第17話

「駿介、お願いがある」


「ん? いつものか?」


「うん」


 朝の教室で、このはがしおらしく駿介にお願いをする。

 そして、こんな時はどんなお願いか分かっている駿介。

 分かっているから、ため息が出る。


「分かった、いつだ?」


「今日の放課後」


「良いけど、ちゃんと自分で言うんだぞ」


「うん!」


 笑顔で力強く返事をするこのは。

 その笑顔を見て、内心ではどうせ無理だろうなと更にため息を吐く駿介。

 迎えた放課後。


「あの……ボク……えっと、その……」


 もじもじと、そしてボソボソと言いながら駿介の後ろに隠れるこのは。

 誰もいない空き教室には、駿介とこのは、そして男子生徒の三人。

 このはを空き教室に呼んだのは、この男子生徒で、いわゆる愛の告白である。


 呼んだ相手のこのはが男を連れて来たのだから、男子生徒としては嫌な予感がビンビンである。

 それでも一縷いちるの希望を手に、「付き合ってください」とこのはに言ったのだ。

 大抵の男子はこのはが駿介を連れて来た時点で諦めるのだが、大した度胸である。


「まぁ、そういうわけなんだ。悪いな」


 いまだごにょごにょと上手く断るセリフを言えないこのは。

 このままほっといても、この男子生徒が発狂するまで終わらないだろう。

 なので、このはの頭に手を置き、この女は俺の物なんだという感じで駿介が代わりに返事をしたのだ。


「そ、そうか。彼氏が居るんじゃ仕方ないよな……」


 男子生徒が力なく笑い、空き教室を出ていく。


「あの、ボク……」


「向こうも納得してるんだ。気に病むな」


「うん……」


「ほら、俺たちも帰るぞ」


 申し訳なさそうに駿介の制服を掴みながら、俯き歩くこのは。

 軽くため息を吐きながら、駿介はこのはの頭を撫でる。

 

(どうやって断ったら相手が傷つかないか考えすぎて何も言えないとか、優し過ぎるのも考えものだな)


 自慢してきたり、マウントを取ったりしてくるが、なんだかんだで困っていると施しをしてくれる。

 そんなお人好しな性格もアホ可愛いところなのだが、その性格に付け込まれないとは言い切れない。

 まだしばらくの間は俺が付いてやらないといけないなと思う駿介だった。

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