ううん。ライもピーちゃんのこと、好きでいてくれてたもんね…」


「もちろんだ」


「そうだよね…ごめん。ライも辛いのに…ボクばっか…」


「いや…オレなんか…コハルと比べたら…」


「ううん……よし!今は動かないと!みんなも心配してる!」


 コハルが立ち上がってパン!と自分の両頬を叩く!


「みんなを助けないと!いこう!」


 座ってるオレに手を差し伸べてくれるコハル、オレはすぐにその手を取って立ち上がった。


「そうだな!一応、やつの左目もつぶしたから、みんなは逃げれたと思う。だから、まずはギルドに戻って体制を整えよう」


「わかった!」


 こうして、オレたちは出口を目指して歩き出した。


 オレたちが落ちた縦穴の底には、人が歩けるくらいの横穴が開いていて、その横穴は螺旋階段のようにグルグルと回って上の方に向かっていた。

 道はこれしかない、だから、その洞窟を進んでいく。


 どこまでも同じ景色が続いていた、ひたすら上る。


 3時間ほど登っただろうか。


「おかしいな。体感ならとっくに落ちた位置までは登ったはずだ」


「だよね。でもまだ続いてる」


 かなり登ってきたのに、オレとコハルが落ちた広場にはたどり着かなかった。そもそも繋がっているなんて保証はないが。


「今は進むしかないか…」


 さらに2時間進んだら、そこは開けた行き止まりだった。


「なんだよここ…」


「不気味なところだね…」


 その空間には、床一面、骨が散らばっていた。


 その骨は、動物のもの…そして、人間の骨も多く転がっている。


 人骨の近くには、武器や杖、犠牲者は冒険者だということがわかった。


「ゴルルルル……」


 すると、べつの穴から、やつがゆっくりと現れた。


 右目をコハルにつぶされ、左目をオレにつぶされたあいつだ。


 すでに臭いかなにかでオレたちのことは気づいているようだった。オレたちの方に顔を向けながら、遠目に様子を伺っている。


「くそっ!目が見えなくても位置がわかるのか!」


 オレたちは剣を構える。


「いくぞ!こんなところで死んでられるか!」


「もちろん!」


 戦いは避けられないと判断し、2人して駆けていき、斬りかかる。


 やつからは、先ほどまでの勢いは感じなかった。両目をつぶされて弱っているのかもしれない。


 しかし、オレたちの刃は通らない。まったく効いているようには思えなかった。


 何度も斬りつけていると、やつは身体を岩石の色にして、魔法を放つ。


 地面から巨大な岩の槍があらわれ、コハルに向かって飛んで行った。


「くっ!」


 バリンッ


 コハルは、なんとかその槍をいなすが、双剣がみるも無惨に砕け散ってしまう。


「そんな…剣が…」


 また固まってしまうコハル。


 そこに、追加の岩弾が叩き込まれる。


「コハル!」


 オレがコハルに体当たりしてなんとか避けることができた。


 2人して地面に転がる。


 無数の岩弾はオレたちの後ろに何発も直撃し、岩壁に風穴を開けた。風が吹き込んでくる。


 外に繋がっているのか!


「コハル!穴の方へ!」


「うん!」


 コハルと一緒にじりじりと穴の方に移動し、やつから目を離さないようにしながら、穴から外を見る。


 すると、眼下にはデルシアの町が広がっていた。

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