第108話 ボクっ娘ポニテとの初依頼

-翌日-


 ギルドに赴くと、ムスッとしたコハルちゃんの肩を押してルカロさんが近づいてきた。


「ミカヅチさん!コハル連れてきました!ほら!挨拶して!」


「……コハル・カグラザカ」


 へぇ、日本人ぽい名前だ。よく見ると、栗色の髪もあいまって、日本人っぽく見えなくもない。


 かわいいポニテJKという感じだろうか。へへ…


「オレは、ライ・ミカヅチ、よろしく。パーティメンバーのみんなを紹介するね」


「リリアーナ・クローバーです」

「ソフィア・アメジストよ」

「ステラ・ファビノです、よろしく♪」

「ティナルビア・ノア・アスガルドじゃ」


「……女の子ばっかり…」


「え、えっと!ミカヅチさんはコハルの噂を聞いても歓迎するって言ってくれた良い人だよ!たぶん!」


 たぶんとはなんですか?ルカロさん。


「まぁ、いいじゃない。たしかにコイツは女好きの変態だけど、人間的には良いヤツよ」


 変態ってなんですか?ソフィアさん?


「変態でいい人……」


 コハルちゃんは怪訝な顔をしている。


「ボクの噂は聞いたんだよね?」


 コハルちゃんがいたパーティが壊滅した話のことだろう。


「うん、聞いたよ」


「ボクと一緒にいると全滅するかもよ?」


「それは、キミのせいでそうなるのかな?」


「いや……そんなことは……わからない」


「例えば、キミはオレたちを後ろから斬ったり、危険なモンスターをわざとおびき寄せたり、トラップに誘導したりするのかな?」


「なっ!?そんなことするわけないだろ!」


「なら、大丈夫だ。よろしく」


 右手を差しだす。握手しよーぜ、というやつだ。


「なんだよそれ、変なやつ」


 コハルちゃんは握手に応えてくれず、素通りしていく。


 あら?オレの右手の行方は?

 宙をきった虚しいオレの右手……かわいそう……

 なんて思ってると、ステラが笑顔で握ってくれた。


「うふふ♪」


 な、なんていい子なんだ…

 オレは抱きしめたくなったが頭を撫でるだけに留めておいた。


「…ほら、どの依頼にするのさ」


 掲示板の前に移動したコハルちゃんがそんなことを言う。なるほど、パーティは組んでくれるようだ。

 オレたちも全員で掲示板の前に移動する。


「えーと、コハル、さん?は冒険者ランクはいくつなの?」


「……コハルでいい、ボクは特級Bだよ」


「へー!特級B!すごいな!

