第78話 精霊魔法とはじめての子守り

「ティナはギルドでのモンスター討伐経験はある?」


「ない」


「そっか。じゃあまずは登録からだね」


 ガルガントナのギルドに着いたオレたちは、まずティナの冒険者登録からはじめることにした。

 ティナに登録用紙を書いてもらい、受付に持っていく。ランクはいつも通り、初級Cからのスタートだ。


「ティナって戦闘能力としては、どれくらい強いのかな?風魔法は使えるみたいだけど」


 トトたちを助けたときに、詠唱をしていたのを思い出して質問する。


「得意なのは風じゃが、精霊の力を借りれば他の属性も使える」


「ふーむ?精霊の力っていうのは、普通の魔法とは違うのかな?」


「精霊は、自身が認めて契約したものにしか力を貸さぬ」


 なるほど?ざっくりな回答であったが、それだけしか教えてくれない様子だ。


「そっか、まぁ、オレとステラがいれば上級でも大丈夫だと思うけど、ティナははじめてのモンスター討伐だし、中級Aくらいから行ってみようか」


 こうして、お留守番のリリィの代わりに、ティナが入った4人でモンスター討伐に向かうこととなった。


♢♦♢


「ステラ!右側は任せた!」


「はい!」


 オレたちは群れになっている狼型モンスターを倒していく、中級Aレベルだから大したことはない。あと、3匹だ。


「ティナ!風魔法を!」


 オレとステラが左右に引いて射線を開ける。


「風の精霊よ、力を貸したまえ、ウィンドブレード!」


 無数の風の刃が狼たちを切り刻む。そして、その刃は勢いを止めず後ろの木々を何本もなぎ倒した。

 オーバーキルである。


「すっげぇ威力…」


 優劣を付けたいわけじゃないが、ソフィアのウィンドブレードよりもだいぶ高威力だった。


「なによそれ……ウィンドブレードの威力じゃないわ…」

 とソフィア本人も言っている。


「精霊の力を借りておるからじゃ」


「ふ、ふーん…おもしろいじゃない…」


 なんかソフィアが対抗心を燃やしてるようだ。暴走しないか心配だ。


 オレたちはそのまま別の群れを見つけては、討伐を繰り返した。


 ソフィアは張り切ってはいたが、連携を乱すようなことはせず、冷静に対応してくれる、心配は杞憂であった。


 ある程度倒してから、モンスターの牙を剥ぎ取ってギルドに戻ることにした。


「あれだけ戦えるなら上級以上でも良さそうだね?」


「はい、私もそう思います」


「んー、じゃあオレがいるときは上級Bまで。いないときは上級Cまでにしてもらえるかな?」


「私がいれば大丈夫だと思いますけど?」

 とステラ


「心配なんだよ。わかってくれるかな?」


「はい♪わかりました♪」


 なんだか、「その言葉が聞きたかったんです♪」という反応だ。


 まぁいい、とにかく、これからの方針は決まったので宿に戻ろうと思う。


♢♦♢


-翌日-


 今日はオレが子どもたちの面倒をみる当番だ。


「みんなは上級Cまでを上限として依頼を受けてきてくれ。町から離れすぎない依頼を選んで、なにかあったらすぐに意識共有で連絡を。

 あ、あとエリクサー渡しておくから分散して持っておいて。皆の判断で使ってくれていいから」


 みんなが頷いて出かけていく。心配だ。

 でも、オレの嫁たちは強い、上級Cまでなら大丈夫だろう。そう確信があったから送り出したんじゃないか。


 自分に言い聞かせて、子どもたちに意識を集中する。


「よし!」


 そして、5人の子どもたちと向き合った。


 子どもたちは、みんな綺麗な服を着ている。昨日、リリィにお願いして、みんなの服を新調してもらったおかげである。

 奴隷にされてたときはボロボロの服だったから、だいぶ印象が変わっていた。ボロい服はティナのときと同じ理由でポイしておいた。


 うん!これが健全な姿!本来あるべき格好だよな!


