第33話 万病の薬エリクサー

 例のアドバイスが表示されてから3日目、アドバイスに書かれていた早朝というのがいつなのかよく分からず、まだ暗いうちから南門の前で待機していた。

 というか、徹夜で張っていた。


 なんでそこまでするのか、というと、絶対に攻略さんのアドバイスを遂行しないとマズイ、本能的にそう思ったからだ。


 リリィには、

「大事な用事があるけど、リリィには無理させたくないから先に寝ててね」

 と伝えて宿においてきた。


 不満そうにしてたが、町の外には出ないのと、なにかあったら主従契約の意識共有ですぐに呼ぶから、と伝えたら納得してくれた。

 

 空が白んできたころ、南門の外からガラガラガラと馬車の音が聞こえてくる。


 いや、まじで早朝だな。4時とかだぞ、たぶん。オレは馬車の前に出て御者に声をかける。


「ちょっといいでしょうか?」


 馬車は止まり、手綱を握っている御者から「なんでしょう?」との回答。


「こちらは行商人の馬車でよろしいでしょうか?」


「はい、その通りです」


「あなたが店主さんですか?」


「えぇ、そうですが」


 小太りで小柄、手には宝石がついた指輪をたくさんつけているこの男が店主のようだ。服装はアラビアンな雰囲気であった。


「ちょっと探している商品がありまして、もし持っていたら売っていただけないでしょうか?」


「ほう?こんな早朝にお買い求めを。ずいぶん急いでいらっしゃるようだ」


 んー、エマ同様こいつも商売人だ。足元見てきそうだな。


 エマと違って初対面なのも良くない。まぁそもそも、攻略さん曰く、偽物を出してくるやつだ。ロクなやつじゃない。


 オレが黙っていると向こうから話しかけてきた。


「それで何をお探しでしょうか?」


「エリクサーです」


「……ほうほう。それは珍しいものをご所望だ。もし、私が持っていたとしても相当高額な品ですぞ?」


「まぁそこは値段を聞いてから考えますよ。一応稼いでる方だと思いますので」


「そうですか、なるほど、少々お待ち下さい」


 男は荷台の中に引っ込んで小さな箱を持ってきた。


「こちらがエリクサーでございます」

 荷台からは降りずに商品を見せる。


 男が美しい装飾が入った木箱をあけると、繊細な形をしたクリスタルの瓶が綺麗な布に覆われて仕舞われていた。瓶の中身は透明な液体だった。


「持っていたんですね」


「えぇえぇ。この品は偶然前の町で入手いたしまして、万病に効く薬とあれば、えぇ、それは貴重なものですので、すぐに仕入れましたとも」


「それで、おいくらでしょうか?」


「そうですねぇ……120万でいかがでしょうか?」


 んー、だいぶ予算オーバーだな。


「なるほど、たしかにエリクサーとなれば、その金額で売れるかもしれませんね。この町で売れるかはわかりませんが」


「……」


 行商人はなるべく早く利益を確定させたい生き物のはずだ。いつ売れるかもわからない高額商品を持ち続けたいとは思っていないはずである。


「えぇえぇ、たしかに。しかし、この町にも貴族の方はいるでしょう。まずはその方々にお見せしてみるのもいいかと思っております」


「まぁ貴族でしたら、金銭に余裕があるので有事の際のために購入するかもしれませんね。しかし、ここは冒険者の町オラクル。資金に余裕がある貴族が何人いるでしょうか?」


「…そうですねぇ、痛いところをつかれました。では、100万ルピーでどうでしょう?」


 さっそく値下げしてきたな。


「そうですね、今ここで即金で支払うので60万でどうですか?」


 オレは金貨が入った袋を持って中身を見せる。


「いえいえ、さすがにそれでは私どもの儲けがありません。90でいかがですか?」


 現金があることをみてまた下げる。結局早く現金化したいらしい。


「んー、では90万でもいいでしょう。ただ、それが本物だとしたらですがね?」


「ほう?私が偽物を扱っていると?」


「いえ、そうは言いません。ただ、私は魔法にも精通していましてね。魔力探知で効果がある薬は判別できるんですよ。

 もし、何かの間違いでこれが偽物だと判別されたら、あなたの商店の名に傷がつくのでは?えー、ディグルム商店さん?」


 右手に魔力をこめて、雷魔法をバチバチやって見せながら、馬車の荷台についている商店の名前を読んでみる。

 なんの根拠もないセリフだった。魔力探知なんてできやしない。


 これは、攻略さんのアドバイス〈それらしい理由で偽物だと言い当てる〉をオレなりに実践してみた結果だ。


「………少々お待ちください」


 小柄な商人は、また荷台の中に引っ込んでいった。


 今度は箱を持った上で荷台から降りて、オレの前でお辞儀をする。


「大変申し訳ございませんでした。先ほどの商品はエリクサーではなく別の薬だったようで手違いでお見せしてしまいました。本物のエリクサーは魔力に反応して僅かに発光するという特性がございます。ご確認いただければと存じます」


