第9話
「これは、別に難しい話じゃないんだ。いいか、被害者の血痕が見つかったのなら、素直にそれを解釈するべきだ。つまり、この道を被害者も通った」
「死人が情念で動いた、なんてオチはないよな」
「そんな訳あるか。刺された後に、最後の力を振り絞って、その道を行ったはずだ。ただし、歩いたのは、池田アキ一人だと思う」
「池田一人?忘れたのか、血は被害者二名分あったんだぜ」
宗太は、頭の中で、池田と千堂が互いに肩を貸しあって、決死の形相で歩いている姿を思い浮かべた。
「いや、池田アキ一人だよ。想像するに、彼女はバックを取り戻したかったんじゃないだろうか?」
「バックって、あのボストンバックか?」
「そう、事故現場に落ちていたあのカバンだ」
「時系列を整理すると、あの晩、まず刺されたのは、千堂だ。彼女は、牧口によって、腹部を損傷。そのまま、その場に倒れこんだ。そして、ここからは想像だが、牧口は、誰かがその場に近づいて来るのを察知した。もしかしたら、池田はヘッドホンで音楽でも聴いていたのかもしれないな」
「とにかく、牧口は池田の接近に気づき、池田は犯行に気付けなかった」
「牧口は周囲の物陰に身を隠した。そうなると、地面に倒れた千堂が残るだろう?そこに池田アキが通りかかる」
「彼女は相当にびっくりしたはずだ。でも、彼女は逃げなかった。おそらく、千堂のもとに駆け寄った」
「彼女に恐怖心は無かったのかよ?辺りは血だらけだぞ」
「彼女は殺人の瞬間そのものは見ていない。だから、千堂が誰かに傷つけられたことは認識出来ても、犯人が近くに潜んでいるなんて、夢にも思わなかった。まして、彼女は看護師だ。路上で倒れている人を見て、職業的な使命感に燃えても不思議じゃない」
「それで、彼女も牧口の餌食になったのか?」
「そう急ぐなよ。第二の凶行の前に、彼女は千堂の体を抱き抱え、意識の有無を確認した。その際に、彼女の衣服に千堂の血液が相当量、付着したはずだ」
「じゃあ、千堂の血痕が発見されたのは....!!」
「そう、この時の血液が滴り落ちたに過ぎない。千堂はおそらく即死だ」
「なるほど。それなら説明がつくな」
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