第92話 俺たちの店が完成した日

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ティナルビア

 好感度

  1/100

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 ……うん、わかった。もう見ない。


 好感度なんてもう見ないんだから!


 ガルガントナにきて、教会の人たちをスカウトした帰り道、オレはティナに「自分のことを男として意識してくれ」、と頼んだ。


 ティナは、「わかっておる」、と言ってくれた。


 でも、残念ながら好感度には影響が出なかった。


 んー……なんでだよ~……


『攻略さん、なんか攻略方法間違ってませんか?』


『……』


 攻略さんからは新しいアドバイスはないし、返事もない。


『てことは、順調に攻略進んでるってことでイイんですよね?』


『……』


 おっけ、まぁ何もないのはいい知らせってことで。


 数日前にも同じことを思ったはずのオレは、考えるのをやめて次の行動に移ることにした。


♢♦♢


 ガルガントナでの用事を済ませたオレたちは、ソフィアの新しい服を受け取ってから、みんなでウミウシに帰ってきた。


 ソフィアのオーダーメイド服は、超絶キュートで、宿でみんなに見せても大好評だった。もちろんオレも可愛すぎて倒れそうになったほどだ。

 チャンスがなかったので、召し上がることは出来なかったが、機を見て絶対食べようと思う。

 これは絶対だ、もぐもぐ。


 それはそれとして、ウミウシに帰ってきてからは、子どもたちとお店の運営について詰めていった。


 運営方針、実務的な詳細については、建物が完成するまでには、ほぼ完璧なところまで話し合うことができて、時間が余ったのでマニュアル化まで完了したほどだった。


 そして、今日は待ちに待ったお店の完成の日だ。


 建築会社の担当者に案内されて一足先に完成検査をした後、引き渡しの手続きを終えて、鍵を受け取ってから、みんなを連れてお店に行く。


「うぉー!これがオレの店かー!」


 食堂の扉を開けると、カイリが真っ先に入っていき、中で雄叫びをあげていた。それに続いて、みんなも入店する。


 中は、ナチュラルな海辺の別荘といった雰囲気だ。木材を白く塗って壁一面に貼ってあり、天井には木製のファンが吊るされてゆっくりと回っていた。

 照明器具は、船に使われるようなデザインのものを採用した。

 そして、飾りとして、船を操船するための舵や、係留ロープなんかを壁面に飾っている。

 見方によっては、品のいい海賊船という感じだろうか。


 元の世界ならカリフォルニアスタイルなんて言われそうな内装だった。


「キッチンも広くって料理がしやすそうですね」


「だね!ステラねぇちゃん!」


 料理人の2人がキッチンの出来栄えをチェックしながら話していた。


 20組くらいが座れる客席の奥にはキッチンがあり、5、6人が同時に料理しても余裕がありそうなほど広い立派なキッチンだ。


「釣具屋の方も可愛くできてるよー!」

 ユーカが呼ぶのでそっちも見に行ってみる。


 釣具店には、食堂からも外からも入れるように2つの扉があって、今回は食堂側の扉を開けて釣具屋に入店する。

 そこには、釣り竿がずらっと並んでおり、リールや釣具なども陳列されていた。


 内装としては、可愛い雑貨屋のイメージで、壁は木を腰壁のように貼り付けて、腰壁の上側は漆喰で白く塗られている。

 店内には観葉植物をいくつも設置していて、照明器具はまん丸なガラス製のものを採用した。

 まさに、女子がデザインしたって感じのかわいらしい店だ。


「いい感じだね、あとは居住スペースか」


 オレたちは一旦外に出て、お店の後ろ側にまわりこむ。


 そして、そちらに設置された居住スペース専用の扉を開けた。


 一階部分はほとんどがお店になっているので、玄関を開けたらすぐ目の前が食堂への扉で、その隣に階段がある。階段を登った先がみんなの家だ。

 

 みんなで階段をのぼっていく。


 階段の先には、まずリビングがあって、お風呂や洗面所、トイレももちろんある。この世界ではお湯が出るインフラがないため、魔道具を使って、お風呂だけはお湯が出る仕組みを導入した。


 これは、宿の露天風呂を作るときに、魔道具を使えば温泉が湧いてないところでもお風呂が作れる、という話を聞いたので、子どもたちの家にも導入したのだ。

 ただ、この魔道具、結構なお値段がしたので一般の家庭には入れれないだろう。やっぱり、この辺をクリアしないと、あったかいお風呂の普及は難しいだろうな。


 そういえば、シャワーのアイデアを買ってくれたエマのやつは、順調にシャワーを普及できているのだろうか?と、冒険者の町オラクルで遭遇した変態防具職人のことを思い出す。