 オレは明るい気持ちで、怖がられないように意識しながら話しかけた。


「あらためて!オレは、ライ・ミカヅチ!よろしく!ライって呼んでくれ!」


「……」

「……」

 5人の子どもたちから、特に反応はない。


「ライは、ティナねぇねの旦那様なの?」


 ノアールが話しかけてくる。黒髪の猫耳幼女だ。


「ティナはまだお嫁さんじゃないけど、いつか、そうなってほしいなって思うよ」


 しゃがんで小さいその子の目線を合わせてから答えた。


「ふ〜ん、ねぇねのことが好きなの?」


「そうだね、好きだよ」


「ノアもね!ねぇねのことが大好き!抱っこして!」


 笑顔で手を広げてきたので、リクエストに答えて肩車してやることにした。


「わぁーい!たかぁーい!」

 ノアールはご機嫌だ。


「じゃあ、みんなのことを教えてもらえるかな?好きなことや得意なことなんかを教えてほしいな」


「……オレは漁師の息子だから、料理ができる」


 カイリが答えてくれるようになった。ノアールと仲良くしているのをみて、少し心を許してくれたんだろうか。


「おぉ!それは凄いな!オレは料理あんまり得意じゃないんだ!」


「そ、そうかな?」


「そうだとも!じゃあ、お昼は魚を買ってきて、みんなで料理しようか!」


「う、うん」


「私は、本が好きで、だから文字が書けるのと計算ができます」

 とユーカが続いて答えてくれる。


「ユーカは賢いんだな!」

 頭を撫でてみる。


「……」

 特に嫌そうにはされない。そういえば、ユーカはメガネをかけている。才女の風格があるな。


 トトとキッカは、おどおどしながら、

「お掃除とかするとお母さんが喜んでくれたよ」

 と教えてくれた。2人は姉と弟とのことだ。


「2人とも偉いぞ!」

 両手で頭を撫でる。


「ノアは!お絵描きが好き!」

 頭の上でノアールがそう言う。


「そうかそうか!じゃあ!絵を描く道具を買ってあげよう!」


「えー!いいのー!やったぁー!」


「みんなも欲しいものがあれば、にいちゃんが買ってやるぞー!」


 そういうと、みんなの目が輝きだした。


 物で釣るのは気が引けたが、仲良くなるきっかけは必要だ。これくらいのずるは許してほしい。


 子どもたちは、なにを欲しがるかな。それを楽しみにしながら、オレたちは町に繰り出した。


♢♦♢


 まずは、ノアールに色鉛筆のセットと、お絵描きノートを買ってあげる。肩車したまま手渡すと、喜んでオレの頭の上で絵を描き出した。


 カイリには料理道具として、まな板と包丁。


 ユーカは難しそうな本と小説を欲しがった。


 トトとキッカは控えめな性格なのか、思いつかないようだったので、トトにはぬいぐるみ、キッカには騎士の人形をプレゼントした。


 みんな喜んでいるように見えた。


 それから、オレたちは市場にいき、魚や肉を仕入れて宿に戻る。


 宿の主人にお金を払ってキッチンを貸してもらい、みんなで昼食を作った。カイリは漁師の息子というだけあって、様になった腕前だった。この特技を何かで活かせればいいのだが。


 そのあとは、ユーカ先生のフォローもありながら、みんなで文字と計算の勉強をしてみたりした。

 ノアールだけが勉強するのを拒否して、ずっとお絵描きをしていたが、他の子は熱心に勉強している。しっかりした子たちだ。


「にぃに!できた!」

 ノアールはオレのことをにぃにと呼んでくれるようになった。


「おぉ!見せて見せて!……うめぇ」


 手渡されたお絵かきノートには、幼女が書いたとは思えないほど、うまい風景画が描かれていた。ガルガントナの商店街が描かれている。


「の、ノアールの絵はすっごく上手いな!」

 一瞬あっけにとられたが、しっかりと褒めて頭を撫でてやる。


「でしょー!ノアは絵がじょーずなの!」

 猫耳幼女は尻尾を振って喜んだ。


 こうして、オレの子守り1日目は終わった。


 なかなか順調なのではないだろうか?この調子で、みんなと仲良くなれるといいな。

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