第91話 冒険者クラン 救いの十字架
お姉さんコーデのステラとえちちな一日を満喫した翌日、子どもたちのことはみんなに任せて、ティナと2人で冒険者ギルドに向かっていた。
「今日は2人で討伐にいくのか?」
「ううん、違うよ。少し話したい人たちがいるから、探しにいくんだ」
ギルドについたら、キョロキョロとあたりを見渡す。その人物は、目立つ見た目をしているので、すぐ見つかった。
彼女は、待合所のテーブルを囲んでクランメンバーと会話をしているところで、そこにティナと一緒に近づいて声をかける。
「こんにちは、アリアさん、今時間大丈夫ですか?」
「おぉ!ライじゃないか!ひさしぶりだね!ウミウシはどうだった?」
冒険者クラン〈救いの十字架〉のリーダー、ゴリシスターのアリアさんだ。
「お久しぶりです。ウミウシは良いところですよ。うちの子どもたちも気に入ってくれました。孤児院の子どもたちは元気ですか?」
「あぁ!あんたの寄付のおかげで元気にしてるよ!」
オレはウミウシに行く前、なんどか教会に足を運んで、ちょこちょこと寄付をしていた。ゴリシスターや教会の人たちに信頼してもらうためだ。
そのおかげでこの通り、アリアさんはオレと気軽に話してくれている。
再会の挨拶も済んだところで、本題を切り出すことにした。
「実は、ウミウシで新しい商売を始めることになりまして、その件でアリアさんに相談したいことがあるんです。ちょっとお時間もらえないですか?」
「商売?あたしに?あたしは冒険者だよ?」
「えぇ、もちろんわかってます。それと、できれば教会の方とも一緒にお話がしたい」
「わかった。あんたたち!今日はあたし抜きでやんな!それじゃあね!」
「姉御!男連れとは珍しいな!へへ!楽しんできなよ!」
「そういうんじゃないよ!あんたはホントバカだねぇ!ギムリ!」
「ひ、ひでぇ!」
この2人のやりとりは相変わらずであった。
♢♦♢
-クロノス教会 ガルガントナ支部-
オレはゴリシスターと教会を切り盛りする年配のシスターに向けて、ウミウシでの商売について話し始めた。
「それで、話というのはですね。今度、ウミウシで新しい娯楽施設と食堂をやることになりまして、そのすぐ近くに宿も作る予定なんですよ」
「へぇ、そうなのかい。ライ、あんた金持ちだったんだねぇ?」
「いえ、そんなことないですが、ディグルム商会と仲良くしてましてね。そのツテで色々と。あ、これが宿のイメージ図です」
オレはノアールのイラストを2人に見せた。まずは外観のイラストだ。
「へー、なんだか豪華な宿だね。泊まったら高そうだ」
2人は、イラストを覗き込みながら、一応リアクションはしてくれているが、なんで、こんな話をされているのか、わかっていない様子だった。
「それで、この宿には教会も併設するつもりなんですよ」
もう一枚、イラストを見せる。外観は宿になっているが、内装の一部は教会を模していた。
「宿に教会を?なんでそんなもん作るんだい?」
そこでやっと、自分たちに関連する話だと気づいたようだ。
「それはですね。この宿の運営をみなさんに任せたいからです」
「あ、あたしたちに?」
ゴリシスターと年配のシスターは顔を見合わせる。
「そうです。まぁ、オレに雇われるってイメージですかね?」
「い、いや、そうは言っても…あたしたちには、このガルガントナ支部があるし、子どもたちの世話がある」
「ですよね。なので、教会のシスターと子どもたちは、ウミウシに移住してもらいたい。そして、この宿で働くのは子どもたちだ」
「子どもを働かせるっていうのかい?そりゃ、賢い子や年長の子ならできると思うが…」
「私には、この支部を任された責任があります」
と渋い顔をする年配のシスター。
「でも、クロノス教の本部からは運営が厳しくても支援がないんですよね?」
内情はすでに2人から聞いていた。
「この宿に来ていただいたら、売上は全て教会の運営に当ててもらって構いません」
「は?あんた何言ってるんだい?あたしたちを雇うって話だろう?売上を全てって、あんたが儲からないじゃないか」
「元々儲けるつもりなんてないんですよ。
オレは売上じゃなくて、別のお願いがあって、アリアさんにこの話しをもってきました」
