第126話 遭遇

 ギルドに到着すると、また受付がザワザワしていた。


「どうかしたんですか?」


「昨日、上級Bの依頼を受けたパーティが帰ってきません…」


「え?それって…」


 上級Bなら、そこまで深部じゃないはずだ。以前、行方不明者が出ていたシルバべナードの依頼エリアからはかなり離れている。


「これは、本格的にマズいよ。このままだと洞窟から出てくるんじゃない?」

 とコハル。


 たしかにその可能性はある。


「まずは、相手がどんなやつか確認しないとだな」


「だよね」


「ギルドでは、モンスターの姿は確認とれてないですよね?」


 ルカロさんに聞く。


「え?ええ」


「オレたちが確認してきます」


「そんな!危険です!」


「大丈夫です。うちには危険察知能力が高い味方がいますから」


 ティナを指していう、本人も「大丈夫じゃ」と頷いてくれる。


「姿をみたらすぐに撤退します」


「わ、わかりました…くれぐれも気をつけてくださいね…」


♢♦♢


-クルーセオ鉱山 入口-


「コハル、そういえば、ピーちゃんは?」


「んー、なんかずっと寝てて動かないから宿で留守番してもらってる」


「そうなんだ?」


 なんだろう?フェニックスとして、転生の準備でもはじめたのだろうか?

 まぁ、危険なところに来ないのはいいことかな?心配だし。


「おっけ、みんなに確認だけど、オレとステラで先行、コハルとティナが真ん中、ソフィアとリリィが最後尾だ。

 ティナの精霊に周囲を探ってもらい、なにか気配があったら止まる。姿を確認できたら、すぐに引き返す。これでいく。いいかな?」


 みんなが緊張した顔で頷く。


「もしはぐれた場合、前衛職が指揮をとるけど、基本は撤退だ。絶対1人にはなるな」


 もう一度、みんなが頷くのを確認してから洞窟に足を踏み入れた。


 少しずつ進んでいく。


 ゆっくりと歩を進め、上級Cの依頼エリアにまでもぐってきたが特になにもない。


 そのまま上級Bのエリアに向かう。


「ん?こんなところに横穴なんてあったっけ?」


 オレは横穴の縁に左手を当てて、奥を覗き込む。見慣れない横穴があったからだ。


 ポケットに入れていた地図を取り出して見比べるが、やはりこんな横穴なんてない。なんだろうこれは?


「………ライ、撤退じゃ…」


 やばい。


 そう、思ってしまった。


 ティナの表情から、〈やばい、撤退しなければ〉と考える。


 モンスターは人間の感情に敏感だ。


 警戒心がないところを奇襲してくるやつもいる。


 やばい…


 オレの不安をそいつは読み取った。


 オレの左手の横、手をついていた、岩壁であるはずのそこが、かすかに動く。


 その違和感を無視することはできない。目線をそちらにやる。


 岩壁のはずのそこは、ギョロリと瞼があいて、目があった。


「撤退!!」


 オレは叫んでバックステップを踏みながら剣を抜く。


「ゴォォォ!」


 けたたましい叫び声と共に、壁が崩れてそいつが飛び出してきた。


 オレに突進してくる。後ろにはみんなが―


 止める!


 ガキン!!とキルクがそいつの顎にふれ、思いっきり脚に力を入れる。

 だがそいつは、止まらない!


「くそっ!!」


 ガ!ガン!!


 オレの左右からステラとコハルが飛び出してきて、そいつの顎に剣をぶつける。

 すると、なんとかそいつを止めることに成功した。


 しかし、ぎりぎり、という感じだ。


 めちゃくちゃな力で押し込まれる。


「ぐっ!後衛は広場まで下がれ!」


 リリィたちが下がるのを待って、オレたちも下がる。


 戦うにしてもこんな狭い場所じゃ無理だ。


 そいつは通路よりもデカい身体を持っていた。そいつが前進しようとすると狭い洞窟がボロボロと崩れてくる。


 なんとかして、開けた場所まできた後退してきたオレたち。


 前衛3人が広場に走って到達すると、後ろから土煙を上げて洞窟を崩しながらそいつが追ってきた。


「ガァァァァ!!」


 そいつは、追ってきた通路を破壊し尽くし、通路を塞ぐようにオレたちの前に現れた。

 ここでついにやつの全身を確認することができる。


 巨大なトカゲだ。


 いや、ここまでのサイズだと、ドラゴンと言った方がしっくりくる。


 四足歩行の翼がないドラゴンがそこにいた。


 身体は岩石のようだ。と思ったら、岩肌のグレーの体表が白とも透明とも言えない、不思議なキラキラとした色に変化していった。


 そうか、横穴に擬態するために岩壁の色に変えていたのか。


「コハル、こいつか?」


 全員で構えたまま、コハルに確認する。こいつが、コハルの前パーティを襲ったやつなのか。


「いや……わからな…あっ!右目!ボクがつけた傷だ!」


 そいつの右目は双剣の傷痕が刻まれ潰れていた。


「で!でもこんなに大きくなかったよ!」


「半年で成長したってことか…最初の方針通り、撤退!」


 オレが叫ぶと、そいつの体が黄緑色になり、突如風の刃が放たれる。


 逃げ腰になっていたこともあり、対応が遅れる。


 やばい、ふせぎ切れない!オレが死んでもみんなを!!


