第93話 釣り堀と温泉宿の開店
教会の人たちが温泉宿を運営すると同意してくれた翌日、オレたちは、温泉宿より一足先に、釣り堀と釣具屋、食堂を開店させるべく朝早くから準備をしていた。
準備といっても、メインで動いているのは子どもたちだ。あえて、オレたち大人は手伝わない。
子どもたちで店を回せるか、様子見するためだ。だから、オレたちは近くで見守るだけに留めている。
準備が無事に終わり、お店を開けると、ウミウシの町の人たちがたくさん来てくれて、大盛況な開店初日となった。
新しい商売をはじめる店には、町民一同が集まるのが伝統らしく、今回もそれにならって来てくれた、とのことだった。
それを聞いて、町の人たちに受け入れられたんだなと実感して嬉しくなる。
♢♦♢
この調子で次の日からも営業を続けていると、3日目あたりから、ディグルムに勧められた商人たちがガルガントナから何組も来てくれるようになった。
みんな初めての釣りに大興奮で、そしてステラ直伝のカイリの料理に舌鼓を打ってもらい、帰りには、みんな釣り竿一式を買って楽しそうに帰っていった。
「これは流行る!」
「また遊びにくるよ」
「くそ!またディグルムの旦那に先を越された!」
なんて口々に違う反応をしていたが、みんな笑顔だったので一安心だ。
それと、
「あの宿にはいつ泊まれるんだ!」
「中を見たい!」
とも言われたので、ノアールが作ったパンフレットを購入してもらい、期待に胸を膨らませてもらった。
そうそう、パンフレットというのは、ノアールの絵の才能を活かす方法として考えたことで、ノアールに宿や釣り堀の絵を描いてもらって、釣具屋で売ることにしたのだ。
観光客にこのパンフレットを買ってもらって、その人たちが故郷に帰ったときに色んな人に見せてくれれば、次の集客にも繋がるし、一石二鳥かなという作戦だった。
あと、釣り堀という商売を真似されないように対策を打っておくことにした。
今のところ、町の人たちとは仲良くしているが、あまり商売が繁盛しすぎると妬まれて真似してやろうと思われるかもしれない。
なので、釣り堀は真似しないように漁業組合で契約をして、その代わりに釣り船を提案しておいた。
これから釣りが流行ったら、釣り堀では釣れない大物を求めて釣り船に乗る人も出てくるだろう。
少ししたらウミウシは、〈海産物の町〉から〈釣りの町〉に呼び名が変わるかもしれないな、なんて思っている。
♢♦♢
こうして1週間、子どもたちだけでお店が運営できることを傍で見守った。
そして、教会の人たちがガルガントナからウミウシに移住してきたところで、温泉宿も開店させた。
こちらも初日から大好評だった。
宿が出来たことで、釣り堀で遊んでから温泉宿に泊まる、という観光客が増えてきた。
逆に、なにかの用事でウミウミに来た人が温泉宿に泊まって、その宿のパンフレットを買うために釣具屋にきて、ついでに釣り堀で遊んでいく、という導線も確認できた。
予定通り、お互いの店が客を呼び合う関係になれたのだ。
そして、1番大事な護衛の冒険者も上級以上の人がちゃんと来てくれていた。アリアさんに、子どもに優しい人をリクエストしたので、感じのいい人たちだ。
定期的に交代するようなので、今後もいい人が来てくれるといいのだが…
まぁそこはアリアさんを信頼することにしよう。
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