第19話

「まぁなんだ、服、買いに行くか」


「う、うん」


 少しだけぎこちない感じで歩き出す駿介とこのは。

 二人は駅から少し離れた場所にある、ショッピングモールへと向かっていた。

 自分の隣を歩くこのはを見て、駿介が口にする。


「そういえば、今日はいつもと違う感じだな」


 普段のこのははカジュアルなパンツルックが多い。

 何かに興味を示すたびに走り回るのだから、そっちの方が何かと都合が良いからだろう。

 だが、今日はヒラヒラのスカートだ。


「うん。友達と服を買いに行くって言ったら、お母さんがこれ着ていけって」


「そうなのか」


 このはの服は可愛いといえば可愛いが、少々流行とはズレた感じがするのは、母親が選んだからなのだろう。

 まぁ、このはの普段着は流行どころか、小学生男子レベルの服装に近いから、こちらのがオシャレと言えばオシャレである。


「やっぱり、変かな?」


「そんな事ないぞ、似合ってる」


「そ、そう?」


「あぁ、可愛いぞ」


 普段着ではアホっぽい可愛さのこのはだが、ちゃんとした服を着て大人しくしていれば美少女である。

 勿論駿介はそこまで口にはしない。口にすればこのはが調子に乗るので。

 雑に頭を撫で「可愛い可愛い」という駿介に対し、口をとがらせ「適当に言ってるだけじゃない?」とブツブツと小声で抗議するこのは。

 まぁその割には顔を赤くし、満更でもない様子であるが。


 風が吹くたびにふわりと舞うスカートが気になるのか、時折スカートを摘まんだりして落ち着きのないこのは。

 そんな様子を見て「コイツスカート普段から穿かないのか?」と思いつつ、でも制服で着てるよなと思い首を傾げる駿介。

 スカートの生地が制服よりも薄い分ふわふわするのがこのはは気になっているのだが、スカートなぞ穿いた事ない駿介にそんなのが分かるわけもなく、ただ不思議そうに思うだけだった。


「駿介、この服とか良くない!?」


「良くない!!!」


 ショッピングモールに入るなり、このはが即座に見つけておススメした服は、凄くダサかった。

 登り龍と荒々しい文字で書かれドラゴンがプリントされたシャツである。

 あまりのダサさに即答の駿介。


「逆に聞くが、お前はそれを着たいと思うか?」


「うん!!」


 このは。曇りなきまなこであった。

 からかっているのかと思った駿介だが、このはの様子を見る限り本気でお勧めし、本気で自分も着たいと思ったのを理解する。


「このは、もしかして他の普段着とかも母親が選んでくれてるのか?」


「そうだよ?」


「そうか……」


「ボクとしては、こういうのとか似合うと思うんだけど。どうかな?」


 よく分からない英語にドクロのマークがプリントされた黒いシャツを指さすこのは。

 駿介は頭を抱える。

 ファッションセンスがゼロというレベルではない。

 もはやマイナスである。


「よし、今日は俺がこのはに似合う服を選んでやろう」


「本当?」


「任せろ! 今日はとびっきり可愛くしてやろう」


 胸に手をドンと当て、普段のこのはがやるようなドヤ顔ポーズを決める駿介。


「その前に、トイレ行くからちょっとだけ待ってろ」


「うん!」


 トイレに行く振りをして、スマホを取り出す駿介。


『真紀。このはの服を買いに来たんだが、最近の流行ってどんなのを選べば良いんだ?」 


 任せろと言っておきながら、初手から幼馴染である真紀に泣きつく。

 その潔さは、ある意味では男らしいと言えなくもない。


『どこにいるの?』


『駅前のショッピングモール』


『分かった』


 何を売っているのか調べる為にどこにいるか聞いただけで、流石に今から来るわけじゃないよな?

 そんな風に思いながら、このはの元へ戻る駿介。

 そして数分後。


「お待たせ!」


「うわっ、マジで来た」


 はぁはぁと息を切らせながら、このはの元へ来る真紀。

 息が荒いのは走ってきたからだろう。きっと。


「はぁ……はぁ……このは、ちゃん……一緒に、服……はぁはぁ……選ぼう!」


「駿介、真紀ちゃんはぁはぁ言ってるけど大丈夫?」


「そうだな。気持ち悪いよな」


「女の子に気持ち悪いとか言ったらダメだよ!」


 プンスカといった様子で駿介を叱るこのは。

 そんなこのはを見て、真紀がニチャアと笑うのを、駿介は心底気持ち悪いなと思うのだった。

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