「ピー!!」


 オレたち前衛が盾になるように構えたところ、その間にピーちゃんが飛び出してきた。


「ピーちゃん!?」


 そして、やつの風魔法に対して、炎を吐き出す。


 メラメラと燃え盛る炎は、コハルの剣に使っていたものとは桁違いに大きく、敵の魔法を防ぎ切った。


「ピー……」


 そして、力なく鳴いたかと思うと、ピーちゃんの身体は炎に包まれていき、気づけば、ボロボロと灰になって崩れ落ちてしまった。


「………え?」


 その場が凍りついた。


「ピー……ちゃん?」


 コハルは、だらんと両手を下げて立ち尽くす。


「ゴォォォ!!」


 しかし敵は待ってくれない!


「コハル!気をつけろ!」


 放心状態のコハルのカバーに入る。


「フレイムストーム!」

「フレイムストーム!」


 ソフィアとティナの魔法がやつをとらえた。


「ギィィィィ!!」


 効いているようだ。


 しかしそいつは、すぐに身体を赤く変化させて、さきほどまでの苦しそうな顔から平気そうな効いてなさそうな顔に変わる。


「ピーちゃん……」


 コハルは動けない。


「コハル!気をしっかり持て!」


 返事がない。


「くそっ!」


 オレはアイテムボックスから用意してた耐火性の袋を取り出し、ピーちゃんの灰にかけよった。


「ピーちゃん!大丈夫!がんばれ!!」


 めちゃくちゃ熱い。ピーちゃんの灰は燃えているように熱かった。

 手が焼けるのがわかった。

 でも、そんなことは関係ない。


 必死でかき集める。


「くそっ!こんなペースじゃ!」


 灰は手では上手く集めることができず、手の間からさらさらとこぼれてしまう。


「ライ!重力魔法よ!!」


 そうか!遠くからソフィアのアドバイスが聞こえて、すぐに重力魔法を使う。すると、すぐにピーちゃんの灰を集めきることができた。


 オレは大事に袋の封を結ぶ。


 そんなことをしているうちに、戦場は瞬く間に場面を切り替えていく。


 みんながなんとか時間を稼いでくれていたが、やつは前衛のステラから一旦距離をとり、呆然と立ち尽くしているコハルを目にとらえた。


「コハル!!ピーちゃんは大丈夫!前を見ろ!!!」


 やつがコハルに突進していく。


「コハル!!」


「え?」

 やつが振りかぶった巨大な尻尾がコハルを横から捉え、直撃した。


 コハルがものすごい勢いで吹っ飛ぶ。そして、岩壁に叩きつけられた。


「コハル!!ライ!コハルが!!」


 ソフィアの悲鳴のような声、オレはすでに駆け出していた。コハルのフォローに回る。


 しかし、コハルが叩きつけられた岩壁はぐずぐずと崩れはじめ、コハルは暗闇の中に姿を消した。


 なんなんだ!縦穴でもあるのか!


「ゴォォォォ!!!」


 オレの目の前には、コハルを叩きつけて勝ち誇ったような咆哮をあげるクソヤローがいた。


 コロス。


「ライトニング!!」


 オレは走りながらキルクにライトニングを叩き込み、剣に力が行き渡らせる。


 そして、コハルの姿が消えた岩壁に向かうために、やつの左目を切り裂いた。


「ギィィィィ!!」


 トカゲが騒いでいるが、無視して岩壁に直進する。


「ステラ!みんなを連れて撤退しろ!指揮は任せる!」


「ライさん!」

「ライ様!」


 みんなの声が聞こえるが、オレはコハルを追って穴に飛び込んだ。


 真っ暗な縦穴だ。


 コハルに追いつけるように身体をまっすぐにして抵抗を減らす。


 意識共有で、『オレは雷龍様の穴でも助かった!それに重力魔法もある!絶対みんなで再会する!無理はするな!引け!』とだけ全力で伝えた。


 そのまま、オレは縦穴の中を落ちていく。


 コハル、コハル、絶対見つける、絶対助けるから。


「ライトニング!」


 オレは落下速度を上げるために後方に向かってありったけの魔法をぶち放った。

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