第22話 恋人イチャイチャ ミク後編

「む~……」

「怒ってるのか?」

「怒ってる……怒ってない……怒ってる……」

「いや、どっちだよ……」


 夜ご飯時。俺とミクは互いにキッチンに立っている。

 憮然とした何処か納得の行かない表情で料理をしているミクは俺をじーっと睨み付けてくる。

 さっきの事は確かに反省している。

 反省しているが、先に仕掛けてきたのはそっちだと声を大にして言いたい所でもある。

 ミクはむ~っと頬を膨らませながら口を開く。


「あんな滅茶苦茶にする必要なかったじゃん」

「滅茶苦茶……そうか?」

「そうだよ。あんなお嫁に行けない事して……サイテー」

「先に仕掛けてきたのはそっちだろ? ほら、それ取ってくれ」

「む~……」


 ミクは目の前にあったお玉を手に取り、俺に手渡しする。

 それで目の前にあるカレーを混ぜていると、ミクが俺にもたれかかりながら口を開いた。


「納得いかない。何か慣れてた」

「慣れ……そうか?」


 正直、夢中だったというか、一心不乱だったせいで良く覚えていない。

 何か終わったら、ミクが頬を赤らめて、ビクビクしていた所から記憶が鮮明だ。


「まぁ……姉さんも似た感じになったからか」

「……ユウカさんにもしてたの?」

「ああ。先にキスしたのがミクでディープキスのファーストキスは自分って言い張ってたぞ」

「むぅ……それは確かに私が悪いかも……抜け駆け判定だと思うし……」


 ミクはそう言ってから、体をしっかりと立たせ、口を開く。


「でも、ああいうのは良くないと思います。あんな女の子を篭絡させるなんて、サイテーの所業……キチクだよ、キチク!!」

「鬼畜って……お前が勝手にスイッチ入っただけだろ? ドMが」

「うっ……ど、ドMって言うな!!」


 うがーっと両手を挙げて抗議の意を唱えてくるミク。

 俺は一つ息を吐き、ご飯を皿の上によそう。

 それからカレーをかけ、皿をミクに渡した。


「ほら、お前の分」

「ありがと……ユウカさんのは?」

「いらないって。さっき連絡あった」

「うん、分かった」


 多分、姉さんは気を利かせてくれたんだろう。

 今日は友達の家に泊まる、という話だと言う。

 自分の分のカレーライスも用意し、俺とミクはリビングへと足を進める。

 それから二人並んで、座り、手を合わせる。


『いただきます』


 久しぶりのミクと二人きりの食事だ。

 俺はカレーを頬張る。

 久々に自分で作ったが、俺は思わず首を傾げてしまう。


「んー……あんま旨くねぇな」

「そう? アヤトのカレー、美味しいと思うけど」

「姉さんには遠く及ばないっていうか……姉さんの作る奴の方が美味しいよ」

「それはそうかもしれないけど……アヤトが作ったのだって自信持っていいと思うよ?」

「そうか?」


 どうしても毎日姉さんの料理を食べているから、比べてしまう。

 姉さんのカレーは食べ慣れていて、美味しいと感じるが、それをいざ自分で作り、食べようと思ってもイマイチ美味しく作れない。

 何か違うのだろうか。それは全然分からないけれど。

 俺の隣でパクパク、とカレーを嬉しそうにミクが食べているから、まぁ、それはそれで良いのかもしれない。

 結局、俺が喜ぶよりも隣にいるミクが喜んでくれたらそれで良い。

 俺もカレーを食べ進め、数十分もしない内に二人とも食べ終わる。

 洗い物をして、他愛もない話をしながら時間を潰し、俺とミクは脱衣所に足を運んでいた。


「さあ、アヤト。お風呂に一緒に入ろう!!」

「あいよ」

「あれ……全然恥ずかしがってない!! 前と違う!!」

「だって、今、ミクは恋人だろ? 恋人だったら別に恥ずかしがる事もないだろ。前に見てるし」

「む~……なんかいきなりつよつよになってるんだけど……」


 つよつよて……。

 恋人関係になったら遠慮がなくなったと言って欲しい。

 俺は当たり前のように服を脱ぐと、ミクがあわわ、と言わんばかりに慌てて目を覆う。


「ちょ、ちょっと、いきなり脱がないでよ!! アヤトのアヤトが……」

「何か前と立場が逆になってんな」

「くぅ……こんなのおかしい!! わ、私だって!!」


 そう言ってから、勢い良く服を脱ぐミク。

 その勢いで胸がぽよんと弾み、俺は思わず目を見開く。


「おお……相変わらずデカいな」

「アヤト、おっぱい見ないで」

「え? あ、悪い」

「む~……当たり前に見てくるし……アヤト、はっちゃけすぎ!!」

「そうか? 元からこんなもんだったと思うけど……」


 確かに俺の中で明確な線引きがなくなった以上、我慢という理性がなくなったのは否めない。

 けれど、当然だが最後の一線はきちんと守るつもり。

 俺とミクは浴室の中へと足を進める。

 俺はシャワーを手に取り、蛇口を捻る。

 暖かいお湯が出るのを確認してから、口を開く。


「ほら、ミク。座れ。身体、洗ってやるから」

