スマイルドナー

弐月一録

スマイルドナー

私はきっと『どこにでもあるような顔』をしているのだろう。


どこの誰だかわからない人に、どこの誰だかわからない人と間違えられる。これは幼い頃からだったが、大人になるに連れてその頻度は増していき、今では3日に1度は間違えられる。


ひどい時には、指名手配犯にそっくりだと言われて警察に通報された。

可愛くもないし特徴のないつまらない顔が嫌だった。


いっそのこと整形しようかやけになったが、お金がないのでそれは叶わない。


ある日、スマイルドナーという面白い話を聞いた。なんでも、全国各地で開催される登録会に参加して顔を登録する。依頼の連絡があれば依頼主の所に行って話をするだけでいいという簡単なものだ。傾聴ボランティア、というものがある。


元々好奇心とボランティア精神が強い私は、そのスマイルドナーとやらに登録してみた。

このつまらない顔が1人でも2人でも役に立てるならばと淡い期待を抱いていた。


すると、瞬く間に依頼の連絡が来た。会う前には相手のプロフィールを見て、引き受けるか拒否するかを決められる。何だかお見合いと似ている。


初めての依頼主は50代の女性だ。過去に娘を亡くしているらしい。スマイルドナーに登録した私の顔が、その亡くなった娘にそっくりだというのでぜひ話をしたいという。もちろん交通費は向こうが出すので私が損をすることはない。


遠い所に住んでいるその女性と対面する。目が会った瞬間、彼女は泣き出してしまった。聞いたことのない、恐らく娘の名前を何度も吐き出していた。


私の両親は健在だ。でも、もし私が死んでしまったら、こんな風に泣いてくれるだろうかと考えると、涙を我慢することはできなかった。私は小さく丸まった女性の背中にそっと触れた。


依頼主は5人、10人、何十人と増えていく。みんな私の顔を見ては知らない誰かを思い出している。


嫌味を言われたり、命の恩人だと言われたり、愛していると言われたりと、身に覚えのないこの顔に似た誰かの話を聞くのは楽しかった。


でも私を呼ぶのは、2度とその誰かには会えないからなのだ。

遥か彼方へ行ってしまったか、違う世界へ旅立ったか。


いつしか依頼主に会う時、私はその誰かになりきって相手の心に寄り添うようになった。


話を聞いて、あの時はありがとうとか、あの時はごめんねとか、誰かの代わりに言葉を伝えた。そうすると相手はひどく安心した顔をする。それが、あまりにも綺麗だった。


つまらない顔も、悪くないなと思った。


私は寄付者。私からあなたへ、この顔を贈りに行きます。

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スマイルドナー 弐月一録 @nigathuitiroku

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