第4話
駿介とこのはの出会い。
それは時間を少しだけ遡る。
「こ、これならボクも……」
入学式前日、少し散らかった自分の部屋で手を震わせながら鏡を持つ少女、このは。
鏡には金髪になったこのはの姿が映し出されていた。
中学時代の彼女は控えめ、というよりも引っ込み思案な性格で、休み時間になればスマホか本を見て誰とも目を合わせないように過ごして来た。
当然、友達と言える人物は片手で数えるほどしかおらず、そしてその数少ない友人は全員別の高校へと行ってしまった。
新しく友達を作るために、話しかける練習を彼女は色々と試みた。
コンビニで商品を探してる体を装い店員に話しかけてみたり、街中で偶然出会った同級生に話しかけてみたり、鏡に映る自分に話しかけてみたり。
だが、その全てが失敗に終わった。鏡に映る自分にすら上手く話しかけられなかったのだ。
このままでは高校でもボッチが確定してしまう。
体育の時間にペアを組めと言われれば、先生とペアを組むことになるだろう。
遠足や修学旅行で班を作れと言われれば、足りない班に微妙そうな顔をされながら入る事になるだろう。
考えれば考えるほど、楽しい学戦生活とは程遠い生活になるのは明らかである。
なので彼女はこう考えたのだ。
話しかけられないなら、向こうから話しかけてもらえば良い。
話しかけて貰えるにはどうすれば良いか?
クラスメイトの興味を引けばいい。
じゃあ何に興味を示すか?
彼女の出した結論は、オシャレである。
オシャレな女の子になれば、男女共に話しかけてくるだろう。
服装は指定の制服があるのでオシャレのしようがない。
メイクは試してみたが妖怪口裂け女が出来上がっただけ。
色々とオシャレを試し、最後に残った手段は髪型だった。
真っ黒な髪を金髪に染め、ついでにネットで金髪の似合う髪型を調べツインテールにした。
多分金髪に似合う髪型でツインテールと出たのは、リアルではなく二次元的な意味だったのだろうが。
そして迎えた入学式。
彼女の目論見通り、女子達が話しかけて来たのだ。
「髪綺麗!」「どうやって染めたの?」「私にもやって!」
今までそんな風にチヤホヤされた事のないこのは。
「えっ、これは、フヒッ」
当然、まともな返事は出来なかった。
人に話しかけられないコミュ障が、人から話しかけられるコミュ障になっただけである。
大体が彼女のそんな反応に呆れて離れて行ったが、その反応が逆に可愛いと離れて行かない者もいた。
それから数日。
「やっべ、英語の教科書忘れた」
このはの隣の席に座る少年、駿介。
彼はこの日、英語の教科書を忘れていた。
「すみません。英語の教科書忘れました」
「そうか、じゃあ隣に見せて貰え」
「はい!」
元気よく返事をして、駿介は隣の席のこのはに話しかけた。
「悪い、教科書見せてもらって良いか?」
「あっ、うん」
席を寄せ、英語の教科書を見せてもらう駿介。
初めてこのはと駿介が話したのがこの時である。
変な名前のコミュ障な金髪、それが駿介この時のこのはの印象である。
つつがなく授業が終わり、昼休みになった時に事件は起こった。
「お前さ、最近調子に乗ってね?」
このはが女子に囲まれていた時の事である。
金髪にピアスを付けた少年が、このはに因縁をつけてきたのである。
「中学の時は教室の隅でゴキブリみてぇにしてたくせによう!」
この少年、このはとは同じ中学であり、三年の時のクラスメイトである。
中学時代の彼の性格は、一言でいうならひょうきん者。目立つのが好きで、中学時代にはお茶目な事をしてはクラスメイトから笑いを取っていた。
高校に上がり、ちょっとヤンチャな感じの高校生デビューをしようと試みたのだが、話題はこのはに取られてしまい目立たない存在になっていた。
目立とうとするも、周りは彼の事を知らない人間ばかり。
どう反応すれば良いか分からず、いわゆる滑った状態である。
しばらくすれば自分の事を皆が分かってきて、クラスの中心になるだろう。そんな風に考えていた少年だが、一向にそんな気配はない。
そんな自分と入れ替わるように、日陰者だったこのはの周りに人が集まっている事が彼のプライドを余計に傷つけ、ついに限界を超えてしまったのだ。
「えっ、あっ……」
ただでさえ人と話す事が苦手なこのは、恫喝をされれば当然上手く答えられない。
違う、そんな事ないと言おうとするが言葉が上手く出ず、必死に両手をあたふたしながら違うと表現してみる。
だがこのはの訴えも、少年には届かない。
「あぁ!? 俺とは話す気もねぇってか!」
「あっ……あっ……」
「聞いてんのかオイ!」
少年の堪忍袋の緒が切れたのだろう。
このはの髪を無造作に掴むと、引っ張り上げる。
「いたっ!」
痛みと恐怖から、目の端に涙を浮かべるこのは。
いつのまにかこのはの周りにいた少女達も、少し離れた場所で遠巻きに見ているだけになっていた。
不良のような風貌をした男子、それが声を荒げ暴力を振るっているのだ。
女子だけでなく、男子ですらやめろと言いづらい状況である。
このはを助けようとするものは、誰もいない。
ただ一人を除いて。
「さっきは英語の教科書を貸してくれてありがとう」
隣で静観していた駿介である。
「あんだテメェ!?」
唐突に湧いて来た駿介に脅しをかける少年。
だが、まるでそこに少年がいないかのようにこのはに話しかける駿介。その行動が余計に少年を腹立たせる。
少年の標的がこのはから駿介に変わり、オラつきながら少年が駿介に近づき、肩を掴もうと手を伸ばした瞬間。
「これはそのお礼だ」
少年の顔面に、駿介の拳がめり込んだ。
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