第53話 雷龍キルクギオス
「雷龍キルクギオスにあいにいくぅ~?」
「あぁ」
「ライ様、それはどういう?」
「あんた、なに言ってるの?ステラにボコボコにされて頭おかしくなったの?」
これからのオレの計画を話すと、2人は心底不思議そうな顔になった。
……うん、ソフィアたん、キミはお仕置き確定だ。
「いや、だからシエロス山脈に行って、雷龍キルクギオスさんに会って、認めてもらって、剣をもらう。その剣はすごい力があるから、その剣の力を使って、ステラを倒して連れ出そう。ってこと。わかった?」
「いや、いやいや。そりゃステラを連れ出すことは、わたしもリリィも賛成よ?でも、雷龍キルクギオス?そんな昔話にしか出てこないような話、あんた信じてるの?」
というソフィアの反応は、旅の途中で話好きのじいさんが話していた昔話に出てきた名前だったからだろう。
だが、オレにはあのメモ帳があるので確信している。雷龍キルクギオスは実在するのだ。
「まぁ、確かに常識的に考えれば、そういう反応になるよね」
「えっと、ライ様はその話になにか根拠を感じているのでしょうか?」
「実はね、オレの故郷にも同じような言い伝えがあってさ。うちの故郷は雷属性魔法を研究していて、得意としてる人がたくさんいたから、シエロス山脈に行って雷龍様の剣を貰うんだー!って子供のころから聞かされてたんだよね」
作り話である。昨晩ざっくりと考えた。
「んー?まぁ、そう言っても、ねぇ?」
「えぇ……」
ソフィアとリリィが顔を見合わせて困り顔をする。
「わかった!1週間!1週間だけちょうだい!その間だけシエロス山脈を調査してくるから!ダメだったら他のことを考えよう!2人は町に残って、なにかいいアイデアがないか考えてていいからさ!」
「わかりました。ただ、必ず1日に一度は連絡をください。もちろん、危険な目に遭いそうなら撤退を。そして、わたしたちを呼んでください」
「うん!わかった!もちろんそうするよ!」
オレは2人を渋々納得させることに成功し、シエロス山脈に向かうことにした。
♢♦♢
リングベルから出て、すぐ隣のシエロス山脈に踏み入れると、そこには緑など一切なく、ゴツゴツとした岩のみでできた山が広がっていた。
頂上の方を見ても特に雪などは積もっておらず、そこまで寒そうではない。ただ、山の環境は変わりやすいと聞くので防寒具を買ってアイテムボックスに入れてきた。
「さぁいくか!」
オレは少しの不安と多めのワクワクを胸に歩き出した。まず、1日かけて、頂上付近まで登ることにする。
「ふぅ、結構高いな」
数時間登山し、後ろを振り返るとリングベルの全体像が見渡せた。
「もうひと踏ん張りだ!」
夕方になるころ、オレは歩いていける限界の頂上付近まで到着することができた。これ以上登っても足を踏み外して滑落しそうなのでやめておく。
『あ、リリィ、ソフィア聞こえる?』
『はい、聞こえてます』
『聞こえるわよ』
『今、頂上付近に着いたから』
『へー、それだけ離れててもしっかり聞こえるのね』
オレは2人と結んだ主従契約の能力〈意識共有〉を使って会話する。
これだけ離れた距離で試したのははじめてだったが、しっかりと会話ができて非常に便利なスキルだと実感していた。
オレは、2人の町での生活について確認しながらテントを張る。特に天候も悪くないので苦労せず設営できた。今日はここで休もうと思う。
-2日目-
オレは頂上付近から、頂上沿いに高さを維持しながら歩き出す。雷龍が居そうな洞窟とかを探すためだ。
「どこかにそれっぽいとこないかなー」
しばらく歩くと大きな縦穴を見つけることができた。下を覗き込むと真っ暗で何も見えない。
「うーん…」
いかにもな感じだけど降りる方法がないんだよな…
一旦スルーするか。
オレはそこを素通りして進んでいく。
その途中、ワイバーンであろうか、小さめの竜に遭遇した。グリフォンよりも小さく、竜というよりは翼の生えたデカいトカゲという印象だ。戦いにきたわけではないので、気付かれないように移動する。
その日はなにも成果を上げれなかった。
-3日目-
朝起きたらワイバーンが襲いかかってきた。オレはすぐに剣を構えて応戦するが、そこでふとメモ帳の内容を思い出す。
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雷龍キルクギオスに認められたものだけが、その剣を所持できる。
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雷龍さんは、自分の根城に土足で入ってきて、仲間の竜を切り刻んだ人間を認めるだろうか?