「え? え? え、エッチな事しようとしてる!?」

「する訳ないだろ……お前がどうせ俺の身体を洗おうとしてんだから、先にお前を洗っちまおうと思ってな。ほら、どうするんだ? 自分で洗うのか?」


 これは俺の中で先手を打ったまで。

 ミクはしばし思案してから、口を開く。


「お、お願いします……」

「あいよ。じゃあ、まずは頭な」


 俺は姉さんの使っているシャンプーを手に出し、軽く泡立てる。

 それからミクの頭を優しく撫でるように洗っていく。

 俺の髪とは違ってすげーボリュームがあって大変だな……。

 そんな事を思いながらも、俺は手を進めていく。


「あぁ~……気持ちいい……」

「そうか? それは良かった」


 わしゃわしゃわしゃわしゃ。

 ミクの頭を丁寧に洗い進めていき、全体的に洗ったと思った時、シャワーを手に取り、流していく。サーっという音とともにシャンプーの泡が流れ落ちていく。

 凹凸ある身体を流れていくお湯と泡を丁寧に流していき、俺は石鹸を手に取る。


「んじゃ、身体洗ってくぞ」

「う、うん。ひゃん!? ちょ、ちょっと首洗うなら早く言って!!」

「え? あ、悪い。首行くぞ?」

「ちょ、ま、アハハハハ!! く、くすぐったい!!」


 首に手を回し優しく洗っていると、ミクが身体をバタつかせながら暴れる。

 そんなんじゃ洗えないだろうが。

 仕方ない、俺は一旦、鎖骨の辺りへと手をするりと動かす。


「ひゃん!? ちょっと、くすぐったいって!!」

「我慢しろ」

「我慢って……ちょっと……あははは、ホントにくすぐったい……」


 ミクってこんなくすぐったがりだったのか。

 しかし、身体を洗う以上、これは避けられない。

 俺は何とか鎖骨周りを洗い終え、背中に手を回す。


「はぁ……くすぐったい所は抜けた……」

「それは何より。前は自分で洗えよ」

「えぇ~、洗ってくれないの?」

「じゃあ、洗うか」

「え?」


 ミクがそこまで言うならしょうがない。

 俺は背中に回していた手を前に回し、思い切り胸をなで回す。

 何か硬い部分があるが、気にせず撫で回す。

 ふにふにしてるし、すべすべだし、もちもちだ。


「えっ!? あっ、んっ……ちょ、ちょっとまっ……ダメッ……」


 艶かしい声を上げながら、身体を震わせるミク。

 明らかに感じてるじゃねぇか。俺は一つ息を吐き、背中に手を回す。


「ダメだろ?」

「うん……ダメ、だね。えっちだ、これは……」

「だろ?」


 ミクは石鹸を手に取り、自分で前と足を洗っていく。

 それから俺はミクの全身を洗い流し、口を開いた。


「よし。これでオッケー。じゃあ、頼むわ」

「うん、任せて!!」


 俺とミクは立場を変え、今度は俺が洗われる。

 わしゃわしゃとミクが俺の髪の毛を洗いながら言う。


「うわ、男の人ってラクだね」

「だろ?」

「いいなぁ……女の子はお手入れが大変だから」

「だろうな」


 人に洗われるというのも悪くない。

 俺はミクに身を預けていると、ミクがシャワーを流し、頭を洗い終える。

 俺がミクの髪を洗った時よりも短いな。

 それからミクは石鹸を手に取り、口を開いた。


「じゃあ、洗ってくね」

「頼む」

「んしょ……んしょ……アヤトの背中おっきいね……」

「まぁ、男と女じゃ違うだろ」

「そうだけど……おっきくて、何か安心する……」

「そうか……」


 男は背中で語ると言うが、そう言われるのは全く悪い気がしない。

 ミクは俺の背中を洗いながら、口を開いた。


「ねぇ、アヤト」

「何だ?」

「……もしもさ、この後、したいって言ったらどうする?」


 ミクのか細い声が聞こえ、俺は考える。

 したいか、したくないかで言えば、したいけれど。

 俺は首を横に振った。


「いんや、それは姉さんと過ごしてからだな」

「だよね……うん、そう答えると思った……でも、どうせ、アヤトの事だから二人一緒とか言い出さない?」

「あはは、良く分かってるな。一応はそう思ってるよ」

「ふぅん……じゃあさ、私の願い一つだけ聞いてくれる?」


 背中を流しながら、ミクはポツリと言った。


「これから先、ずっとずっと一緒に居てくれる? またこうして、一日を一緒に過ごしてくれる?」

「……当たり前だろ? これからは毎日ずっと一緒なんだから」

「……うん。そうだね、ねぇ、アヤト、こっち見て」

「何だよ」


 俺が振り返った時、唇にやわらかい感触が当たった。

 それを俺はすぐに理解した。ミクが俺にキスをしたんだ。

 ミクはゆっくりと俺の唇から唇を離し、背中に抱き付く。


「アヤト……大好き」

「ああ、俺も大好きだよ」


 何気ない一日。そんな幸せを俺はミクと一緒にかみ締めていた――。

 

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