第54話 龍に認められるには

「かかってこい!俗物!」


 目の前には巨大な龍、とても敵うはずがない相手だった。


 しかし、だからといっておめおめ帰るわけにはいかない。


 オレは手に入れるんだ、力を。


 そう思い、いつのまにか構えていた剣の柄に力をこめ、地面を蹴って駆け出した。動かない雷龍、まずはその足を斬りつける。


 ガインッ


 全力で斬りかかったはずだ、しかしその固すぎる鱗にオレの剣は弾き返された。


「何も感じぬわ!愚か者め!」


 怒りの声と共に、巨大な尻尾が左側面から飛んできた。


 受けたら死ぬ!


 オレは跳躍してギリギリのところでその攻撃をかわす。


「…はぁはぁ…んぐっ…」


 鮮明に見えた〈死〉のイメージ。


 尻尾を剣で受け、受けきれず剣ごとすりつぶされる未来。

 思い返して身体中に恐怖が染み渡る。


「まだやるか?」


 そんなオレの心中を見透かすように雷龍様が質問してくる。


 しかし、「もちろんです!」と答える。


 やめるわけにはいかない。


 次にオレは「ライトニング!」を試した。


 右手から発せられた雷は、勢いよく直進し、雷龍の胴体に直撃するが、ビリビリと全身に光の帯が浸透していって、そしてその光は消えていった。


「貴様、わしが雷龍だとわかったうえで、なにをしておる?」


「ですよね。雷が効くはずがないか、ははは」


「馬鹿にしておるなら死ね!」


 雷龍様を更に怒らせてしまったようで、全身がビリビリと光り出す。


 その光が角に集まったかと思えば、オレに向かって飛んできた。ライトニングなんて笑ってしまいそうな威力だと分かる。

 オレはその光をギリギリのところで避ける。だが、地面を伝って電撃が身体に入ってくる。


「ぐぎぎぎっ!?」

 ビリビリと感電して膝をつく。


「終わりか。つまらぬな、俗物よ」


 雷龍はまた寝そべる。

 なんだ?終わり?


「……ふぅふぅ……な、なぜ終わりだと?雷龍様?」


「ほう?貴様なぜ死なぬ?」


「……ふぅーー……えーっと、なんででしょう?」


「面白い。少し貴様に興味が湧いた。もうしばし相手をしてやろう」


 雷龍様は、寝そべるのをやめ、またこちらに向き直ってくれた。


「ありがとうございます!」



「はぁはぁ…」


『ライ様、今日の連絡の時間です。どうかされましたか?昨日の帰りが遅くなるというのはなんだったのでしょう?』


 意識共有でリリィから連絡が入る。


 リリィたちに連絡してから、もう1日も経ったのだろうか。戦っていたらあっという間に時間が経過したように感じた。


『きょ、今日帰るつもりだったけど、まだ無理そう』


『どうしてですか?』


『雷龍様と戦ってるから』


『は?あんたふざけてないで早く帰って来なさいよ』


『わかった。また連絡する』



「もう別れは済んだか?」


「別れる気はさらさらありません」


「ほう、根性だけはあるようだな、小僧」


 オレは何本目になるかわからないポーションを飲んで剣を構えた。



「ふむ、貴様は雷に対して強い耐性があるようだな。まだ死なないとは面白い」


「はぁはぁ……」


 オレは倒れそうになりながら、剣を地面に突き刺し、それを頼りに雷龍様の言葉を聞いていた。


「それでは続きだ、構えよ」



『ライ様、もう8日目です、早く帰ってきてください』


『……いや、まだ無理そう』


『あんた今どこにいるのよ!』


『雷龍様のとこ』


『バカなこと言うのはもういいから帰ってきなさいよ!』


「なんだ?また話しておるのか?どれ、我が説明してやろう」

『貴様ら、この小僧の妾か?』


『だ!だれよあんた!』


 主従関係を結んでいない相手からの突然の声にソフィアが驚く。


『我は雷龍キルクギオス、どれ、見せてやろう』


『こ、これは……』


 リリィとソフィアにオレの見ているものが共有されたのを感じる。オレの目の前には巨大な龍が無傷で佇んでいた。


『なっ!?なによこれ!』


『この小僧は力が欲しいと言う。ここ2日ほど相手をしていたが、そろそろ飽きてきたところだ』


 いいながら、オレは雷龍に鷲掴みにされた。


「ぐっ!」


『ライ様!』

『ライ!』


『この小僧を食ったら、腹いせにおまえらも食ってやろうかのう』


「…手を出すな」


「なんだ?」


「オレの女に手を出すなって言ってんだ!クソトカゲ!!」


「ほう?まだそのような口を聞けるか、小僧。もう少し遊んでやる」


『ライ様!!』

『ライ!すぐ助けに――』


 そこでリリィたちとの交信は途絶えた。



「……」


「もう立てぬか、小僧」


 オレは地面にへばりついて動けない。


 身体が重い。どころか感覚が無くなっていた。オレの身体はまだ五体満足なのか。それすらもわからない。

 かろうじて剣は握っているが、手に力は入らなかった。


「貴様に再度問おう、なぜ我が剣を求める?」


「力が欲しい」


「……つまらぬ答えだ」


「力を手に入れて、オレの女を助けたい」


「……ほう?それは命をかけてまでやることか?」


「オレは、オレの女は命を懸けて守ると決めてるんだ」


「……ふ。女を助けるためにこの雷龍に挑むか」


「そうだ。おまえなんかに負けない。クソトカゲ」


「ふふ、ふははは!小僧!貴様面白いな!名はなんという!」


「ライ・ミカヅチだ」


「よかろう!認めてやる!おまえは我が眷属に相応しいとな!

 ライよ!安心して休むがよい!我がお主を妾のもとへ運んでやろう!」


 どうやら、オレは雷龍に認められたらしい。


 そう認識できた途端、ギリギリで保っていた意識がプツリと途絶えてしまった。

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