第18話
昼休みの教室で、いつものように昼食を取る駿介とこのは。
「駿介、今度の休みなにか予定ある?」
「別に何もないが、どうかしたか?」
「うん。実はボクも予定がない!」
「そっか」
特に益のない会話である。
単純に、このはが構って欲しくて話しかけているだけなので。
駿介もいつものように流すように会話をしているが、ふと思いつく。
「そろそろ新しい服買いに行こうかなと思ってる」
「そうなんだ!」
楽しそうに目を輝かせるこのは。
そんなこのはの反応に、駿介が少しだけ笑う。
彼女のこの反応は、要は「ボクも行きたい」である。
素直に言えない性格なので、駿介が誘ってくれるのを待っているのである。
「一人で行くのもなんだし、どうするかな」
「駿介がどうしてもっていうなら、ボクがついて行ってあげても良いけど」
「いやぁ、このはにはよくお願いしてばかりだから申し訳ないしな」
「そ、そんな事ないよ。ほら、駿介は大事な友達だし!」
「大事な友達にそんな事させるのはなぁ~」
必死なこのはの言い分に、益々イタズラしたくなる駿介。
だが、数分後にはこのはが涙目になったので、逆に駿介が必死にお願いする事になったのは言うまでもない。
そして迎えた日曜日。
一緒に服を買いに行くと約束した駿介とこのは。
待ち合わせ場所には、黒いセーラー服とゴスロリを足したような服を着たこのはが来ていた。
待ち合わせは十時、そして現時刻は八時半を過ぎたばかり。
楽しみ過ぎて早く来てしまう、遠足前の小学生レベルである。
「ねぇねぇ、キミ今一人?」
「えっ、あの……ボク」
「なになに、自分の事ボクっていうの? 可愛いね」
見た目で言えば美少女のこのは。
そんな美少女が、どっちかというと目立つ感じのファッションをしているのだ。
声をかけられるのは当然と言えば当然だろう。
「良かったら一緒に遊びに行かない?」
見た目は美少女だが、中身は人見知りの子供である。
目の前にいる金髪ロンゲという、明らかにチャラそうな男がなぜ自分に声をかけて来るのかよく分かっていない。
学校ではよく男子に告白されているこのはだが、自分よりも明らかに年上の男性が自分に興味を持つと思っていないこのは。
なんなら学校の告白でさえ、本当はただの罰ゲームかなにかで自分に告白して来てるとさえ思っているレベルである。
故に、目の前の男性が、自分への好意と思えず、恐怖してしまう。
「その……友達と待ち合わせだから」
「えー、マジで。じゃあ仕方ないか」
スカートの裾をキュッとつかみ、俯くこのは。
その行為で男は理解した、これは無理だなと。
ツンケンな態度を取られたり、無視されるならまだやりようはあるが、怯えられるのは厳しい。
諦めずにこの場に残っていれば、通報されたりして面倒になりかねないと、退散していく。
思ったよりもすんなりと引いてくれた男に、このはは少しだけ安心する。
声をかけられちょっと怖かった分、今日は駿介と何をしようか考えながら楽しい気分に切り替えていく。
それから一時間後。
当然駿介はまだ来ていない。待ち合わせ時間までまだ三十分あるので。
そんな風に待つ時間も、このはにとっては楽しい時間である。
だが、周りからはそんな風には見えない。
同じ場所で一時間もずっと居るのだ。
傍目からすれば、デートをすっぽかされて待ちぼうけをしている美少女である。
先ほどのナンパ男が失敗したのを見て、周りは無理だと諦め始めからこのはに声をかけるのは除外していた。
だが、待てど暮らせどこのはの待ち人は来ない。
待ち合わせ時間の一時間以上前から来てるのだから当たり前だが、周りはそんな事を知るわけもない。
「ねぇねぇ、もしかして約束すっぽかされた感じ?」
「えっ……」
このはに話しかけたのは、先ほどの金髪チャラ男のナンパ男である。
一時間経っても同じ場所で待ちぼうけをしているこのはを見て、チャンスと思ったのだ。
最初に潔く諦めたのは、無理しない為だけでなく、こうして約束をすっぽかされた相手に話しかけやすくするためである。
この人は拒否すれば簡単に引いてくれる。そう思わせる事で相手の警戒心を解く作戦の一つである。
「えっと、そんなんじゃなくて、ボク……」
自分が早く来すぎただけだと言いたいこのはだが、上手く伝える為の言葉が出せず。
その反応が、逆に約束をすっぽかされたんだなとチャラ男に思わせてしまう。
「それじゃあ待ってる間で良いからさ、一緒にどお?」
「でも、その、お兄さんには関係ないし」
「いーのいーの。俺どうせ暇だから、良いでしょ? ほら、邪魔だったらさっきみたいに言ってくれればすぐ消えるからさ」
上手く断る事も、待ち合わせ時間がまだ先であることも言えず、黙り込んでしまうこのは。
じゃあ一緒に居ようかとチャラ男が言った時である。
「あっ、駿介!」
「待たせたな、ってかこの人は?」
駿介を見つけ、パッと笑顔になるこのは。
だが駿介は苦い顔である。このはだけでなく、自分より明らかに年上のチャラそうな男が一緒なので。
「なになに、待ち合わせって彼氏君?」
「えっ、あっ、はい」
「彼氏じゃない」
チャラ男に思わず肯定をするこのは。
このはの頭に駿介の軽いチョップが飛ぶ。
なんとなく状況の察しがついた。駿介。
相手がただのナンパ男ではなく、このはの兄貴だったらどうしようかと少しビビっていたのは内緒である。
「ったく、また早く来すぎて大方ナンパにでもあってたんだろ?」
「あっ、うん……」
「全く……すみません、こいつ口下手なので」
このはの頭に手をやり、諦めてもらうために自分の物アピールをする駿介。
その態度に、チャラ男がカチンと来たようだ。
「あのさぁ、彼氏君、それはないんじゃね?」
「はぁ?」
チャラ男の反応に敵意で示す駿介。
「早く来すぎる事もあるだろうし、彼女可愛いからナンパされる可能性考えて、朝起きたらメールしてあげるくらいしてあげなよ?」
「えっ?」
チャラ男の思ったよりも優しい言い方と声に、駿介の敵意がそがれる。
「何度かあるなら、ちゃんと連絡してあげなよ。こんな所で待つよりも、時間までメールしてた方が彼女も楽しいだろ」
「あ、はい」
「じゃあな」
振り向きながら手を振って去っていくチャラ男。
学生時代に、自分もあんな風に彼女と喧嘩して別れたな。
駿介が過去の自分に重なり、少しだけカチンとなり説教をしてしまった自分に対し、思わず笑ってしまう。
「俺も年を取っちまったな」
その後のチャラ男がどうなったか、駿介たちは知らない。
この日を境に、駿介は約束の日にはこのはにメールを送るようになった。
どこぞの馬の骨がこのはに手をつけないようにと。
「じゃあ買い物に行くか」
「うん!」
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