第20話 イチャイチャしたい!!

「お邪魔しまーす」

「どうぞ」


 翌日。

 昨日、俺はミクに連絡をした。話したい事がある、と。

 すると、ミクはレッスン後なら時間があると言い、来てくれた。

 姉さんが応対している時、俺はリビングにいる。

 ミクはゆっくりとリビングへと足を進め、俺を見ると口を開いた。


「あ、アヤト。どう? 答えは決まった?」

「うん、決まったよ。それについてちゃんと話しとこうと思ってさ」

「分かった」


 ミクはそう言うと、俺の前に腰を落ち着かせる。

 俺は一つ息を吐く。

 出した答えに胸を張れ。ミクならきっと受け入れてくれるはずだ。

 深呼吸をしていると、ミクが首をかしげる。


「もしかして、アヤト。緊張してる?」

「当たり前だろ。ちゃんと向き合うって決めたんだから」

「そっか。いっぱい悩んだんだね。ごめんね」

「ミクが謝る事じゃねぇよ」


 俺はそう言ってから、再度一つ息を吐いた。

 それから、頭の中に浮かんだ最初の言葉を俺は口にする。


「俺はミクの事が好きだ」

「……そっか、そうなんだね。じゃあ、私を選んでくれるの?」


 小首を傾げ、潤んだ瞳で言うミクに俺は首を横に振る。


「いや、俺はミクだけを選ぶんじゃなくて、姉さんも選びたいんだ」

「……なるほどね」

「考えたよ、姉さんの事とかミクの事とか、将来の事、社会の事、本当にいろんな事を考えて、覚悟も全然決まらなくて、答えをどんどん先延ばしにしちまった。

 でも、ようやく、俺は君に胸を張って言える答えを手にしたんだ」

「それが、私とユウカさんのハーレムって事?」


 ニコっと笑って言うミクに俺は小さく頷く。

 ミクの笑顔には怒りといった負の感情は一切無く、どこか分かっていた、といわんばかりの顔。

 俺は力強く、自信を持って頷いた。


「うん、そういう事になるな」

「ユウカさんはそれで良いんですか?」

「別に構わないわ。だって、それは関係性が少し変わるだけで、いつもと変わらないしね」

「そっか……ユウカさんはそれで良いんだ……」


 う~ん、と唸りながらミクは腕を組んで考え込む。

 それからしばし沈黙が流れ、ミクはうんうん、と二度頷いた。


「分かった。それがアヤトの答えなんでしょ? 私もそれで良いよ」

「ほ、本当か!?」

「うん。その代わり、約束してよ。これ以上増やさない事。私とユウカさんだけ。ちっちゃい頃からずっと一緒で仲良くして来たユウカさんだから、私は良いって思うんだからね」


 ミクの言うとおりだ。

 これはあくまでも俺たちが小さい頃からずっと一緒だったから、あくまでも出来る事。

 それをこれ以上増やすともなれば、ミクも姉さんも間違い無くブチギレるだろう。

 俺が頷くと、ミクは笑顔を浮かべる。


「じゃあ、アヤトはユウカさんと私の共有財産って事で。ユウカさん、それで良いですよね?」

「ええ、勿論よ」

「……良かった」


 俺は安堵の息を漏らす。

 とりあえずは認めてもらえた。これで一歩は進めた気がしたから。

 すると、ぴょんぴょん、と飛び跳ねるようにミクが移動し、俺の右腕にしがみつく。


「えへへ、アヤト。これからはずっと一緒だね」

「ああ……そうだな。でも、ミク。アイドルはどうするんだ?」


 当初、ミクは俺と付き合うのならやめるという話をしていた。

 それについてもまだ詳しく聞いていない。

 ミクは腕にしがみついたまま言う。


「勿論。やめるよ。私はアヤトと一緒になりたいから。多分、アイドルでいたらアヤトと本当の意味で幸せになれないと思うし。私はもうアヤトの物だから。

 皆のアイドル『Miku』はもう居なくなっちゃうからね」

「そっか……その分もちゃんとミクの事、幸せにしなくちゃな」

「そうだよ!! 幸せにしなかったら、私も泣いちゃうからね」


 そう言うミクの頭を優しく撫でると、姉さんが俺の左側に座り、腕に絡み付く。


「ミクばかりずるいわ。姉さんも。昨日、あんなに激しくしたのに」


 ん? 空気が変わった?