 あっ!わかった!じゃあ、コハルって呼ばせてもらうね!オレもライでいいから!」


「そっちのランクは?」


「オレたちのランクはこんな感じ」

--------------------

ソフィア

 上級A

オレ

 上級B

リリィ

 上級C

ステラ

 上級C

ティナ

 中級C

--------------------


「ティナは最近冒険者になったばっかだけど、精霊魔法が強いよ。実力的には上級以上はあると思う。このパーティだと上級Aは普通にこなせることが多いかな」


「ふーん、上級揃いなんだ。言っとくけど、そっちに合わせたりしないから」


 ふむふむ、なかなか気難しそうな子だ。


「おっけ。お手並拝見ということで、最初は好きに動いてくれていいよ」


「じゃあこれ、上級Aの討伐依頼」


「わかった、それにしよう」


♢♦♢


-クルーセオ鉱山 洞窟内-


「コハル!右!」


「わかってる!」


 ステラが左手からくる攻撃を弾いてモンスターを倒しながら、コハルに注意を呼びかける。


「後ろのカバーは任せろ!」


 前衛2人に対してオレは中間に位置していた。


 今は、デカいアルマジロのようなモンスターを10匹ほど相手にしている。熊くらいデカい。コイツらも昨日のトカゲのように外皮が石のようだ。


「やはり!銃というのは面白いのう!」


 ティナが走りながら、両手にリボルバーを構えて、バンバンと乱射している。弾頭から発射されるのは、実弾ではなく、圧縮された風だ。


 直撃したアルマジロは身体に無数の穴を開けていた。ガンナーエルフは素早い動きで銃を扱っていて、なかなか様になっていた。


「ちょっと!わたしにも残しておきなさいよね!ウォーターレーザー!」


 穴まみれの瀕死のアルマジロは、ソフィアの水魔法でとどめがさされる。


 オレは、全体を見渡すことを意識していると、コハルが一人最前線で孤立し、3匹に囲まれていた。そして、攻撃をさばききれず1匹からかすり傷をもらってしまう。


「コハル!被弾したら下がって!」


「……」


 答えてはくれないが、コハルはリリィのところまで下がってくれる。リリィが回復している間、オレがカバーに入って回復の時間を稼ぐ。


 そしてすぐにコハルが前線に復帰した。


 敵の数が多かったから、少し時間はかかったが、そこまでヒヤヒヤすることもなく、倒しきることができた。


「いい感じに連携できてたんじゃないかな!」


「そうですね!」


「……あなた、えっと、ステラさん」


 コハルがステラに興味を持ったようで話かける。


「ステラでいいですよ♪」


「じゃあ、ステラ、ステラってホントに上級なの?もっと強い気がするんだけど」


「ええ?ホントですか?ありがとうございます♪」


「ステラはもともと冒険者じゃなかったけど、戦う仕事についてたからね、強いんだ」


「ふーん……それに、魔法使いの2人もすごく強い」


「だよね!2人とも天才だから!」


 ソフィアとティナも笑顔になる。


「あの……リリアーナさん、さっきは回復ありがとう」


「いえいえ、コハルさんに大事が無くて良かったです」


 なんだよ!ちゃんとお礼もできるいい子じゃん!

 死神なんて言ってるやつら最悪だな!


「………ライ、あなたはもっと修行したほうがいいよ」


 あれ?オレだけ酷評だな、まぁいいか。


「ははは、そうだよねー。ステラに修行付き合ってもらってるんだけど、なかなか上達しなくってね」


「動きはいいのに、剣の基本がなってないのが、すごく気になる。気持ち悪い」


「おぉー、なんだか的確なアドバイスだ。もし、よければ具体的にどうすればいいか教えてくれないかな?」


「……」

 無視されて向こうにいってしまった。


 すると、コハルはアルマジロの爪を剥ぎ取ろうとする。


「あっ!剥ぎ取りはオレの仕事だから!」


「え?なんで?自分で倒した分はボクがやるよ。……それに前のパーティだと全部やってたし」


「なんで?結構な人数だったんでしょ?」


「わかんない。そう言われたから……」


「ふーむ?まぁいいや!オレ剥ぎ取るのが好きなんだ!任せてよ!」


「……」


 コハルの作業を制止させて、オレが離れていくと、ソフィアがコハルに近づいていった。


「わたしたちも手伝うって何度も言ったんだけどね。

 〈汚れ仕事は男がやるから!お嬢さん方は休んでて!〉だってさ、変なやつよね」


「……うん、変なやつ」


 オレがモンスターの素材の剥ぎ取りを終えるのを待って、みんなで帰路に着く。結構深くまで潜ったので、途中のひらけたところで休憩することにした。


 適当なところにアイテムボックスからイスを出して、焚き火を起こす。


「みんなアイテムボックス使えるの?」


「うん、コハルは?」


「……使えない」


「もしよければ、これから依頼を受けるときは荷物預かろうか?邪魔だよね?」


 コハルは背中にリュックを背負ってきていた。


 戦うときはその辺に置いていたし、突然モンスターに襲われたりしたら邪魔になりそうだなと思ったから、預かることを提案してみる。


「……」


「あー…わたしが預かろうか?」

 なにも答えないコハルに対して、ソフィアがフォローしてくれる。


「いいの?」


 お、ソフィアとは話してくれるようだ。


「うん、いいわよ」


「……助かる、助かります。えっと、ソフィアさん」


「ソフィアでいいわ。それにため口でいいわよ」


「ありがとう、ソフィア」

「ピー!」


 コハルの肩の鳥が鳴いた。お腹でもすいたのだろうか?