オレはそこまで考えて、ワイバーンからの逃走を選んだ。
-4日目-
今日も朝からワイバーンが襲ってくる。
なんなんだ一体。オレはそんなに美味そうなのか?
今日も逃げてから雷龍さんの姿を探した。
-5日目-
朝から3匹のワイバーンがモーニングコールをしてくれる。
はいはい、おはようございます。
オレはスルーして山を歩き回る。
-6日目-
「んー……そろそろ戻るか…」
なんの成果もあげられないまま、オレは来た道を戻ることにした。
「はぁ…そんな上手くいかないものだねぇ…」
約束の1週間まであと1日、とりあえず来た道を戻って、山頂からおりつつ周りを確認するしかない。
夕方になるころ、オレは初日の野営地点の近くまで戻ってきた。
「おー、やっぱりすごい縦穴だな、落ちたら助からないよな…」
なんとなく縦穴が気になり、覗き込んでみる。
『小僧、我になにか用か?』
「は?」
頭の中に直接声が聞こえてきた。
『まぁよい、こちらへこい』
どちらへ?
そう口にする前にオレの身体は抗えないほどの突風に見舞われ、底が見えない縦穴へと吸い込まれた。
「う、うおぉぉ!!」
全身から冷や汗が出る。
底の見えない真っ暗な縦穴、どれくらいの高さがあるかもわからない。
そして、風で飛ばされたことで手をのばしても岸壁には届かない。オレの身体は鋭い風をあびながらどんどんと高度を落としていく。
「こんなところで死んでたまるか!!」
両手を構えて「ライトニング!」をぶちかます。魔法の威力で浮力を得て着地しようという作戦だ。
オレの身体は少し上空に浮くが、すぐに落下を始める。ライトニングは暗闇に飲み込まれ地面にぶつかる音がしない。
「どこまで深いんだよ!?」
『小僧、なにをしている?あぁ死にはしないから安心しろ』
また頭に声が聞こえてくるが、なにを安心しろと!?
「というか!雷龍様ですか!?」
『そうだ』
「私は助かるのでしょうか!?」
『そうだと言っている』
「では、信じさせていただきます!」
オレは両目を見開いて両手を構えたまま、そう答える。
いざというときは、もう一度ライトニングをぶっ放す姿勢だ。
全然信じてなかった。
長い間落下していると、やっと底らしきところが見えてきた。
「ラ!」イトニングと唱えようとしたとき、またブワッと強烈な突風が地面から吹き荒れてオレの身体を浮かせた。
その浮力を保ったまま、ふわりをオレは地面に降り立った。
「は…はぁぁ!!死ぬかと思った!!」
オレは大量の冷や汗をかきながら、そう叫ぶ。もうちょっと穏やかにここまで運んで欲しかった、などと思ってしまう。
「それで何用だ、小僧」
オレは顔を上げると、そこには巨大な龍が寝そべっていた。
銀色の鱗に覆われたドラゴンだ。
角は左右に2本ついており、どちらも体の大きさに比べれば細く鋭い角であった。角は途中でギザっと曲がっている。雷マークのような感じで、雷龍という名前のイメージと合うと思った。
体の大きさはどれくらいあるだろう。長さは大型トラック2台分くらいだろうか。その幅にドップリとした肉の塊が付いている。
見たこともない怪獣だ。これがドラゴン、これが雷龍か。
「何も用がないなら、そこの横穴から帰るがよい」
オレが黙っていると雷龍様は興味を失ったらしく、帰れと言われてしまう。
「いえ!雷龍様にお願いがあって参りました!」
オレは焦って要件を伝えることにした。
ステラを助けるためだ。
せっかく雷龍様に会えたんだ。しっかり話さないと。
「ほう?申してみよ」
「雷龍様の剣をいただけないでしょうか?」
「剣だと?なぜ我のものを貴様にやらねばならぬ?」
「力を求めて、ここに参りました」
どう答えればいいか分からず、すぐに適当なことを言ってしまう。
テンプレ的なセリフを言っておけばいい。ゲーム脳がそう考えたのかもしれない。
しかし、それが良くなかった。
「力だと?また俗物か。我が眷属を傷つけない者であったから、我が根城に招いたが間違いであったか。帰るが良い、俗物の小僧よ」
「いえ!そのようなわけには!どうかお願いします!」
「くどい!帰れと言っておる!」
雷龍様が寝そべるのをやめて、首をあげる。
なんだこれ、リングベルの城壁より高くないか?
「どうしても力が必要なんです!」
「ならば!貴様が我が剣に相応しいか!試してやろう!構えるがいい!」
雷龍様は両足を地につけ立ち上がると、とんでもないことをオレに向かって言い放った。
オレは、意識共有を使い、リリィとソフィアに一言だけ連絡する。
『少し帰りが遅くなる』
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