 姉さんの言葉にミクがキっと鋭く姉さんをにらんだ。


「え? なに、どういう事?」

「どういうって、言葉通りの意味よ、ミクちゃん」

「……え!? 嘘!? そ、それはダメ!! おかしい!! 不公平!! アヤトの童貞、奪ったんでしょ!!」

「は? いや、違うぞ!?」

「え?」


 いきなりミクのいいだした言葉に俺は困惑しながらも言葉を返す。


「き、昨日姉さんとはキスしただけだから……俺はまだ純潔……」

「……な、な~んだ、びっくりした……」

「奪えば良かったわね……」

「ユウカさん? それは抜け駆けだよ。するなら、三人で」


 いや、それはそれで高度すぎないか? いわゆる、3Pとやらになる訳で。

 それに変な話しではあるが、童貞というのは一つしか無い訳で。

 俺が遠い目をしていると、ユウカが一つ息を吐いた。


「三人? 貴女、結構過激なのね」

「か、過激!? ち、違う!! 誰かが貰うんだったら、ほら、ユウカさんと私、どっちか選ばなくちゃいけなくなるじゃん!! そういう事だよ!!」

「それだったら、アヤトは姉さんを選ぶわよね?」

「え? 違うよね? 私だよね、アヤト!!」

「え!?」


 いきなり投げかけられた質問に俺は困惑する。

 いや、童貞どっちで捨てるってどういう話だよ!?

 それこそ今すぐここで答えが出せる問題でもないし!!

 俺が悩んでいると、姉さんがふむ、と呟いてから口を開いた。


「なら、こうしない?」

「何?」

「私とミクちゃん、互いに一日一緒に過ごすの。それから、どっちで童貞捨てたいかを決めてもらうっていうのはどう? 誘惑でも何でもオーケー。ただ、アヤトをその気にさせた方の勝ち、どう?」


 えっと……え?

 あまりにも唐突な姉さんの提案に俺は目を点にする。

 それはつまり、ミクと姉さんの女を常に感じながら、生きていかないといけないって事?

 おかしくない? 理性が破壊されちゃう事になるけど?

 やめない? ねぇ、やめようよ。


 俺が困惑していると、ミクがフフ、と不敵に笑う。


「ふふふ、それはつまり、私に対する宣戦布告、だよね? このトップアイドルMikuに対する」

「ええ、そうよ。その代わり、絶対に抜け駆け禁止よ。良い?」

「勿論。ユウカさんこそ、約束は破らないで下さいよ?」

「それはこっちの台詞」


 バチバチバチ、と二人の間に火花が散っているように見える。

 いや、あの、やめませんか? そういうなんか危ない事……。

 俺は空気を変える為に一つ咳払いをする。


「そういうさ、何か喧嘩みたいなのやめない?」

「じゃあさ、アヤト。どっちか決めて?」

「そうよ、アヤトがはっきりすれば、私とミクちゃんが争う事なんて無いわ」

「……あー……えっと……ご、後日って事には……」


 とにかく時間を稼ごうとするが、ミクと姉さんはほぼ同時に首を横に振った。


「ダメよ。いつになるか分からないじゃない」

「そうだよ。恋人になったらそういう事するのだって当たり前だし。わ、私はしたいもん!!」

「……えー……あー……」


 俺は返す言葉が無くなってしまう。

 え? また別の戦いが始まるの? 俺は天を仰ぎ、ただただ現実逃避しかする事が出来なかった。

 

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