第123話 クランを壊滅させたモンスター
宿での魔法勉強会の最中、やはりさっきのギルドでのことが話題になった。
「さっきの話、気になるわね」
「そうですね。ベテランの冒険者でもやられるってことは、特級C以上のモンスターってことですよね?」
「コハル、今までそんなモンスターは出たことあるのかのう?」
「……えっと…半年前、特級Bのモンスターが出て…ボクがいたパーティがやられた…」
「それは……すまんかったのじゃ…わしの気遣いが足りなかった。この通りじゃ」
ティナがコハルに頭を下げる。
「ううん。いいんだ……大丈夫。うん。ボクはもう大丈夫だから」
コハルはティナの謝罪を受け入れつつ、両手で大丈夫だよ、とジェスチャーしてくれる。
「それに……そろそろみんなにも、そのときのこと、話しておかないといけないと思ってたし……なんか、今回の事件と無関係とも思えないんだ…」
真剣な顔をするコハルに、オレたちは全員向き直って、コハルの前に集まってきた。
コハルは、座ったまま、両手を膝に置いてゆっくりと話し出した。
「……ふぅ……ボクはさ、1年くらい前に冒険者になったんだけど、もともと剣の修行をつけてもらってたから、最初からわりと活躍できたんだ。
だから、デルシアで1番強かったキースたちのパーティに誘われた。そのパーティはさ、今思えばぜんぜん楽しくなくて、みんなと比べちゃうと贅沢なのかもしれないけど……
あのね……今はボク、すっごく楽しいんだ」
「えへへ…」
そう控えめに笑うコハルに、みんなも笑顔で答える。
「もちろんオレたちもコハルとピーちゃんと組めて、一緒に冒険できて楽しいよ」
「ピー♪」
「あ、ありがと。
えと……でね。前のパーティではさ、前衛は常にボク1人で、剥ぎ取りや雑用も新入りのボクの担当だって言われて……
それに、連携なんて全然とれてなかった。ボクが一人で戦ってたときもあったかな…」
「な、なんだよそれ…なんでパーティを抜けなかったんだ?」
我慢できなくなって口を挟む。
「そのときのボクには、そんな考え、思いつかなかったんだよ…だから惰性で組み続けた。でも、もういいんだ、そんなの。
みんなと冒険をして、これが本当のパーティなのかなって、みんな優しくて、お互い助け合って、ボクが大好きな英雄譚みたいなパーティだなって、すごく感激したんだ」
コハルの嬉しい言葉に、みんな笑顔になる。
「でね。ある日、特級Cの討伐依頼、シルバべナードを倒しに行った日、あいつが現れた」
「あいつ?」
「ロワサラマンダー、サラマンダーの上位種だよ。
ボクたちは奇襲にあったけど、なんとか体制を整えたんだ。ボクたちなら倒せる、そう思った。リーダーだった人もそう判断して、応戦した。途中までは善戦してたと思う。
でも、リーダーが壁際に追い詰められて、魔法の援護を指示したとき、いつまで経っても魔法がこなくて……リーダーがやられた…
そしたら、総崩れだった。あっという間に5人殺されて……
ボクも死ぬんだなって思った。
でもね。そのときピーちゃんが現れて助けてくれたんだ」
「ピー!」
コハルの肩に乗っているピーちゃんが誇らしげに鳴く。
「ピーちゃんが力を貸してくれて、ロアサラマンダーの片目を潰してから、
ボクはなんとか逃げ切れたんだ」
「よかった……えっと、そのとき援護しなかった魔法使いって?」
「キース…」
「あのやろー…」
「それで、ボロボロになってギルドに帰ったら、ボクのせいで壊滅したんだって、キースが言いふらしてた…」
ガタッ
オレは立ち上がる。
「なにをする気ですか?」
リリィがオレの前に立ちふさがる。
「キースをころ…手足を斬り…殴ってくる」
オレが物騒なことを言いそうになるたび、リリィが睨んでくるものだから、だいぶ妥協した。
「それくらいならいいですが、今はコハルの話を聞きましょう」
「わ、わかった…」
リリィに促されるがまま、オレはもう一度椅子に座る。
「ライ、怒ってくれてありがとう。嬉しいよ」
辛そうな笑顔だった。
