第106話 5人目はボクっ娘ポニーテール

-翌朝-


 すっかり毒が抜けたオレは、スッキリとした頭で次の行動を考えていた。


 いや、その前にちょっと反省をしておこう。昨晩のオレの行動についてだ。

 さすがにアレはキモすぎた、幼児退行はよくない、よくないよね。


 でも、ステラとリリィは甘やかしてくれたから悪くない。そこだけを思い出すと悪くなかった。いや、むしろ素晴らしかった。

 つまり、甘えるのはアリだけどキモすぎるのは無しだから、今後は良い感じに甘えることにしよう。

 うん、そうしよう。


 こうして勝手に納得したオレは、本題について考えることにする。


 デルシアの町に来た本来の目的!

 それは!剣の先生を探すこと!

 もとい!新たな美少女に出会うため!である!!


 攻略スキルを開いて、以前検索した彼女がマップでどこにいるか確認する。赤い点の場所を見ていると、今は町の中を歩いているようだった。


 この方角は、ギルドに向かっているのかな?と検討をつける。


 昨日の夕食時に店の店員にギルドの場所は聞いてあったので、ざっくりとした場所は把握済みだった。


 オレは、みんなが起きるのを待って、ギルドに向かうことにする。


 ギルドの方に向かいながら攻略スキルを確認すると、例の美少女はすでにギルド内にいるようだった。やはり冒険者なのだろうか。


 ギルドに到着したので、外観を見まわしてみる。デルシアの冒険者ギルドは、黒っぽい石造りの立派な洋館、といった雰囲気でカッコいい建物だった。


 中に入ると、冒険者で賑わっていて、依頼が豊富なことが伺える。


 パッと見の印象では、上級職の冒険者が多く、初心者はほとんどいないように見える。その理由は、掲示板を確認したらすぐにわかった。

 ほとんどの依頼が上級以上なのである。1番下の難易度でも中級Aの採掘依頼。鉱石の種類によっては、上級Aの採掘依頼もあり、はじめて特級Cのモンスター討伐の依頼書も見ることができた。


「へー、特級の依頼ってホントにあるんだね」


「そうね、わたしもはじめて見たわ」


「しかし、わしのランクを上げないと受けれないのう」


 そう、特級の依頼はパーティ全員が上級になっていないとダメなのだ。ティナのランクはまだ中級Cなので、もう少しランクを上げないと受けることができない。


「そうだね、まずは上級Cあたりから様子をみて、ティナのランク上げをしていこうか」

 オレは言いながら依頼書を持って受付に向かう。


 こっそり目を閉じて確認すると、攻略スキルのマップ上では、そろそろお目当ての子に遭遇しそうだった。


「だから!ボクは1人でも大丈夫だって言ってるでしょ!」


 ボク?ボクって言った?まさか…


 受付では、受付嬢らしき女性と冒険者らしき女の子がなにやら言い争っていた。

 2人とも女性だ。つまり、片方はボクっ娘ということになる。


 ワクワク。


「ダメよ!1人で特級の依頼なんて許可できないわ!」


「ギルドの受付嬢にそんな権限ないはずだよ!」


「私は友達として止めてるの!」


「もう!ルカロのバーカ!」


「ちょっと!コハル!待ちなさい!」


 受付嬢となにやら揉めていた女の子が踵を返して近づいてくる。


 腰に2本の双剣を携えた、その子は、栗色のウェーブがかった髪の毛を頭の後ろで纏めていた。


 ポニーテールだ。そのポニテの付け根には大きめの白いリボンが、垂れたウサミミのように結ばれていた。

 ポニテの長さは肩から少し下くらいで、前髪から続くもみあげも、ふわふわと肩あたりまで伸びていた。


 身長はリリィと同じくらいだ。


 服装はノースリーブの白いシャツに赤いラインが入っている。そのシャツはお腹のあたりで左右に開いていくデザインで、おへそが丸見えだった。


 そして、腰まで伸びる赤いマントを羽織っていて、勇者パーティの勇者様のような風貌であった。


 下は、黒い短パンを履いていて、膝上あたりまでの黒いニーソを装着、大きめの絶対領域を覗かせていた。

 短パンとニーソに挟まれたムチムチな太ももがとても素晴らしい。靴はくるぶしまでかくれる茶色いブーツだ。


 お顔を見てみよう。さっきまで喧嘩していたせいか機嫌が悪そうな表情だが、大きなクリっとした目のおかげであんまり怖くはない。

 赤みがかった瞳、大きい目だ。目の色に合わせるように、耳には赤い宝石のピアスが付けられていた。


 うん、すごく、めっちゃ可愛い。

 ポニテ美少女最高やん。


 オレは、攻略対象の女の子との初対面で失敗しないよう、必死に冷静になろうと努めていたが、内心テンション上がりっぱなしであった。


 それにしても、あれはなんなのだろう?


