第24話

 六月。それは衣替えの時期。

 五月の時点で既に暑かったのだから、駿介もこのはも暑苦しい冬服から、涼しげな夏服へと着替えていた。

 このはの事だから、衣替えを忘れてないかと心配していた駿介だが、ちゃんと夏服に着替えているこのはを見て安心する。

 まぁ、このはが衣替えを忘れていなかったのは、それだけ暑かったからなのだが。


「駿介、シャツの胸元開けてたらだらしないよ!」


 夏服で薄着になったとはいえ、それでも暑いものは暑い。

 肌を見られて恥ずかしくもない男子たちは、胸元のボタンを開け広げ少しでも涼を取ろうとしている。

 もちろん、駿介も例に漏れず胸元のボタンを開け広げている。


「違うぞこのは。これは男子のオシャレなんだ!」


「そうかな? うーん……確かに皆やってるしそんな気がして来た!」


 適当な言い訳をして誤魔化す駿介。

 そんな適当な言い訳を信じ、確かにファッションなのかもしれないと思い込むこのは。

 暑くなっても、このはのアホ可愛さは変わらずである。


「男子は良いなー。そうやってファッションで涼しそうな格好できるし」


「このはも上着を脱いで良いんだぞ。もしかしたら新しいファッションになるかもしれないしな」


「は、はぁ!? 脱ぐわけないだろ、駿介のバーカ! えっち! 変態!」


「はっはっは」


 顔を真っ赤にして悪口を言うこのはだが、駿介はそんな様子もアホ可愛いと言わんばかりに笑って頭をポンポンと叩くばかり。

 ムキーと怒りをあらわにするこのはだが、怒れば怒るほど駿介が喜ぶばかりである。

 しばらくじゃれ合う駿介とこのは。

 だが、そのじゃれ合いも長く続く事はなかった。暑いので。


「フンッ。ボクは大人だから駿介の相手なんかしてられないし」


 額から汗を流し、興味ないですと駿介から顔を逸らし自分の席に座るこのは。

 自分の席に座りながら、少しでも涼を取ろうとスカートをパタパタとし始める。


「お、おい」


「ん? なに?」


 人にだらしないと言っておきながら、大股開きでスカートをパタパタしているこのは。だらしないなんてレベルではない。

 いくらアホでも、そこまで行くのは女子としてどうなんだと思う駿介。

 しかし、どう指摘するべきか悩み、とりあえずその様子をチラチラと見ているクラスの男子にガンつける。

 駿介に睨まれ、さっと目を逸らす男子たち。

 男子たちが目を逸らしたのは、駿介が怖いからというよりも、チラチラとこのはのスカートの中を覗こうとしていた事をバレた事に対して気まずいからである。

 そして、そこまでやっていれば、駿介が何を指摘しようとしていたかこのはでも理解できる。

 

「ん~、駿介どうしたの?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべ、あえて駿介に見せつけるように、スカートを更にパタパタさせるこのは。

 からかわれてるのは分かる駿介だが、上手く指摘できず、とりあえず他の男子が見ないか気を配りつつもこのはのスカートから目を離す事が出来ない。

 むしろここまで分かりやすい行動に出てるのだから、スカートの下に体操着のスパッツか何かを穿いているのは分かる。

 だが、相手はあのアホのこのはである。穿き忘れている可能性が否めない。

 そんな状況で、下に何か穿いているだろうと余裕を見せたら下着が見えましたとなれば気まずいレベルではない。

 

「駿介がどうしても見たいって言うなら、見せてあげても良いけどぉ?」


 そう言って、スカートを摘まむこのは。

 おろおろする駿介に対し、先ほどのお礼と言わんばかりにマウントを取っている。

 そしてゆっくりとたくし上げられるスカート。


「おい、バカッ!?」


 このはのスカートの下には、駿介が予想した体操着のスパッツなどなかった。

 そこには黒の……スクール水着があるだけだった。


「……スク水?」


 思わず声に出す駿介。

 そんな駿介に「フフン」とドッキリ大成功を言わんばかりにドヤ顔を浮かべるこのは。


「なぁこのは。一つ確認させてもらって良いか?」


「ん? 何?」


「着替えの下着、勿論持って来てるんだよな?」


「……えっ?」


 水泳の時間が楽しみで、制服の下にスクール水着を着てきたこのは。

 制服の下にスクール水着を着てきたは良いが、下着類を持ってくるのを忘れていたのだ。 

 スカートの下に体育着を着てきたという駿介の予想を、違う意味で裏切るこのは。 


「己は小学生か!?」


 駿介のツッコミが学校内に響いたのは言うまでもない。

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