第34話 大好きな仲間を侮辱された日

-ソフィア視点-


「はぁはぁ……わたし1人だって、こんなやつ倒せるんだから…」


 わたしはギルドで酔っ払いに喧嘩を売られて、そのままこのキマイラレーベの依頼を受けてしまった。


 最初はただの酔っ払いだから無視しようと思ったのだが、ライとリリィのことを引き合いに出されたら黙っていることは出来なかった。


「わたしだって、あいつらの仲間なんだから!」


 キマイラレーベと対峙しながら叫ぶ。


 すでに何発も上級魔法を打ち込んでいるが、あまり効いているようには見えない。ところどころ血は出ているが致命傷という感じではなかった。


 キマイラレーベが駆け出して、突進してくる。わたしは防御魔法で受け止めて、そいつを跳ね返した。


「くっ!」


 だけど、徐々にMPが減ってきたせいで、完全に防ぎきれず突進の振動が身体に伝わる。

 たまらず尻餅をついてしまった。


「はぁはぁ……くそっ、まだ、やれるんだから…」


 杖を両手で抱きしめながら、それを頼りに立ち上がる。


 そんなとき、森の木陰から1人の男性が飛び出してきた。


「ソフィア!!」


「ライ!?」


 なんでここに?とは聞く体力は残っていない。


 ライの後ろにはリリィもいた。「ぜぇぜぇ」と息も絶え絶えだ。全力で走ってきてくれたんだろう。


「う、わたし……」

 

 そんな2人を見て、わたしは泣きそうになってしまう。身体は動かない。


「ソフィア!そこから離れろ!」


 ライが剣を構えて走ってくる。


「え?」


 わたしがそう声を発したときには、わたしの太ももに蛇が噛み付いていた。


 さぁっと血の気がひく。


 キマイラレーベの毒は猛毒だ。



-主人公視点-


 やばいやばいやばい!

 ソフィアが噛まれた!

 毒が回ったら助からない!


「リリィ!解毒を!」


「はい!すぐに!」


 倒れているソフィアにリリィが駆け寄って解毒魔法をかけはじめる。


「てめぇ!」


 オレはキマイラレーベと向き合って剣を構える。こいつをどうにかしないとソフィアの治療はできないと判断する。


 自分の数倍もある体格の敵、今までにない強敵。

 だか恐れはない。

 オレの女を傷付けたことを後悔させてやる。


 オレは、すぐに駆け出して相手の攻撃をよけ、懐に潜り込んで前足と後ろ足を切りつける。


「まずはてめぇだ!」


 そのまま尻尾側に抜けて、尻尾から生えている蛇の頭を切り刻んだ。キマイラレーベは咆哮をあげながら倒れるがまた生きている。


 こちらを向いて噛みつこうとしてくるので、それを剣で受け止め、牙を叩き折った。

 そこでやっとこいつは逃げようと背を向けたので、背中に乗って剣を突き刺す。


「ライトニング!」

 剣づたいに魔力を流し込んで体内に向けて放つ。


 やつは一際大きな咆哮を放った、効いている。


「ライトニング!ライトニング!」

 やつの背中に乗ったまま、さらに2発叩き込んだ。


 そこで、やっと、やつの目から光が失われる。

 ズドン、とゆっくりと倒れ込んだ。


 そんなことはどうでもいい!


「ソフィアは!?」


 すぐにソフィアに駆け寄ると意識はあるようだった。


「ご、ごめんなさい…

 わたし、どうしても許せなくって…あいつに言われたこと…だって、2人は仲間だし…

 わたしに気を遣って一緒にいてくれてるわけじゃないって…証明したくて…」


「あたりまえだ!バカやろう!リリィ!容体は!?」


「解毒はずっとかけていますが!これは……っ!」


 ソフィアの顔は真っ青だ。


「絶対助けるから!死ぬな!」


 オレは蛇に噛まれたソフィアの太ももに唇を当て、毒を吸い出す。


「ライ様!いけません!ライ様にも毒が!」


「大丈夫だ!オレにはエリクサーが!」


 ああ!そうか!ここでエリクサーを使うのか!