 最後に、その子の特徴として、無視できないほど主張しているものがいる。


 その子の肩には、真っ赤な鳥がとまっているのだ。最初、人形か?と思った。しかし、そいつと目が合ったら、

「ピー」っと鳴かれた、生き物だ、生きた鳥だった。


 その赤い鳥が鳴いたおかげで、ポニテ美少女もオレの方をチラリと見たが、特に気に留めることもなく、そのままズンズンと通りすぎて行ってしまった。


 あの子だな、間違いない。

 だって!めちゃくちゃ可愛いもの!


 それにしてもボクっ娘かー!


 ボクっ娘なのにボーイッシュ系じゃなくて可愛い系なのがギャップがあっていいね!

 それに!双剣とか厨二病感あってたまらんな!カッコいい!


 オレは、テンションが爆上がりしながらも、コハルと呼ばれたその子には話しかけず、受付嬢の方に近づいた。まずは情報収集からだ。


「あの、どうかしたんですか?」


「え?あぁ……ちょっと友人と喧嘩をしてしまって…」


「なんか、1人で特級の依頼を受けるって聞こえてきましたが、あの子ってそんなに強いんですか?」


「えぇ、まぁ、このデルシアでは1番強いと思います。あの、あなた方はデルシアには初めていらしたんですか?」


「はい。昨日着いたばかりです」


「なるほど、そうなんですね……あの!もし良かったから!さっきの子、コハルというんですが、あの子とパーティを組んではいただけないでしょうか?」


 マジかよ、願ったり叶ったりだっ。


「……その、なにか事情があるんですか?」


 すぐに飛びつくのも怪しい。じっくりいこう、じっくりだ。


「いえ…その…」


 やっぱり、なにか事情がありそうだ。受付嬢は言い淀んでしまう。


「ルカロちゃーん、新顔に死神をあてがうなんて趣味が悪いぜ〜」


 オレたちの会話を聞いていたのか、なんだか性格が悪そうなヒョロイ冒険者が近づいてきた。


「キースさん!死神なんて呼び方やめてください!」


「ははは!ルカロちゃんがなんて言おうが、あいつは死神さ!あいつのせいで俺のパーティは壊滅したんだからなぁ!」


「そ、それは!全部がコハルのせいだなんて分からないじゃないですか!」


「あーん?俺がウソついてるってのか!長年、デルシアでトップクランのメンバーだったキース様の証言だぞ!」


「……」


 受付嬢が黙ってしまったので、かわりに追い払ってあげることにする。


「えっと、いろいろとご親切にありがとうございます。こちらはもう大丈夫ですので」


「おう、そうか。にいちゃんは物分かりがよくて良かった。あんな死神とは関わんなよ〜」


 そいつは、言いたいことだけ言って、ひらひらと手を振りながら奥に引っ込んでいった。


「あの、事情はなんとなくわかりましたけど、そのトップクランが壊滅したのっていつの話なんですか?」


「……半年ほど前のことです。6名からなる実力派揃いのクランだったんですが、そこにコハルが加わって7人になりました。そして、特級Aクラスのモンスターを討伐に行って……」


「帰ってきたのは、さっきの男とコハルさんの2人だけ、ってことです?」


「……そうです」


「そして、その責任をなすりつけられているってことですね」


「そうです…コハルはなにも弁解しないし、キースさんが言いたい放題言ってるんですが、昔からデルシアにいたキースさんを信じる声が多数で…」


「彼女と組んでくれる人がいなくなった、と」


「…はい」


「ソフィア、どう思う?」


「なにか事情があるかもしれないわ。組みましょう」


「え?」


「ソフィアならそう言ってくれると思った」


 なぜかって?

 ソフィアもギルドで上手くいかなかった口だからだ。あのときはソフィア自身にも問題はあったが、人間関係なんてちょっとのスレ違いで上手くいかなくなってしまう。


 コハルちゃんにもなにか事情があるんじゃないかって、オレとソフィアにはすぐに感じ取れた。


「と、いうことで、オレたちは彼女を歓迎します。そのことを、えーと、ルカロさん?からも伝えてもらえますか?」


「はい!ありがとうございます!コハルには私の方から伝えておきますので!よろしくお願いします!」


「いえいえ、オレはライ・ミカヅチ。しばらくデルシアに滞在するので、いつでも声をかけてください。今日のところはこの依頼を受けますね」


 オレは、ルカロさんに掲示板から持ってきた依頼書を渡し、依頼受注の手続きをしてもらう。


 そして、ひっそりと目を閉じて、コハルちゃんのことを『攻略対象に設定』と念じる。


 5人目の嫁候補は、双剣使いのボクっ娘短パンポニーテールだ。

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