第2話

 本日の授業が全て終わり、放課後になった。

 教室にいる生徒たちはワイワイと雑談をしながら教室を出ていく中、机に座ったまま駿介が黄昏ていた。


「傘……忘れた」


 教室の窓から、外を眺める駿介。残念な事に、本日の天気は雨。

 ポケットからスマホを取り出し今日の天気を見るが、スマホに表示されたマークは一日中雨である。


「最悪だ……」


 ため息を吐きながら下駄箱へと向かって行く駿介。

 もしかしたら置き傘の一本くらいはないかと藁にもすがる気持ちで見に行くが、残念な事に置き傘は一本もない。

 もしあったとしても、悩みながら最終的に持っていかないを選択するのだろうが、なんだかんだで真面目な性格なので。


(駅まで走ったとしても、ずぶ濡れになるのは確定だな)


 何度目かのため息を吐きながら、駿介は靴を履き替える。

 そんな彼に、廊下に響く程の声量で声がかけられた。


「あっ、駿介!」


「ん? このはか」


 声をかけたのはこのはである。

 下駄箱の外で仁王立ちをしてずっと駿介を待っていたのだ。


 相変わらず元気な奴だと思いながら返事をする駿介。

 こんな風にこのはが声を大きくする時は、決まってくだらないマウントを取る時である。

 早くマウントを取りたいこのはは、駿介が相手してくれないと段々と声が大きくなる。

 なので適当な返事をしつつも、出来るだけ早く相手をするように駿介はいつも心がけている。このはがうるさいと周りに迷惑なので。


「どうした?」


「フフン、これを見て見なさい」


 腕を組んだこのはがいつものドヤ顔をして出口へと歩いていく。

 そのまま屋根を見た時点で、駿介はこのはが何をしようとしているのか、何となく想像がついた。


「フンッ!」


 掛け声とともに屋根からゆっくりと滴り落ちる雫を、パンチで弾くこのは。

 次々と落ちる雫にジャブを決めていく。

 

「どうよ!」


 無い胸を張り、ドヤ顔である。

 さて、このはをどうやって褒めようかと考えていて駿介は、ある物に気が付いた。

 このはの傘である。


「なぁ、このは」


「なに?」


「お前、傘から落ちる雫でも今の出来るか?」


「当然よ」


 フフンとドヤ顔で傘を開き、外に出ると雨が傘に降り注ぐ。

 ポタポタと傘の露先から雫が落ちていく。

 早速雫にジャブを決めようとするこのは。


「傘を持っていてはやりにくいだろう。俺が持っておいてやる」


「ありがと!」


 駿介はこのはから傘を受け取ると、ゆっくりと歩き出す。

 このはは駿介が歩き出した事を気にも留めず、歩調を合わせながら傘から滴り落ちる雫にジャブを決めている。


「おぉ、流石だな!」


 このはが今の状況を疑問に思わないようにと、一定のタイミングで褒める駿介。

 事あるごとに褒められ、このは、既に有頂天である。


「まぁね。こんなのだって出来るよ!」


 パンッパンッと駿介の目に止まる速さで、このはの拳が二連続で雫を捕える。


「すげぇ! このはは天才だな!」


「そうでしょそうでしょ!」


「そういやお前の家って駅がある方向だっけ?」


「うん、そうだよ?」


「そうか」


(助かった。これで駅まで濡れずに済みそうだ)


 隣では傘から落ちる雫に夢中でジャブを決めるこのはを見て、全くアホ可愛い奴だと思う駿介であった。

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