第98話 旅立ち、子どもたちとの別れ

「あー!ティナねぇね指輪つけてるー!」


 オレたちが結ばれたことを報告する前に、ノアールがティナの指輪に気づき駆け寄ってきた。

 その様子をみんなが注目して、それぞれビックリしたり、やっとくっついたかと笑顔になったりと、様々な反応を見せてくれる。


 宿のロビーには、妻たち、子どもたち、全員が集まっていた。


「じゃあじゃあ!ついにティナも落ちたんですね!」


 言い方はあれだが、その通りだ。あれな言い方をしたステラが目を輝かせて聞いてくる。


「うん。ティナもオレのお嫁さんになってもらった」


「いいな!いいな!パパ!ノアもパパのお嫁さんになりたい!」


「ははは、ノアールが大きくなって、まだパパのことが好きだったら結婚しような」


「うん!約束だよ!」


「うん、約束だ」


 よしよしと、ネコミミ幼女のわが娘の頭を撫でる。


「それでじゃな、みなに聞いてもらいたいのじゃが……

 わしはライの妻になった。つまり、わしもライたちについて、旅に出るつもりじゃ…寂しい思いをさせてすまんが…」


「オレたちなら大丈夫!ティナねぇちゃんはライにぃちゃんたちと一緒に行って!」


「うん!やっと好きな人ができたんだもん!ティナおねぇちゃんの好きにしていいんだよ!」


 ティナが話し終わる前に、カイリとユーカが祝福してくれる。


「そうか、ありがとう」


 賢くて理解のある子どもたちだ。


 トトとキッカも、「おめでとう」なんて言って、ティナの手をとっていた。


 唯一、ノアールだけが寂しそうな顔をしている。


「パパ……ノアも…強くなったら連れて行ってくれるよね?」


 以前の約束をもう一度聞いてくる。


「うん、もちろんだよ。約束したもんな。パパは約束を守る男だ」


 オレはしゃがんで、ノアールの目を見て、頭を撫でる。


「わかった……なら、寂しいけど、我慢する」


「ノアールは賢いな、いい子だぞ」


「うん…」


♢♦♢


 そして、それから3日後、オレたちはウミウシをあとにすることに決めた。


 温泉宿に住んでいる教会の人たちや、町の人たちに一通り挨拶を済ませてから、一度ガルガントナに寄るために馬車乗り場に集まる。

 今から、ガルガントナ行きの馬車にのるところだ。


 見送りには子どもたちが全員で来てくれていた。


「みんな、元気にやるんだぞ。困ったときは、宿のシスターに相談するように」


「はい!」


「それと、定期的にみんなの様子を知りたいんだけど、誰かオレと主従契約を結んでくれないか?

 契約すれば離れてても意識共有ができるんだ。もし、嫌だったら大丈夫だけど」


 子どもたちは奴隷にされたトラウマがある。だから、こういった契約はイヤかもしれない。


「パパ!ノアがする!契約したら指輪もらえるんでしょ!」


「うん、そうだね、いいのかい?」


「うん!ノアもパパのお嫁さんだから!」


「ん?うーん?ノアールがいいなら契約してくれると助かるな」


 まぁいいか、子どもの言うことだし。


「よし!それじゃ、契約しよう」


「汝、ノアールは、我、ライ・ミカヅチを主人と認めるか?」


「みとめます!」


「それじゃあ…あー、どの指につけよう?」


 結婚するわけではないので、薬指につけるのは少しためらった。


「この指!」


 しかし、ノアールからは薬指を指定される。


「お、おっけー…」


 大丈夫だろうか?この子、ホントにオレと結婚したいとか思ってないよね?

 まぁ、今はそうでも大人になったら気が変わるか、と勝手に納得しながら、ノアールの薬指に指輪をつける。


 すると、ノアールの指輪に光が集まり、ライ・ミカヅチと刻まれた。


 オレも人差し指に2本目の指輪をつけると、ノアールの文字が刻まれる。


「わぁーい!これでノアもパパのお嫁さんだね!」


「ん?うーん、ノアールが大きくなったら、ちゃんと考えような?」


「ノアはパパが好き!」


「ん?うん、ありがとう。いや、でもね?」


「パパ!しゃがんで!」


「え?わかった」


 なんだろうと思いながらも、オレがしゃがむと、


 むちゅ、ガチン!


 ノアールが顔面めがけて突撃してきた。そして、歯と歯が激突する。


「いたーい!でも!キスしたから!これでお嫁さんだもん!」


 そう、頭突きかと思われたそれは、

 なんとも乱暴なキスであった。


 歯は当たってしまったが、ふいに唇を奪われたのだ。


 ノアールはまだまだ小さい子どもなのだが、なんだか恥ずかしい。


「ははは…」

 と、恥ずかしさを誤魔化してノアールの頭を撫でる。


「自分の子どもに手を出すなんて…」


「え!?ソフィア!?」


 ソフィアがドン引きした顔でオレのことを見ていた。


「ノアールにパパを取られちゃいましたね、ふふ」

 リリィは笑っていた。


「親子丼ですか!?」

 ステラ、おまえは後でお仕置きだ。


「よ、よし!それじゃ!オレたちは行くから!みんな無理はせずに楽しくやってくれ!ノアール!困ったらすぐに連絡していいからな!」


 オレたちはそれぞれ別れを惜しんで、馬車にのる。


 子どもたちは、誰も涙を流さずに元気に手を振ってくれた。


 その様子をティナが手を振りながら眺めている。


「あの子たちが、笑顔でいられるのも、おぬしのおかげしゃな、ライ」


「いいや、ティナががんばって、みんなを守ったからだよ」


「ふふ、お主は謙虚なやつじゃな。キス…してもよいか?」


「うん、もちろん」


 そっとキスを受け入れる。


「これからよろしくなのじゃ」


「こちらこそ」


 こうして、オレたちはウミウシを後にした。

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