「聞こうじゃないか」
少し警戒するように、腕を組んで身構えるアリアさん。
「お願いしたいのは、オレたちの子どもたちの護衛です」
「護衛?」
「えぇ、アリアさんのクラン〈救いの十字架〉から、上級以上の冒険者を少なくとも2名、宿と食堂に常駐させて欲しい」
「なるほど?それはまたなんでだい?」
「それは、オレたち大人は商売が軌道に乗ったら旅に出るからです。子どもたちだけの店に何か悪さをするやつらが現れるかもしれない。だから、この店には冒険者の護衛がいるぞって、評判にしたいんです」
「なるほどね。たしかに、そうなれば下手に手を出すバカはいなそうだ。でも、それにしたって売上を全部もらうとなると、あたしたちに都合のいい話すぎるような気がするんだがね…
あれかい?なにかマズい点というか、問題があるのかい?」
不良物件でも押し付けられると思っているのだろうか、まぁ、うまい話には裏があるしね。警戒するのは仕方がない。
「いえ、懸念があるとすれば、現状のウミウシには観光客があまり来ないので、宿に客が来ないかもしれないってことですかね。
でも、その点は、これからはじめる娯楽施設で観光客が増えて解決すると思っています。
もし宿が経営できなくなったら、撤退してガルガントナに戻ってきてもらってもいいですよ。そのときは、オレのポケットマネーで護衛を依頼します」
「そ、そうかい?うまい話すぎるような気もするが……あんたが言うなら信頼できるのかね?」
「あ、それじゃあもう一つ。オレたちの子どもたちが勉強をしたいって言ったら教会で教えてくれませんか?その授業料も込みで考えてください」
「授業料?あんた、そんなのそもそもタダだよ」
「アリアさん、オレは子どもたちが安全に、元気に生きていければそれで良いんです」
オレは真剣な顔でゴリシスターと年配のシスターを見る。
「……」
ティナは黙って、その様子を伺っていた。
「………そうかい。そうか、あんたはそういうヤツだったね!わかった!面白い話だ!子どもたちにも話してみるよ!」
「ありがとうございます。では、建物が完成したら、みなさんをウミウシに招待します。あと一ヶ月ちょっとで完成するので、手紙を出しますね。そしたら、宿を見てもらって、いいなと思ったら移住してください」
オレはウミウシまでの往復の交通費を寄付してから、教会を後にした。
これで安全を買えるといいのだが、最後は乗り気に見えたし、あの様子なら大丈夫かな?
「おぬし、わしの子どもたち以外にも、子どもを救うのか」
「ん?いやまぁ、結果的にそうなると良いなとは思ったけど、あくまでカイリやノアールたちのためだよ。そのための安全策を考えてるんだ」
「そうか、おぬしはすごいな。商売だけでなく、わしたちがいなくなった後のことまで考えておるとは」
「そうかな?ティナに褒められるのは嬉しいな」
「ふっ、単純なやつじゃ。賢いのか、愚かなのかわからんのじゃ」
「一目惚れした女の子のためにここまでやるのはバカかもね」
「ははっ!そういえば、そうじゃった!わすれとったわ!たしかにそうじゃの!」
「むっ……ティナさん」
オレは立ち止まって、真剣な顔をする。
「なんじゃ?」
ティナも立ち止まり、オレの方を向いた。
「これまでの全部は、いや全部っていうと語弊があるか。オレにとっても子どもたちは大切だし。
いや、でもさ。とにかく、ティナ」
「うむ」
「今までのことは、オレがキミを惚れさせるためにやってることだ。
オレはキミを妻にしたいから頑張ってる。オレのことを男として見てくれ」
「むっ…むむ……は、恥ずかしいやつじゃ…」
ティナはオレから目をそらし、斜め下を向いて赤くなる。
「わかってくれるかな?」
「わ、わかっておる。さっきの忘れたというのは、その…軽口じゃ…
気にさわったのなら謝罪するのじゃ」
「そっかそっか!伝わってるなら大丈夫!ごめんね!急に真面目な顔して!」
「い、いや、大丈夫じゃ……」
ちゃんと伝わってるなら良かった。
そう思ってニコニコになったオレは宿に向かって、また歩き出した。
「ふふ……ホントに、おかしなヤツじゃのう…」
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