 コイツは戦闘の時は後ろの方でちょろちょろしていたので怪我はしなかったが、一撃もらえば致命傷になりそうな小ささをしている。

 正直心配だ。ペットなら冒険には連れてこない方がいいと感じていた。


「えーと、その子は?」


「ピーちゃん」

 コハルは指でその鳥を撫でる。


「冒険に連れてくるのは、危なくない?」

 思っていたことを質問してみる。


「ピーちゃんはスゴイ子だから大丈夫」

「ピー!」

 嬉しそうに鳴く赤い鳥。


「そ、そうなんだ」


 あ、そういえば昨日、謎のアドバイスが出てたな。ダイコンの葉っぱと豆を入手せよ、ってやつ。

 もしかして、と思って、それらをアイテムボックスから取り出す。


 すると、「ピー!」と鳴きながらオレの頭にピーちゃんがとまってきた。


「あっ、ピーちゃん…」

 コハルが驚いた顔をしている。


「おっ?食べたいの?」


「ピー!」


「はい、どーぞ」


 オレが葉っぱを頭の上に掲げると、ハムハムとついばみ出した。


「なによそれ!かわいい!わたしもやりたいわ!」


「私もいいですか!」


 オレが赤い毛むくじゃらに餌を与えているのを見て、女性陣の目が輝きだした。どうやらこの鳥さんは、女性に大人気のようだ。

 レディたちのリクエストにこたえて、みんなの掌に小さい豆を少しずつのせてやる。


「ピーちゃん、あっちにもご飯あるよ」


「ピー!」


 ピーちゃんに声をかけると、うちの女神たちの掌に飛んでいき、順番に豆をついばみ出した。羨ましいやつだ。


「ピーちゃんが懐くなんて……ボクにしか近づかなかったのに……」


「そうなの?まぁお腹すいてたんじゃない?」


「……」


 ムッとされてしまった。軽口のつもりだったが、2人の絆を軽く見られた、と感じたのかもしれない。


「ご、ごめんなさい…失礼なことを言いました…」


「……」


 すぐに謝罪するが、特に反応はない。


「この子はモンスターじゃな?」


 ティナがピーちゃんを撫でながら質問する。


「……なんでそう思うの?」


「魔力を感じるからじゃ」


「……そう、その子はファイヤーバードの子ども」


「なるほどの、モンスターであれば人の敵意や悪意に反応するのやもしれん。わしたちにはそれが無いからかもしれぬの」


「……そうなんだ。ピーちゃん、美味しかった?」


「ピー!」


 ピーちゃんがコハルの肩に戻って元気よく鳴いた。どうやらお腹いっぱいになって満足したようだ。


 このイベントで、コハルとの距離感をピーちゃんが縮めてくれたような気がした。 

 さすが攻略さん。いいアドバイスだ。


 その後、それぞれ温かい飲み物を飲んでから、のんびりとデルシアに戻った。


♢♦♢


 ギルドに着いたら報酬の分配を行う。分配の割合はいつも通り人数割りだ。コハルも納得してくれた。


「じゃあ、明日もよろしくな!」


「……うん、よろしく」


 そう言って、コハルはルカロさんの方に歩いていった。今日の冒険について話しているのかな。


 その後ろ姿を少し見てから、オレたちは宿に帰った。


 初日のコハルとのコミュニケーションはなかなか上手くいった気がする。攻略スキルを確認。

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コハル・カグラザカ

 好感度

  19/100

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 好感度は少し上がっていた。このまま無事、コハルの攻略は進んでいくのだろうか。

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