第5話
「駄目ですか?」
「・・・・・・これを何処で?」
その様子を見た
「どこでこれを?
これは? なんでしょうか?」
普段使う一文銭や四文銭ではない。
若干青みがかっているので読みづらいが銭には
「これは父上から預かった物です。
自分が戻るまで絶対に人に見せるなと言われていたのですが、父上は戻りませんでした。
だからもうどうでも良い物です。父上の遺品ではありますが、仇討ちの足しになる、父上の無念を晴らすためならば差し上げます」
そう言って
母親は持っていた一枚の銭をぎゅっと握りしめて嗚咽を漏らし始めた。
その様子を見ながらも鬼灯は童子から差し出された銭から目が離せないでいた。
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あの後、
母親には三尺ほどの手槍を、
古いとは言うが使い物にならない物という訳では無い。古い時代に実戦で使われていたということだ。
品物を渡す前には当然仇討ちを止めるよう説得もした。もっとも聞いては貰えなかったが。
仇討ちの助っ人も手配すると言ったのだがこちらも固辞された。既に死の覚悟というか、生を捨てている。
話をしていくうちにそう悟った
母親とは払う払わないで若干揉めたが、どうせ仇討ちをするのならば良い宿に泊まり、身体を万全の体制で挑むように言って帰した。
「はぁ、死の旅へ出る者を見送るのはつらいねぇ」
何度も頭を下げ、日の落ちた江戸の街を歩いて行く二人を見送りながら、
「・・・・・・これが原因だろうな。何を考えているのだか・・・・・・」
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「とまぁ、このようなことが先日ございましてねぇ」
ぱくぱくと
近松が部屋を出て
もっとも最初には【このような重要書類を人目に付くように置くな!】と榊原の雷が落ちたのは言うまでも無い。
当然、売ったことは話したが詳しい事情は話していない。まだその段階では無いからだ。せめて二人の身元が確実に確認できた後で話す内容だ。
「そうか・・・・・・大体の事情は分かった。
しかしその襲撃者がその親子と関わりがあるとしてもだ、何故
高々武具を売っただけであろう? 助っ人をしたわけではあるまい?
分からぬなぁ」
榊原は胸の前で腕を組み、天井を見つめながら言葉を漏らす。
「なぁ、鬼灯。自分の胸に手を当てて静かに聞いてみろ。
他に何をやらかした?」
どうやら榊原は
が、榊原の一言は納得のゆくものでは無い。既に
「何ですか?
人を迷惑の塊で、いつも事件を起こしているような危険人物扱いは・・・・・・」
そして【にやり】と笑う。
「
お前さん、本気でそれを言っているのか?
自分の胸の前にあるその巨大な肉の塊に良く問うてみい」
榊原と近松は笑いながら【してやったり】という表情を浮かべる。
「う~」
当然、その挟まっていた場所はゆさりと揺れるもので二人の視線は一瞬釘づけになった。
「おやぁ、肉の塊に興味がおありで?
まぁ、このような
次の非番にでも吉原へご出陣なさってはいかがでございましょうか?」
今度は
榊原は三百石取りの
若く、妻子のいない状態ならば吉原へ春を買いに行くのも問題は無いであろうが今はそういうわけにはいかない。
近松は若手でまだ所帯を持ってはいない。だから吉原へ春を買いに行くのには問題が無い。
まぁ、高々同心の給与では頻繁には遊びに行けないし、行ったとしてもせいぜいが
「五月蠅いな!
で、その
山吹色のお菓子を出せるとも思えぬしなぁ」
山吹色のお菓子。
それは世の誰もが嫌いでは無い物である。二拾五枚を一括りとしたものと五拾枚を一括りとした物が有り、大抵は半紙に包まれている。
もっとも
鬼灯は二人の目の前で
当然二人は手にとって見のであるが二人の反応は全く違ったものであった。
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