第3話pioneer~最初にセレブロになった者~



 アムリルは、この宇宙人たちが作った人工恒星ヘリオスを中心に居住コロニー・イムドゥグド、調査船ヴィマーナ、博物保管庫天磐舟が周回する疑似星系の製造段階から関わっている乗組員だ。当時は一番の若造だったが、今は最古参、製造当時を知る最後の現役。その存在は生きる設計図と言っても過言ではない。

 運航トラブル、機器のメンテナンス、不具合、調整、問題が起きると搭乗員は皆アムリルに助けを求めた。アムリルにとって、搭乗員は皆同じく等しくかわいい我が子同然の存在だったから、聞かれれば否応なく助言を与え、手を貸した。若い世代が育ち、知識と経験を積み、一人前になっていく姿を見るのはアムリルにとってこの上ない喜びだった。


 そんなアムリルも寿命には抗えず、命の灯が消えるときがやってきた。

 いまや衰えた身体が生命活動を終えようとするのを医療チームが全力で阻止し、あらゆる手段で長引かせている状態だ。アムリルの生を一日でも延ばすことは、この疑似星系に暮らす搭乗員全ての願いでもあった。


 アムリルは死の淵にあった。

 この疑似星系は旅を始めたばかりだ。私が死ぬことで、まだ若い個体たちが不安がらないか心配だ。意識が消滅する瞬間の恐怖と悲観を切り裂くように、星系の中心となる疑似恒星ヘリオスを生成した時のこと。イムドゥグドの居住環境を整えるのに結構難儀したこと。懐かしい若き日々が走馬灯のように脳裏に浮かんでは消え、その度にヴィマーナの調査機材も今現在は最新鋭のものを搭載しているけれど、段階を追って性能を強化したりしなきゃならない。天磐舟の収納収蔵だって増設しないと。次から次へと新しいアイデアが閃き弾けていく。

 アムリルは考える。思考を巡らせる。

 この汲めども尽きぬ泉のような想像着想はどうしたことだ。肉体、つまり筋力を動かすための電気信号を消費しなくて済むようになった分、脳が活性化しているのだろうか。脳内の情報はいうなれば電気信号だ。ならば、脳をイムドゥグド中枢のコンピューター端末に繋げば、脳内に蓄積された記憶媒体の全てを電気信号でやり取りが出来るのではないか。


 アムリルは医療チームに一縷の望みを託した。


「まだ生きているうちに私の脳と神経系を末端神経まで取り外し、イムドゥグド中枢に接続してほしい」

 医療チームは驚愕した。有機体をコンピューターに繋ぐ。そんな事が出来るのだろうか。

 しかし、それが出来れば、アムリルを失う悲劇を回避できる。なにより、搭乗員全てがこの先死ぬことで好奇心を満たすことが出来なくなる恐怖と絶望を回避する福音になる。

 死んだら終わり、ではない。肉体を失うのではない。この疑似星系と一体化するのだ。


 脳内の血管を全て人工血管に入れ替え、脳の機能を損なわないよう細心の注意を払い、無菌状態を保った培養液に納めたアムリルの脳に、四肢の末端神経から電気信号を送信すると、バイナリーコードを出力して返してきた。

【アリガトウ】

 実験は成功したのだ。



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