 まぁそれはいい。室内の見学に戻ろう。


 子どもたちは、それぞれが与えられた自分の部屋を見学しに行っていた。


 カイリとユーカは自分の個室を喜んでいたが、トトとキッカは同じ部屋がイイとのことで、しばらくは同じ部屋で寝るそうだ。


 ノアールは「屋根裏がいい!」と、子ども特有の秘密基地のロマンを追い求めていたが、普通の部屋をあてがった。

 まぁオレたちが居なくなったら勝手に屋根裏に移動してそうだけど。


 心配なので、夏は暑くなるから気をつけてね、と念をおしつつ、ユーカにノアールを監視するようにお願いしておいた。


「いやー、ここまでくるのに結構時間かかったな~」


「おーい、ラーイ!いるかーい!」


 嬉しそうにするみんなの姿を眺めながら一人感動を噛み締めていると、外からゴリシスターのアリアさんから声をかけられたので窓から顔を出す。


「すぐいきまーす!」


 アリアさんの周りには子どもたちが6人、そして年配のシスターも同行していた。


 それから、オレたちの仲間たちもつれて、全員で灯台の前の温泉宿に向かう。


♢♦♢


-温泉宿 玄関前-


 目の前の温泉宿は、外観からして、この世界にはない珍しい建物なのだろう。


 しかし、どこか落ち着く純和風のその建物はオレだけにとっては懐かしい趣の建物だ。

 ノアールのイラストを元に建築してもらった温泉宿は、見事にそのイラスト通りに出来上がっていた。


 ただ、瓦に関しては存在しない建築部材だったようで、特注すると建築費が高くなりすぎるって話になったので、瓦っぽい色の屋根にしてもらった。

 まぁそこは妥協だ、仕方ない。


 みんなをつれて、正面の入口から中に入ると、靴を脱ぐスペースと靴箱があり、ここでお履き物をお脱ぎ下さい、と立て看板がある。


 靴を脱いで木製の床に踏み入れると、受付と広いロビーがあり、壁は漆喰風のもので白く塗られていた。


 天井は木材が格子状に組んであり、照明器具は細い木で組んだあみあみのものを採用した。

 和紙で囲われた照明器具を入れようと思ったが、「そんなもんすぐ燃える」と怒られたのでやめておいた。そういう照明は、このあたりには存在しないらしい。


 客室は2階に10部屋あり30人ほどは泊まれるだろう。


 そして、一階にはこの宿の目玉、露天風呂がある。


 脱衣所の先を抜けると、崖上からウミウシの町と海が一望でき、素晴らしい景色が眺めれる露天風呂が作られていた。露天風呂には、水をお湯にかえる魔道具が設置されていて、コポコポと湯気をたてている。


 そして、受付にもどって、その裏の扉を開くと、従業員のための1人部屋が10部屋、小さめのキッチン、洗面所、お風呂、トイレも完備した。


 年配のシスターが1人、子どもが6人。そして、護衛の冒険者が2人、滞在しても足りる計算だ。

 もし、子どもが増えたら、申し訳ないが相部屋にしてもらうしかない。それだけの広さはある部屋なので問題ないだろう。


 そして、さらにその奥には小さい教会も作った。クロノス教の教会だよ、と体裁を保つためだ。


「どうですか?」


 一通り室内を見学し終わったあと、アリアさんに話かける。


「ど、どうって?いや、あんた、ホントにこれをあたしたちにくれるっていうのかい?」


「えぇ、所有権はオレのままですけど、好きに使ってもらって大丈夫です。家賃もいりません」


「いや、そりゃぁ……すごい有難いけど…」


「シスターアリア!ボク!ここに住みたい!」


 1人の男の子がゴリシスターの足元にきてスカートをつまむ。


「あぁ、そうかい、そうだよね」

 よしよしと頭を撫でるアリアさん。


「ライ」


「はい」


「世話になる」


 アリアさんは頭を下げた。


「いえいえ!こちらこそ護衛をお願いするので!よろしくお願いします!」


 オレも頭を下げた。


「はっ!あんた!謙虚すぎるのも嫌味だよ!」


「はっはっはっ!」と大きな声で笑われてしまった。


 教会の人たちは、今日はこの宿に泊まって、明日ガルガントナに帰って1週間以内には身支度して戻ってくる、ということになった。

 それについて了承して、宿の鍵を渡しつつ、宿の運営マニュアルを年配のシスターに渡しておく。価格設定も考えておいたが、わからないことがあれば聞いてください、と言って宿を出た。


 これでノアールたちの安全面は確保できた。


 つまり、子どもたちを自立させるための、当初の計画は全て完遂できたことになる。

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