第5話

「じゃあ、牧口は二人を殺害して、池田のバックだけ奪って逃げた、ということか。千堂はその時に手ぶらだったのか?」


「いや、彼女もポーチを持っていた。遺体と一緒に見つかったよ」


宗太は咳ばらいを一つして、「いずれにせよ、牧口は、二人の女性を殺害後、パニックになって、交差点に飛び出した。その時、運悪く、トラックが出てきて轢かれてしまった」


「筋は通っているじゃないか」宗佑は肩をすくめて言う。「別に、変な点は見当たらないな」


たしかに遺体の配置はいささか気にかかるが、不可解というほどではない。

牧口が二人を殺した際に、偶然にも千堂の方に、池田が倒れ込んだ可能性だって、無いとは言えない。


「問題は、血痕だ。被害者の血痕が見つかったんだ」


「それのどこが問題なんだ?さっき、兄貴が言ってたじゃないか。『現場は血の海だった』って」


「この場合、血痕が見つかった場所が問題なんだ」


「というと?」


「血痕が見つかったのは、殺害現場と事故現場の間、つまり、牧口が逃走した経路なんだ」


「はあ?それで?」


「いいか、よく考えろ。血痕は、二人の遺体が見つかった場所から始まって、牧口が轢かれた事故現場の直前まで続いている。つまり、事件・事故現場の間に、断続的に、被害者の血液が滴り落ちた」


きょとんとした顔の弟を見て、宗太は説明を続ける。


「そのルートを通ったのは、牧口だ。実際、トラックに轢かれたのは牧口だしな。にもかかわらず、血痕から推測するに、歩いて行ったのは、二人の被害者ということになる」


「ああ、そういうことね」


宗佑はようやく合点が行った。

要は、が通った経路上に、なぜかの痕跡が見つかった、ということである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る