第2話 カラオケ始め

「えっ、カラオケ初めてなの?」


 カエデとミカは部屋の片隅で着替えながら訊いた。


「ルナちゃんも制服だと目立つから着替えた方がいいよ」


 差し出されたTシャツに着替えると、カエデはそれを見てカバンの中をあさり、あるものを手渡した。


「これ、どうするの?」

「胸パッド、ブラに入れて」

「カエデちゃん、ヅラなの?」


 黒髪のロングボブが金髪のショートヘアになっていた。


「ああ、すっきりした。こっちの方が地毛なの」

「ええ~」


 カエデはルナの胸元に目をやり、ため息をついた。


「あまり変わらないか」

「お兄ちゃんたちにも言われる、メリハリのないボディしているって」

「自分で言うか。ところでルナ、お兄ちゃんがいるの? 紹介して」


 ミカは目を輝かせた。


「じゃあ、ルナちゃんのカラオケ始めましたの1曲目いってみよう」


 イントロが流れ出すと狭い室内が爆笑の渦。


「人生いいこともありゃ苦しいことももあるって、ふんふんその通り」


 ミカ、黙って聞いて。


「歩いて行くんだって、我が道を踏みしめてって」


 涙を流して笑い転げていたミカ、


「でも深いわあ、はまりそう」


 歌い終わると、


「ねえ、ルナほかにもいい歌知らない?」


 

 ルナが目に涙をためながら歌うと、鼻を啜るのが聞こえてきた。


「やーね、ミカ、もらい泣きしないで」

「そういうカエデもハンカチ出してる」


 お互い顔を合わせて噴き出した。

 

「大五郎はまだ3つなんだよ。ちゃんが帰って来なかったらどうなっちゃうんだろう?」

「そりゃ、歌の通り骨になる」

「えっ、うわーん」


 大号泣が始まった。


「ねえ、おんまが走る、知ってる?」

「ああ、知ってる」

「私、サクラね」

「私、モモ」

「ルナ、そんなの知らない」

「適当に言ってるだけだって」


ルナの口の笛を合図に、カラオケルームのテーブルを3人で列をなして回った。


 ヒヒーン

 ぱっか ぱっか


 合いの手が入りながら。

 久しぶりのおんまはやはり楽しかった。





 

「ヨッシー、やりたいことってなあに?」

「ぼく、前から水泳がやりたかったんだ。でも、おふくろがダメって言うんだ」

「ミオママが、どうしてかな?」

 

 ヨッシー、夏になると近所の区営プールに毎日のように行っていた。

 隣町のスイミングスクールの体験入会のときも、筋がいいってインストラクターに褒められて大喜びしていたのに、ミオママどうしたんだろう。ヨッシーのすることに今まで反対したことなかったのに。ナオにその話をすると、


「それ、ヨッシーの亡くなったお父さんに関係があるかもしれへん」



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