第23話

「ご主人様、次はこちらですよ」


 そう言ってソファに座り、自分の太ももをスカート越しにパンパンと叩くこのは。

 

「あぁ、良い音だな!」


「違うよ!」


 親指を立て、満面の笑みを浮かべる駿介。


「もう、分かるでしょ」


 もう一度スカート越しに自分の太ももを叩くこのは。


「健康的な足だと思うが、少し細すぎる気もするかな」


「駿介分かってて言ってるでしょ!」


 笑いながら何のことやらととぼける駿介。

 だが、このはが何を言いたいのかは既に分かっている。


 耳かきを片手に太ももを叩くこのは。

 つまり太ももに頭を乗せろと言っているのだ。耳かきをするために。


 いくらなんでも、それは大胆過ぎである。

 流石の駿介もそこまでは出来ない。

 なんなら先ほどこのはを「女」として見てしまったばかりだ。尚更出来るわけがない。


「くっ、何故だ!」


 そんな恥ずかしい事出来るわけがないと思いつつも、気づけばソファに寝転び、このはの細い太ももに頭を預けていた駿介。

 実に男の子的である。

 

(まぁ、相手はこのはだし)


 自分にそう言い聞かせようとする駿介だが、心臓は今にも爆発しそうなくらいに高鳴っていた。

 顔に当たるこのはの柔らかい足が。

 耳かきをするために、このはが顔を近づけようとすると一緒に近づいてくる胸が。

 頬に当たるこのはの髪の感触が。

 そして、このはから微かに漂う石鹸のような匂いが。

 その全てが駿介をドキドキさせていた。


「危ないから絶対に動いちゃダメだよ」


「お、おう」


 動くどころか、完全に硬直し身じろぎ一つ出来ない駿介。

 

「ふー」


「おおうんふぉ」


「ちょっと、何それ」


 唐突に耳に息を吹きかけられ、思わず変な声が出た駿介。

 そんな反応が面白かったのか、このはが笑う。

 

 この日、それ以上の事は何も起きなかった。

 耳掃除の後にちょっとだけギクシャクしたが、駿介の持ってきたオモチャでご機嫌になるこのは。

 そんなこのはをアホのように持ち上げ、いつものように笑い合う二人。

 二人の関係は少しだけ進み、少しだけ戻ったようだ。

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