第9話
「はぁ、何というか色々巻き込まれるなぁ、
骨董屋の主人は溜息をつく。
二人は白湯を
「……別に自分から望んで巻き込まれた訳じゃあないよ」
二人の目の前にはくすんだ【
「しかしまぁ、こんな物の偽物が出回るとは世も末だ。これ一枚で
これだけ古い銭だと新品の刀と同じ値段になる。この僅か一寸も無いのに、だ。
好事家、骨董趣味の人間は多々いるが、古銭集めをする人間はとにかく多い。何しろこの古銭というものはとにかく集めやすい。
場所を取らないからだ。
そして種類が豊富。一つの種類の銭でも時代によって僅かに違う。
また、銭が発行された場所によっても微妙にわざと変えてある。
「ん、そうなんだよね。
で、だ。
これが微妙な数ずつ売りに出されたら莫大な資金になるよねぇ。この出来だとそう簡単にはばれないしね」
この三人がかなりの目利きであるからだ。
好事家でも十人中九人は騙される出来である。
「そうだな。日の本にどれほどの好事家がいるかは分からんが、ここにあるだけでも数百両は下らんからな」
「武家が資金を大量に集めるとなると何を狙っていると思う?」
「武家ねぇ。
まぁ、お武家・・・・・・となると一番は転覆だよな」
正直、幕府成立より武家、特に関ヶ原以来からの家には幕府はかなり強硬な姿勢で当たっていた。
大きな力を保持していた家は少しでも隙を見せると
そうして潰されただけなら恨みは発生するが、まぁそこまでだ。
問題は難癖で当主が詰め腹を斬らされた場合だ。
その場合は多少事情が変わる時がある。家臣達の恨みが一斉に
すると治安が悪化する。
このようなことが起こる時がごく希にあるのだ。
ただし、幕府を転覆できる程の力になることはまず無い。それは幕府の石高があまりにも圧倒的すぎるからだ。
これは庶民は全く知らないことだが闇の中に生きる鬼灯の知識の中にはあった。
「転覆・・・・・・ねぇ。まぁそう考えるよね」
「なんでぇ、ちげえのかい?」
「む~、幕府の中に影響を与えるだけならね、そこまでする必要が無いんだよね」
「じゃぁなにかい? 本当に誰かが小遣い稼ぎで創ったのかね。それにしては規模がなぁ」
そう、唯の贋作にしては手が込みすぎている。
銭の贋作を作成するのならば数百枚、数千枚を一気に作り上げた方が早い。その方が安上がりで効率が良いからだ。
実際、古い時代もそうだが現在の
ただし、古い時代は詳しく分かってはいないが
古代の作成方法は分かっていない。なぜなら一度、日の本から制作技術が失伝しているからだ。
日の元はある一定時期から海を渡った宋から銭を輸入していた。何故、技術があったのにそれが廃れ、輸入という形に変化したのかは分かっていない。
それに骨董として売るには大量生産は都合が悪い。
多少ある分には問題は無いが、流通する物が多ければその分価値も下がる。ただし、全国で一斉に、短期間で売りをかけるのならば話しは別だが・・・・・・。
「ま、考えても仕方が無いね。取り敢えず江戸、
「・・・・・・? 大阪までで良いのか?
そこから西は?」
見世の主人の問いに鬼灯は軽く微笑んだ。
「うん、出所は西は確定だしねぇ。
だからさ、炙り出そうかと・・・・・・ね」
その答えに
「また何かしでかす気かね。あんまり派手にやるなよ」
鬼灯は以前にもやらかしていた。
二年程前に古い名刀の贋作が出回った時、
当然、この事実を知るものは古物商業界でも数名のみだ。役人達にも知られてはいない。死体も未だ見つかっていない。
因みに出回った刀は何故か盗まれたり、市場から消えたりした。
これは市場に出回った、出回りかけた物は古物商達が様々な方法で回収し、廃棄したからだ。
そして盗まれた物は闇に消えた。影響力のある者達から依頼を受けた役人達が必死に探して回ったが、全く手掛かりを得られないまま今に至る。
「ん、努力しよう」
そう言って
「じゃあ、また。
回状は頼んだよ。それと見かけたら一度回収して鑑定を頼むよ。
どのみち【
分かりやすいよね」
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「やっぱり割れてるよねぇ・・・・・・。
でもまぁ、価値は下がるが何とかなりそうだねぇ」
一尺ほどの乳白色の皿がほぼ真っ二つに割れていた。あの細い男の腕が良かったおかげと、運がよかった。
並みの腕の突きならば粉々になっていたのは間違いないし下に落ちなかったからだ。
細い男の突きは皿の頂点を突いており、そこから真下に衝撃が走っていたようだ。
「
でも・・・・・・先立つものがあったかなぁ」
それを取り出し中を確認する。
「一両~、二両~・・・・・・二十五両っと、一分判が二十二枚に二分判が十枚、四文が六貫と一文が二貫と少しかぁ」
番屋から帰って一刻、
「まぁ、金継ぎに関しては何とかなるか。
後は・・・・・・、皿を割ってくれた馬鹿たれを捕まえてとっちめてやる為の手はずを整えないとねぇ」
鬼灯は帰りがけに買ってきた酒とつまみ、食い物を口に放り込みながら割れた皿を眺め続けていた。
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