 オレは受け取ると右手に魔力を少しだけこめる。そうすると本物のエリクサーは少しだけ発光した。


 適当に魔力でわかるとか言ったのがたまたま当たったらしい。他の理由でカマをかけていたらどうなったんだろう?ちょっとだけ冷や汗が出る。


「たしかに」


「お客様に大変失礼を働いてしまいましたので、こちらは70万ルピーでお譲りしたいと考えております。いかがでしょうか?」


「いえ、80万お支払いしましょう。もともとその金額で買うつもりでしたし、この袋にもそれだけしか入っていません」


 言いながら金貨の入った袋を渡した。


「よろしいのですか?」


「はい」


「確認させていただきます。

 ……はい、たしかに80万ルピーございました。この度は、失礼を働いたにも関わらず、寛大なご対応ありがとうございます。

 また、その御慧眼にも感服致しました。このディグルム、ぜひあなた様のお名前をお聞きしたいのですが、教えていただけないでしょうか?」


「オレは、ライ・ミカヅチです。エリクサーありがとうございます。助かりました、ディグルムさん」


「ライ・ミカヅチ様。この度は当商会をご利用いただき、ありがとうございます。また、どこかでお会いしましたら是非お声がけくださいませ。ミカヅチ様には特別にサービスさせていただきます」


「はい、そのときはまた」


 オレはディグルムの馬車を見送ってから、歩き出した。


♢♦♢


 エリクサーを手に入れた後、お昼になるまで町で時間を潰してから宿に戻った。

 

 ギルドに遅刻する理由をリリィに説明できないからだ。だから、遅刻が確定してから合流することにしたのだ。


「あ、ライ様おかえりなさいませ。もうお昼をすぎてしまいましたから、ソフィアが待っていますよ?」


「そうだね、急いでギルドにいこう」


 先ほど、ちょうど12時を示す鐘が鳴ったところだ。オレたちは少し早歩きでギルドに向かう。


 ギルドについて待合所でソフィアを探すが、見つけることが出来なかった。


「今日は帰ってしまったんでしょうか?」

 とリリィ。


 でもオレはイヤな予感でいっぱいだった。


「おう!にーちゃん!あのガキは一緒じゃねーのかい!」


「あ?」


 ソフィアとはじめて出会ったときに、ソフィアのことをバカにしてきた男が話しかけてきた。今日も酒を飲んでいる。


「……」


 相手をする気になれず、無視してソフィアの姿を探す。


「なんだよ!無視すんなよ!あのガキを探してんだろ?」


「……ソフィアの行き先に心当たりが?」


「あぁ!あるともさ!さっきまであいつはここにいたからな!」


「それで?」


「いやー!それがよ!最近、おまえらといて上手くいってそうだったからよ!

 どうせ、おまえは前と同じで役に立ってねぇんだろ、あのにーちゃんたちのお荷物なんだろ、いいねぇおこぼれをもらえてよ!って言ってやったんだ!」

「ガハハ」と大笑い。


 殴ってやろうかと思う。


「それで?」


「そしたら、あのガキ涙目で怒鳴りながら!

 ちがう!ライたちは仲間よ!とか言ってきてよ!」


「それで?」


「じゃあ!おまえが役に立つって証明してみろ!上級A様なら上級Aの依頼を1人でこなしてみろよ!ってな具合さ!そしたらあのガキがよ!

 わかったわよ!

 だってよ!1人で上級A!?バカでもそんなことしやしねぇ!英雄きどりなんかねー!」


 バーン!


 オレは男が持つジョッキごと、テーブルを叩き切った。


「帰ってきたら覚えてろ?殺してやる」


 オレの本気の目に、男は、

「ひっ」

 とだけ漏らし呆然としている。


 このクソと関わっていても時間の無駄なので、受付にいきソフィアがどの依頼を受けたか教えてもらう。

 

 ソフィアは上級Aのキマイラレーベを受注したらしい。キマイラレーベは、巨大なライオン型のモンスターで、尻尾は蛇になっている。そして尻尾の蛇は猛毒を持っていて噛まれたら死に至る毒、とのことだ。


 こんなモンスターを1人で?冷や汗が止まらない。


「生息地を教えてください!」とお願いしたが、


「ライさんは中級Aですよね?ギルドのルール上、教えれないんです…」と受付嬢に断られてしまう。


「お願いします!仲間の命に関わることなんです!」


 オレは人の目を気にせず土下座する。


 周りがザワザワとしているが気にしない。


「や、やめてください。お、教えることはできませんが……

 依頼書を間違って見られてしまうことはあるかもしれません」


 土下座をやめないオレに受付嬢が駆け寄ってきて、依頼書を見せてくれる。そこにはキマイラレーベの生息地が描かれていた。


「ありがとうございます」と小声で言って、すぐに駆け出した。


「リリィ!ついてこれるか!?」


「はい!ソフィアはわたしにとっても大切な仲間です!」


「わかった!」


 オレはリリィの様子を見るのは最低限に、森の奥に直進する。


 間に合ってくれ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る