第6話

「このは、お前大丈夫か?」


 普段は何かと騒がしいこのはだが、この日は朝から珍しく大人しくしていた。

 一時限目の授業が終わり、休み時間になっても机に突っ伏したまま。

 二時限目の授業が終わっても同じ様子だったので、流石に不安になり駿介は声をかけた。 

 

「あぁ、うん。ちょっとだけ辛いかも」


 心配する駿介に、首を動かし顔だけ向けてこのはがそう答える。

 このはの顔は真っ青である。明らかにちょっとなんてレベルではない程に。

 そんなこのはの顔にギョッとしながら、駿介は机に突っ伏したこのはが、右手でお腹を押さえている事に気付く。

 なんとなく理由を察した駿介。


(このはの事だから、落ちてる物でも食った可能性も捨てきれなくはないが)


「もしかして……女の子の日という奴か?」


 駿介の言葉に、このはは軽くコクンと首だけで返事をした。 

 流石にデリケートな内容なだけに、どう反応すれば良いか分からず、返答に困る駿介。

 そんな彼の様子を見て、何度か口を開いては閉じてを繰り返したこのはが小さい声で言う。


「普段は薬飲んでるから平気なんだけど、今日は忘れちゃって」


「なるほど。それなら任せろ」


 こんな時どうすれば良いか分からなかった駿介だが、今ので答えが出た。

 薬を貰って来れば良いのだと。


「えっ、どこ行くの?」


「ちょっと待ってろ」


 体調が悪いと情緒が不安定になりやすい、なので駿介がどこかに行ってしまうのではないかと不安になり無理に体を起こそうとするこのは。

 そんなこのはの頭をくしゃくしゃと軽く撫で、駿介が笑う。


「すぐ戻ってくるから大丈夫だ。大人しく待ってろ」


 このはを椅子に座らせ、教室を出る駿介。

 彼が向かった先は、隣の教室である。


 どこの教室も間取りは全く一緒だというのに、自分のクラスじゃない教室というのはなんとなく居心地が悪く、入りづらい空気がある。

 誰もが感じる違和感を当然駿介も感じていた。

 だが、そんな事を気にしている場合ではないと、ズケズケと教室に入り、談笑している女子に話しかけた。


「すまん、女の子の日の薬をくれ」


「はいはい、これで良い?」  


「良く分からんが、多分良いと思う」


 駿介の発言に対し、追及も嫌な顔もせずに薬を渡す少女。

 そんな少女の反応に、一緒に談笑していた少女が思わずツッコミを入れる。


「いやいや、おかしくない?」 


「コイツのこういう所はもう慣れてるし」


「流石は俺の幼馴染だな」


 薬を渡した少女は駿介の幼馴染である、瀬川 真紀せがわ まき

 駿介の言葉に、幼馴染じゃなく腐れ縁っていうのよとため息と悪態で返した。


「最近仲良くなった女の子の事でしょ」


「あぁ、薬を忘れたって言ってたから」


「そう、じゃあこれも一応持って行って」


 真紀がカバンの中から巾着袋を取り出し、駿介に手渡す。

 中身は乙女の秘密である。

 駿介が受け取ると、真紀と談笑していた少女がまた慌て始める。


「ちょっ、そこまで渡すの!? ってかクラスの子に借りれば良いじゃん?」


「幼馴染でもない女子に借りるのは流石にヤバい奴だろ!?」


「そうじゃなくて、その女の子が!」


「人見知りなんだよ。だから保健室に連れて行っても多分無駄だ」


 駿介に対しては、ずけずけと物を言うようになったこのはだが、基本はコミュ障である。

 他の人と話すときは、どうしても俯き気味で上手く話せなくなってしまう。

 なので、今回の件は本人に任せていれば多分辛いのを必死に堪えたままになってしまうだろう。

 そう考えて、駿介は幼馴染に頼ったのだ。


「言っとくけど、幼馴染相手でも十分やばいわよ」


 正論である。

 幼馴染の発言に面を食らった駿介。


「そう言われると、確かに恥ずかしい気がする」


「もういいから、さっさと薬持って行ってあげなさい」

 

 幼馴染に背を押され、自分の教室へ戻っていく駿介。

 そんな二人の様子を見て、真紀の友達は「何も言わずに差し出す真紀も十分やばいのでは?」と呟いていた。


 薬も巾着袋の中身も役立ったようで、昼休みに入る頃にはこのはの体調も大分良くなっていた。

 どれくらい良くなっていたかというと、いつものように弁当のおかずを自慢するくらいには良くなっていた。


「女って大変なんだな」


「うん。どれくらい痛いか分かる? お腹からエイリアンが飛び出すくらい痛いんだよ!?」


「それは大変だ」


 腹からエイリアンが出た事はないから分からんなと適当な返事をする駿介に対し、このはは自慢げにどれくらい痛いかを説明していた。

 内容がデリケートなのでツッコミづらい駿介。


(全く。骨折してギブスを自慢する小学生のようなノリでそういう話題をするな) 


 そんな所もアホ可愛いのだから仕方ないと苦笑いを浮かべる駿介であった。

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