第3話
「だから~、突然入ってきた男が槍を振り回してですねぇ」
先程、細い男と戦った後、
俗に言う【しょっ引かれる】だ。
当然番屋へ行く前に
ごくたまにあることと、
それでも今夜は番屋から返して貰えそうにないからの不機嫌さである。
「そうは言ってもな、あれだけ暴れたのだからさすがに一晩は泊めないと示しが付かぬのじゃ。特に唯の骨董屋があれだけ暴れたのだからのぅ」
同心の視線が痛い。
今、この場には
「すぐに
「そんな、近松様ぁ~」
その時、近松が手にしていた
「ねぇ、旦那~。さっきからにらめっこしておられたその紙はなんでございましょうか?」
「・・・・・・あぁ、今朝方、亡骸が見つかった者達の情報だ。仇討ちの最中だったのだろう、二人とも
三十路ほどの母親とおぼしき
どこから手に入れたのか
もっとも二人とも心の臓を一突きであったがな。あれは相当な手練れと
今は身元と届け出を探しておる最中じゃ」
近松の言葉を聞きながら鬼灯は何気に十数日前の事を思い出していた。
そう、子連れの三十路を越えた女が見世を尋ねてきたことを。そして自分が売った
「ちょいと旦那。その
突然、雰囲気の変わった
何気に話してしまった事に有無を言わせぬ
そして振り向いた先には先程までとは打って変わった様子の
先程までの人をくったような
「あ?、ぁ・・・・・・、ああ。それならこの番屋に置いてあるが・・・・・・。
思わず返事を返してしまう近松。
初めて見る
喧嘩っ早いのは知っているし、何度も番屋へ泊めたこともある。
しかし、それはあくまでも喧嘩の
ただ、今の鬼灯の雰囲気はそのような段ではない。
道場で剣を、様々な武芸を学び日々精進している近松でさえも
それは近松が通っている道場主ですら及ばない程だ。
「いえねぇ、その親子、その持っていた
もし私がお売りした品でしたら身元、までとは言いませんがどの地から来たかまでは聞いておりますので・・・・・・。
如何でしょう?」
【にぃ】と笑う
「そ、それに相違ないか?
う~む、そうなると私の一存ではな。
やはり
すまぬがやはり泊まっていって貰うことになりそうだな。
・・・・・・しばし待っておれ」
それだけ言うと近松は手に持っていた似顔絵と検視の詳細が描かれた紙を何時でも見られる位置に置き、
後には紙ににじり寄ってゆく
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「・・・・・・いらっしゃ~ぃ」
日が傾き始めた頃、その親子らしき二人は
間の伸びた声と不機嫌そうな声で
二人はくたびれた様子の旅装束だ。
「ぁの、ここで刀は売って貰えますか?」
弱々しい声で尋ねてくる三十路前後の女。
本来刀は武士の物。武士以外が持ち、差すのは禁止されている。
もっともそれは建前で、実際、好事家などは結構持っている。差して歩かなければ問題は無い。そして質屋と古物商も大抵は持っているのだ。
これは武士の家計とも関連している。早い話、武士の
【刀は武士の魂】と言われているが、実情は使わない
実際、武士が刀を抜くことは無い。
正確に言うと抜いたら最後、腹を斬らされるので誰も抜かない。よっぽどの事が無い限りだ。
町人の無礼討ち?
そのようなことはほとんど無い。
寧ろそれをしてしまうと【なんと心狭き者】と
長い年月戦は無い。
多少の小競り合いや島原の一揆など中規模な争いなどは起こったが、それでも武士が総動員されるような事態は無い。
刀はともかくとしてもそれ以外、槍・
そして
そのような時分に
思いつくことはあるが、簡単には売れない。とばっちりは避けたい身の上だからだ。
「ん・・・・・・、どうしてそんな物を買いたがるんだぃ?
しかも刀かい?
見たところ好事家・・・・・・という感じでも無いようだしねぇ」
鬼灯は入ってきた二人をじっと観察する。
母親らしき女は三十路前後だろう。特に鍛えられているという風でも無い。歩き方なども
そして
こちらは十を越えるかどうかだろう。まだ元服までも行かない。
売る売らない、在る無いを言わず、疑問を投げかけじっと見ている
そして大きく溜息をつく。
「無いのでしたら結構でございます。・・・・・・行きますよ」
三十路ほどの女は疲れ果てた声色で
その背に
「あぁ、物はいくらでもあるんだよ。
ただね、そう簡単には売れないのさ。
押し込みなんかに使われたらこちとら【商売で売った】では通用しない。番屋へ引っ張られるし、下手をすると
慎重になるのさ」
あとついでに痛い腹を探られたくは無いということもある。
「売って・・・・・・貰えますか?」
「
とりあえず戸を閉めて入りなよ。茶くらい出すからさ」
そう言って
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