第7話

「見て駿介! この木の棒、凄いでしょ!」


「すげぇ! 良い感じの木の棒じゃん!」


「この木の棒なら、必殺技出せそうじゃない!?」


「確かに出せそうなオーラあるじゃん! やってみようぜ!」


「プークスクス。馬鹿だな駿介は、木の棒で必殺技なんて出せるわけないじゃん」


「このはテメェ、人がおだててやれば調子に乗りやがって!」


「バーカバーカ! 駿介のバーカ!」


 木の棒で地面をペンペンと叩きながら、山道を駆けあがっていくこのは。

 そんなこのはを「待て待て~」と言いながら歩いて追いかける駿介。

 何故二人はこんな山の中を制服姿で歩いているのか?

 それは、遠足だからである。


 この日は駿介とこのはが通う高校の遠足で山登りに来ていたのだ。

 山と言っても道は舗装され、よっぽど変な事をしなければ遭難する心配もないような場所である。

 一応数人のグループで班を作り行動するように指示されているのだが、ほとんどの生徒が好き勝手に集まって行動している。


 駿介とこのはも他の生徒と同様に、好き勝手に行動している。

 駿介は協調性がないわけではないが、山登りでテンションが上がり、わき道にそれては変な物を拾って来るこのはの世話をしていたら他とはぐれた形だが。

 もしこのはを一人にすれば、変な場所に行ってしまい遭難するだろうから、正しい選択である。


「えっ、アンタらいつもそんな感じなの?」


 駿介のやや後ろを歩く真紀。頬をひき釣らせ半笑いである。

 二人のやりとりを見てれば、そう言いたくなるのは仕方がない。

 彼女は教師からこのはの面倒を見ている駿介の面倒を見るように言われ、こうして駿介がはぐれない様に同行しているのだ。律儀な女である。


「ん? そうだが?」


 駿介が頭に「?」マークを浮かべながら真紀にそう答えると、真紀と一緒に歩いている少女も頬をひき釣らせる。


「いつもイチャ……」


「とも、わざわざ言うのは野暮よ」


 ともと呼ばれた少女、彼女は以前駿介が真紀に会いに行った際に真紀と談笑していた少女である。

 彼女は別に駿介の事は頼まれていない。単純に友達の真紀が居るから居るだけだ。

 なので、駿介に興味は微塵もないのだが、目の前でバカップルよりもバカっぽいイチャイチャを見せられたらツッコミの一つでも入れたくなるというものである。

 そんな風にいつもイチャついてるのかと。


 呆れ顔でため息を吐く幼馴染と、その隣で半笑いで見ているともに対し、駿介はなんでこいつらそんな顔してるんだと疑問に思う。が。


「おーい、駿介もしかしてバテたの? 休憩にする?」


 このはに呼ばれ、真紀たちの事からこのはに興味が移る。

 駿介が中々追いついてこない事にしびれを切らし心配そうに声をかけに来たこのは。

 そんなこのはに、駿介はかぶりを振って応える。


「いや大丈夫だ。ってか木の棒増えてんじゃん!」


「良いでしょ! さっき見つけた!」


 カッコいいポーズのつもりなのか、ガニ股になりながら木の棒を構えるこのは。

 ただひたすらにアホっぽい、しかし、それが彼女の魅力なのだと、駿介は脳内で語る。


「ってか、なんで真紀もここにいるんだ? 他の奴らはとっくに先に行ってるけど?」


「あんたらが遅れてるから付いてってあげて欲しいって頼まれたの」


 実際は教師が駿介を恐れているので、幼馴染だからと理由をつけて押し付けられたような物ではあるが。

 駿介は問題は何も起こしていない、授業態度も真面目である。だが、以前不良の少年を殴って黙らせた件におひれがついて教師の耳にも入っているのだ。

 不良少年の中身はただのお調子者だが、教師たちはまだその事を知らない。なので駿介を不良すら恐れる存在と見ているのだ。

 

「ほら、早くこのはちゃんのところ行ってあげなさい。遭難されたら困るでしょ」


「あぁ」


 ちなみに、真紀はあえてその事は駿介には伝えていない。 

 長い付き合いの幼馴染、もし駿介が自分を不良と思われていると知ったら、まぁショックは受けないだろう。

 だが、そんな不良と仲良くしているこのはは教師から快く思われない。だから自分は距離を置こう。そんなくだらない事を考える可能性がある。

 それは駿介にとってもこのはにとっても良い結果にならない。なので駿介には知られないようにと考えているのだ。

 

 このはの元へ走り出す駿介を、真紀はため息を吐いて見送る。


「ねぇ、とも」


「どうしたの」


(真紀って、もしかして駿介君の事……)


「どうすれば、駿介にするみたいに、このはちゃんが私にも木の棒とかで自慢してくれるかな?」


「一緒に褒めてりゃ良いんじゃない?」


 少し離れた場所で、このはが駿介になにやら自慢をして胸を張っている様子を見つめる真紀。


「私、駿介の言うアホ可愛いってのがなにか分かった気がする」


「私は真紀が分からなくなったよ」

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