それぞれの思惑
第19話
「なんだ? あの化け物は・・・・・・。
まぁしかしこれだから面白いのだがな」
今いる場所は江戸での隠れ家である。
先程、骨董屋の女と殺りあったばかりだ。そして軽くではあるが手傷を負わせることが出来た。しかし仕留めることは出来なかった。それは
「
暗がりに急に光が差し込み、目を細める
「ああ、本当だ。
あれは化け物だ。
本当にあれを殺すのか?
俺の攻めを二回も生き残ったのは奴が初めてだぞ」
「怖じ気づいたか?」
ぴくりと
「いや?
むしろ面白いのだがな。
それより奴の素性は割れたのか?
ただの骨董屋ではあるまい?
確か町方に手下がいるのだろう?」
「・・・・・・すまなかった。
やつの名は
ただそれ以上の情報が微妙でな。荒唐無稽な話ばかりで裏を取っている最中だ。 それよりも郊外での返り討ちの件で
それと
黒田と鍋島の動き方はわからぬが
雇い主の言葉に
「そうか・・・・・・。
ということはどちらかが死ぬまでやらなければいけないということだな」
言葉の端にはどこか嬉しそうな雰囲気が漂っている。どうにもこの状況を楽しんでいるようだ。
「で? どうする?
その
「いや、お主が仕留めそこなった鍋島の
「高いぞ」
即と返る答え。その言葉に雇い主は特にためらいも無く返事を返す。
「ああ、分かった。
どのみちこのままではうちの家は消えるだけだ。やれるところまでやるしかない。
それと松沼を消すときは気をつけろよ。
奴は鍋島の上屋敷へ入った」
雇い主の心配するような情報に
「おいおい、あんたは俺の実力を充分に知っているだろう?
それでも不安か?」
じっとりとした視線を向ける犀角に男は小さなため息を吐き答える。
「こちらにはお前しか戦力がいないからな」
「・・・・・・
鍋島の奴はなんとでもなるが、あの
あの
「ああ、これのことか?」
雇い主の男が声をかけると男の後ろから一本の
「捨ててきたはずなのだがな、どうやって?」
「こちらにもいろいろと伝手はあるのだ。まあ、取り合えずは松沼と
そう言って雇い主はその場を後にする。
「ふ・・・・・・ん。
俺を殺そうとした者が俺に頼るとはな。面白いものだ。
しかしそれ以上にあの女子は面白い。無茶をして生きたかいがあったものだ」
残された
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「どうした、
突然現れた榊原に
結局昨夜は襲撃を警戒し、酒を飲みながら一夜を過ごした
そしてそのまま朝になり、
「こらこら旦那。
うら若き乙女が着替えているのに突然入ってくるなんて・・・・・・、むっつりだねぇ。
もしかして榊原様もこの肉の塊が好きな類いのお方ですか?」
胸をぐぃっと寄せにやにやと笑う
「あのなぁ、
商い中の札を出しておいて何を言っておるのじゃ?
客として来たのじゃが帰った方がよいかの?」
榊原は【帰るか】と言いながらも
「で?
その腕はどうした?
例の件絡みか?」
目を細める榊原。
「はぁ、これだからご老体は・・・・・・。勘が良すぎだねぇ」
「ああ? ご老体という歳では無いわぃ。
しかしお主が手傷を負うとはの。やはりそれほどの相手か?」
榊原の言葉に
「ほお、おぬしほどの者がな。
まあ、あれだけの剛の者を斬った奴だ、気を付けておかねばならぬな」
その言葉とは裏腹に榊原の
「正直まいったよ。
軽い気持ちで殺しあえる相手ではないね」
「で、そっちは忙しいのではないのかい?」
正直触れてもらって嬉しい話ではないので話題を変える。
「まあ、毎日根を詰めていては身が持たぬよ。それよりも問題が発生してなぁ」
榊原の呟きに沈黙で先を促す。
「例のやつがこの見世を襲った時に持っていた
ばつが悪そうな表情を浮かべる榊原。
それには鬼灯も目を見開いた。
「まあ、気が付いたのは儂だけじゃがな、巧妙にすり替えられておったわ。あれだけの長物を持ち出したのだから気づかないわけがないのだがな」
榊原の目が鋭くなる。
「内通者がいる?」
「だな。
小遣い稼ぎにやったのかどうかは分らぬが、間違いなく内部の者だよ。番屋には常に人がおるからな」
「相手の目星は?」
「……近松かのぅ」
榊原の予想外の言葉に
「そりゃまた、なんで」
それくらいしか言葉がない。
くそ真面目。
それが
「ん、まぁ。あやつはの、吉原に入れ込んでおる
「まぁ、証拠は無いでな。それよりも奴は
そう言って榊原はおもむろに立ち上がった。腰の物を手に入口へと向かう。その後ろ姿の
「旦那!
骨董を買いに来たんじゃあないのかい?」
入口を開きかけていた榊原はゆっくりと戸を閉めると
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