第11話
「スタンガンと言うと、電気ショックで物理的なダメージを与えたり、といった想像をしがちだけど、実際にそんな強力な品物はそうそうない」
「そりゃ、そうだ。危険極まりないしな」
「むしろ、強力なスタンガンは、中へのダメージが大きい。つまり、主として、神経の伝達信号を麻痺させる。脳から筋肉への指令は全て電気信号によるものだから、おそらく、池田の反撃を受けて、牧口の体は不随意になった」
「じゃあ、牧口はあの時点で、けっこうなハンデを負っていたのか?」
「ああ。なんせ、筋肉が自分の意志で動かなくなったり、逆に意志に反して、勝手に動いたりするんだぞ。そして、厄介なことに、この症状は検死しても判別が難しい。物理的に肉体を損傷させる訳じゃないからな」
「じゃあ、そんな状態の牧口を見て、運転手が酒に酔っていると誤認したのか...」
宗太は深く納得したように呟いたが、すぐに
「いや、待てよ。結局、牧口は車に轢かれた訳だろう?じゃあ、その時点で、池田はどこにいたんだ?」
「血は、事故現場になった交差点のすぐ近くまで続いていた。つまり、池田は牧口にあと少しで追いつけるところまで迫った。しかし、ここで両者にとって、予想外の出来事が起こる」
「あの事故だな」
宗佑が頷く。「まさに天罰」
「なるほど。とりあえずカバンを取り戻す必要が無くなったから、彼女はそこで止まった。止まった....」
納得いかない様子で、宗太はうわ言のように繰り返す。「あれ...止まってない?」
「そう、彼女はそこで止まってない」
「なぜかその場でUターンして、事件現場に再び戻り、そこで力尽きた」
「どうして、その場で運転手に助けを求めなかったんだ...?」
「それが分からないんだ。行きは、こじつけることが出来る。でも、帰りが分らない」
「気が動転していた...とか?」宗太が自信なさそうに言う。
「腹を刺されても犯人に迫っていったことを考えると、そんなにヤワな女性とは思えないね」
二人を沈黙が包んだ。もう少しで真実に迫れそうだが、あと一歩、何か要素が足りない。何かの要素が...
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