第10話

「ここからは、兄貴も想像がついている通りだ。池田が一人、しかも女性であることを確認した牧口が、彼女を殺そうとした。彼女は刺された。刺されながらも、護身用のスタンガンで応戦した。思わぬ反撃に牧口は動揺したはずだ」


「なんせ、『殺せる』という確証があって、牧口は池田の前に姿を見せたんだから。もし、障害を感じたならば、その場から逃げれば良いだけだ」


「牧口はたじろいだ。そして、逃げた。その際、例のボストンバックを奪った」


「で、追いかけたのか?」


「そう、彼女は牧口を追いかけた」


「あのな、宗佑。池田は腹を刺されたんだぞ。カバンを奪い返すなんて無茶苦茶だ。そもそも逃走した牧口に追いつけると思うのか?」


「俺もそう思っていた。だけど、運転手の証言によると、牧口は酒に酔っていたそうじゃないか」


「仮に酒に酔っていたとしても、負傷した池田が追いつけるとは、とても思えないぞ」


「いや、池田は追いつけると判断したんだ。そう判断するのに、十分な根拠があったのさ」


困惑する兄に宗佑が告げる。「兄貴、スタンガンだよ」


「スタンガン?」


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