「コハル、辛いときは辛いって言っていいんだ。オレたちはコハルの話をちゃんと聞くし、受け止める。オレたちはコハルの仲間で、味方だから」
「ううん……最後まで…話す」
苦しそうに、辛そうに話すコハルをもう見てはいられなかった。でも、本人が話すと言う、オレたちは聞いてあげないといけない。
コハルが口を開こうとしたら、そっと、ソフィアがコハルの肩を抱いてくれた。
「ちゃんと聞くわ」
「う…うん……ふぅ……それでね…そのロワサラマンダーのことなんだけど…キースはギルドにロワサラマンダーだって報告してた。
でも、ボクは違うモンスターだと思うんだ」
「そうなのか?その理由は?」
「ボクが片目を潰したとき、あいつは炎魔法じゃなくて、水魔法を使ってきた。ロアサラマンダーは火属性しか使わないはずだ。だから、たぶんなにか違うモンスターなんだと思う」
「それを知ってるのは?」
「ボクとピーちゃんだけ」
「なんでギルドに言わなかったのよ?」
「………ウソつきだって……言われるのが……怖くて…」
ツーっとコハルの頬に涙がつたう。
「ご、ごめん!」
すぐにソフィアが座っているコハルの頭を抱きしめた。
すると、それをきっかけにコハルの涙は止まらなくなる。
「ぼ、ボクは……が、がんばって……パーティの力になろうとしてたのに……だ…だれも認めて…くれ…なくて……
こんなの……ボクが憧れてた英雄譚じゃないよ…って……お、思って…」
オレも正面からコハルの手を取って、ステラがソフィアの反対側からコハルの肩にそっと手を置く。
「そしたら……こんどは……し、死神だなんて…い、いわれて…う、うう…うぁぁぁ!」
我慢の限界がきたコハルがソフィアに抱きついた。
「つ!つらかった!つらかったんだ!だれも!たすけてくれない!
でも!ボクは英雄になるんだから!がまんできるって!言い聞かせて!
で!でも!ムリだよって!何回も!何回も!
でも!……うぅぅ…ぁああぁー!」
コハルの瞳からは大粒の涙が流れ続け、子どものようにソフィアに抱き着いて震えている。
「うん、うん。あんたはがんばった。がんばったわ」
ソフィアがコハルの頭を撫でながら涙を流す。
その姿を見て、オレも、みんなも涙を流した。
そして、みんなして、コハルのことを支えて、なるべくあっためてあげれるように抱きしめた。
♢
「ぐすっ……ありがとう…ソフィア。それにみんなも…」
泣き止んだコハルが少し落ち着いて、話を再開する。
「それで、キースのヤツは黙らせるとして、問題は、その謎のモンスターだな。今回の失踪事件が起きている原因が同じモンスターだとしたら、ほっとくってのは、さすがにマズいよな?」
「もし、できるなら…可能だと判断したら…ボクは倒したい。
ほっといても犠牲者が出ないならいいけど、犠牲者が出始めてる今、ほっとくのは違うと思う」
「うん、それは立派な考えだと思う。だけど、オレは理想よりもみんなの安全を取る。もし、1人でも危ないような目に遭うなら、オレは撤退を判断する。それでもいいか?」
「うん。もちろん」
「みんなは?」
みんなも頷いてくれた。
「よし、じゃあまずは情報収集からはじめよう。あくまで、全員が無事に倒せそうなら討伐に挑むけど、危険だと判断したら戦わない、その認識はしっかり持っててくれ」
みんなの認識を合わせてから、その日は解散となった。
とはいっても、コハルにはソフィアとステラが付き添って、今日は一緒に泊まってくれるそうだ。もちろんオレは笑顔で了承した。
なんなら、オレのベッドをあけるからコハルもココで寝ていけばいいじゃん、って提案しようとしていたくらいだ。
今日は、安心して仲間と一緒に過ごしてもらいたい。
それにしても……
謎のモンスターの正体が、ロアサラマンダーより上位の存在だとすると、強さは特級B以上ということになる。倒せるのだろうか。
まだ見ぬ未知のモンスターに少し不安になりつつも、コハルのことを窮地に追いやったそいつにメラメラと闘争心を燃やすオレであった。
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