隣の席の彼女は今日もアホ可愛い

138ネコ

第1話

 午前の授業を終えるチャイムが鳴り響く。

 チャイムの音と共に教師が教室から出ていくと、元気な声が教室に響き渡る。


米内 駿介よねうち しゅんすけ!」


 声の出所は教室の一番後ろの、窓際から二番目の席である。

 どうやら窓際の席の少年に声をかけているようだ。

 隣の席なのだから、そこまで大きな声を出す必要はないはずなのに、少女は教室に響き渡る声量で声をかけた。


「ん? どうしたこのは?」


 声をかけられた少年、駿介は別段驚く事なく、まるで世間話をするかのような反応で声をかけてきた少女、このはに返事をする。

 クラスメイトもこのはの声に特別反応をしない所を見ると、日常的な光景なのだろう。


 少女はフフンと言わんばかりに。


「フフン」


 あっ、言った。

 フフンと言いながらドヤ顔で座ったままの駿介を見下ろす。

 金髪ツインテールに大きく開かれた口から見える八重歯という見た目からアホっぽい感じが滲み出ている少女、このは。

 だが、彼女がアホっぽいのは見た目だけではない。


「これを見なさい!」


 エッヘンと無い胸を張り、ドヤ顔でこのはが駿介に見せつけてきたのはバナナである。


「バナナがどうした?」


「ここだよ、ここ」


 そう言ってこのはが指さした先には、銀色のシールが貼ってあった。


「どうよ!」


 見せつけられたバナナのシールを見て、小学生の頃、給食でバナナが出た時にシールの付いたバナナをじゃんけんで取り合ったりしたな、そういやなどと思う駿介。

 普通なら本当にそんな事を自慢しに来たのかと疑問に思うだろう。

 だが、この少女はそんな事でマウントを取るために、自慢しに来たのだ。

 まごう事なきアホなので。


 そんなマウントを取られても普通ならアホらしくてスルーするだろう。

 だが、駿介は心の中で軽くため息を吐きながら反応するのだった。


「す、すげぇじゃん!」


「そうでしょう! そうでしょう! 朝弟と取り合って勝ったんだ!」


 高笑いをしながらバナナの皮を剥き、満足そうな顔で頬張り始めるこのは。

 そんなこのはを見て、駿介は満足そうに鼻で笑うのだった。


(全く……今日も隣の席のコイツはアホ可愛い)

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