第3話

「へえ、そういえばニュースで見たかもな。たしか、風俗嬢と看護師が殺されたんだっけ?」


「そうだ。風俗嬢の名前は千堂せんどうこずえ。28歳。看護師は池田アキ。こちらも28歳。二人とも、腹部を鋭利な刃物で刺されていた」


「最近の日本は物騒だな」


「この事件には、奇妙な点がいくつかある。まずは発見時の遺体の状況。二人は、折り重なるようにして倒れていたんだ」


?」


「路上に倒れた千堂の体に、のしかかるようにして、池田が倒れていた。普通に考えれば、犯人が千堂→池田の順序で殺人を犯し、そのうえで千堂の死体に、池田の死体を覆いかぶせたことになる。そんな訳で、二人の血が混然一体となって、現場は血の海だったらしい」


「なぜ犯人はそんなことをしたのか。これが第一の謎」


「次に...」と、言いかけて、宗太は口を閉じた。弟が、手を上げて制止したからである。


「何だよ?」


「いや、そもそもだな、その事件は解決済みじゃないのか。すぐに犯人が捕まった、ってニュースでやってたぞ。近所に住む警備員の男が犯人だったんだろう?」


「それがこの事件の厄介な点なんだよ。犯人の牧口まきぐち修也しゅうやは、犯行後に、現場から100m足らずしか離れていない交差点で、トラックに轢かれて、救急搬送された」


「100mってことは、逃走後、すぐに事故に遭ったってコトじゃないか」


「まさに因果応報だな」


「じゃあ、なんの謎も残らないはずだ。牧口を絞り上げて、犯行のことを洗いざらい吐かせれば良い」


「死んだ」


「は?」


「だから、牧口は死んだよ。今日の朝に」


「へえ、それは知らなかった」


「結局、警察は牧口からは事情を聞けなかった。奴は病院に搬送された段階で、意識を失っており、そのまま亡くなったからだ」


「なるほど。牧口が亡くなった以上、事件の当事者は誰もいない、と」


「被害者はもちろん、加害者も死んだ。唯一の目撃者は、牧口との接触事故を起こしたトラックの運転者だ。だけど、彼だって、犯行を直接目撃した訳じゃない」

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