 焦りすぎて今やっと気付く。


 すぐに箱からエリクサーを取り出し、「ソフィア!これを飲め!」と声をかける。


 ソフィアはヒューヒューと短く息をしながら空な目をしている。声は届いていなさそうだ。


「あぁ!くそ!」

 オレはエリクサーを口に含み、ソフィアに無理矢理飲ませた。


 唇を合わせるとソフィアは抵抗もなく受け入れてくれる。飲む力が残っていないようなので、こちらから送り込んでやる。


 コクッと喉が鳴るのを確認してから、何度か同じ行為を繰り返した。


 エリクサーの瓶が空になりかけたころ、ソフィアの呼吸は「スースー」と穏やかになっており、顔色もさっきまでより随分と良くなった。


 目はつむっている、眠っているようだ。


 オレは、瓶に残ったエリクサーを手に取ると、ソフィアの噛まれた太ももに塗り込んでやる。

 そうしたら、シューと煙をあげ、たちまち傷が塞がった。エリクサー様々である。


「よ、よかった……」


 ソフィアを膝枕しているリリィが泣いている。


 それを見て、助かったんだな、と実感した。


「本当に…良かった…」


 オレは心の底からそう呟いて、空を仰いだ。


♢♦♢


 ソフィアを担いでオラクルに戻ると、オレたちは自分の部屋に向かい、ソフィアを自分たちのベッドに寝かせた。

 ソフィアはまだスースーと眠っている。


「本当に良かったです」


 リリィがベッドの隣でソフィアの頭を撫でている。とても穏やかな光景だ。


「リリィ、無理に走らせてごめんな?」


「いえ、ライ様1人ならもっと早く走れたのに…すみませんでした」


「ううん、リリィがいなかったら解毒が遅れて最悪なことになってたかもだよ」


 そういって抱きしめた。キスはしない、愛情を確かめ合うハグだった。


「んん……ここは?」


「ソフィア!目が覚めたんですね!」


「リリィ?わたし、生きてるの?」


「はい!もちろんです!ライ様が助けてくれました!」


「ライが?」

 オレと目が合う。


「でも、どうやって?」


「エリクサーのおかげだよ。それで助かった」


「エリクサー?そんな高価な薬を?わたしなんかのために?」


「わたしなんかってなんですか!心配したんですよ!?」


 リリィが泣きながらソフィアに覆いかぶさる。


「え?」

 そのリリィの肩を確かめるようにソフィアは両手で掴む。


「わたしたちは仲間でしょう!?いえ!それ以上のはずです!もう1人で危ないことはしないでください!」


「あう、だって……わたし……ご、ごべん…ごべんなさい……

 あ、う、う、うぁぁ、うぁぁぁぁ!」


 ソフィアはリリィの涙と言葉を聞いて、大きな声で泣き出した。


 オレもそれを見て涙を流す。


 ソフィアの手に、自分の手のひらを被せると、泣きながら握り返してくれた。



 その日、オレたちの部屋のベッドにはソフィアとリリィが寝て、オレは机に突っ伏して寝ることにした。


 もう一部屋借りようかと思ったが、2人と離れたくなくて、こういう選択になった。


 朝になったら、ソフィアの体調はすっかり良くなっていたので、一緒にご飯を食べて、1日中一緒に過ごした。

 特に何をするわけでもないが、一緒にいることが心地良かった。


 そしたら夕方ごろ、「わたしもこの宿に泊まるわ」とソフィアが言い出す。


「それがいいですね」とリリィも同意した。


 その流れで、みんなでソフィアの荷物を取りに行き、ついでにギルドに顔を出して受付嬢にお礼を言う。


「無事で良かったです」との返答をもらったが、

「迷惑をかけてすみませんでした」とみんなで頭を下げた。


「いえいえ!ホントは私が止めるべきだったので!」


 受付嬢に依頼受注を止める権利はないようだが、仲間が揃うまで時間を稼ぐことは出来たはず、でも、ソフィアのあまりの剣幕に依頼を受諾してしまって、後悔していた、と話してくれた。

 まぁ、彼女に罪はないから、そのことで責めるつもりは毛頭ない。


「そういえば、あの酔っ払いは?」

 オレは破壊したジョッキとテーブルの代金を弁償しながら、受付嬢に確認する。


「あの人は町を出たらしいですよ?ライさんに恫喝されたのが効いたんじゃないですか?」


 恫喝とは実に物騒だが、そう捉えられることは言っていたな、と振り返る。

 今となってはどうでもいいが、腕の2、3本でもへし折ってやろうと思っていたので残念だ。


 ギルドでの用事を済ませると、オレたちは宿に戻った。出かける前にソフィアの部屋はとっており、オレたちの隣の部屋で寝泊まりすることになった。


「あの、今日はソフィアと寝てもいいですか?」


「うん、いいよ」


 食堂で夕食を食べたあと、リリィがそういうので承諾した。


「ありがとうございます。では、おやすみなさい」


「おやすみ」


「うん、おやすみ」


 2人に声をかけて自室に戻る。オレは1人になったので、ベッドに腰掛けて攻略スキルを空中に表示させた。


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ソフィア・アメジスト

 好感度

  100/100

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 ありがたいことに上限まで上がっている。


 でも、命の危険にさらしてしまった責任感から脳天気に喜ぶことが出来ず、その日は静かに眠ることにした。

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