第52話 まさかの…

 王都を出ることの報告と、もうギルドや貴族とやり取りを気にしなくて良くなったリリスたち。


 「ほら、書状だ。全く、恐ろしい子供だな…一国の王様を脅迫するとは」

 「全てはこの子たちの為にです。お忘れですか?私魔族ですよ?」

 「そうであったな…これで気が済んだか?」

 「ええ。では…アリアーヌちゃんバイバイ」


 リリスが振り返り、リンとティムと一緒に部屋を出ようとすると後ろから服が引っ張られた。リリスが後ろを見ると…それはアリアーヌの手だった!


 「お姉ちゃん行っちゃうの?」

 「うん。王都にはティムを探しに来ただけだからね」

 「いや!行かないで!」

 「ティムも無事見つけたし、村のお墓に挨拶しなきゃなのよ」

 「いや!じゃあ私も行く!」

 「王様からもアリアーヌちゃん止めてください」

 「アリアーヌや、リリスたちは家に帰るだけだ…もう会えなくなる訳じゃない」

 「いや!行かないで!お姉ちゃん」


 アリアーヌがリリスたちを引き留めようとしていると、扉が開き王妃様が入ってきた。


 「話は聞かせてもらいました」

 「…王妃様」

 「リリスちゃん、今回の件は誠に申し訳ございません。あなたの言葉で私たちが常に危険だった事、貴族がしてきた悪事の事を思い知らされました。これからこの国は今までしてきた事への清算をしていく予定です」

 「そうですか…」

 「もちろん、すぐには良くなるはずありませんので時間がかかります。その間にもアリアーヌを誘拐し清算させまいとする貴族が出てくるかもしれません…」

 「え?」

 「この国が良くなるまでアリアーヌを預かってもらえないでしょうか?」

 「えええ!まさか…知ってたから王様はアリアーヌちゃん止めなかったの?」

 「ああ。昨日、お主から言われて気づいたんだ。私たちはなんて危険な事をしていたのかと」

 「アリアーヌは寝てたから、もちろん知らないわ。だから、この子があなたと行きたいと言うなら行かせてあげようってね」

 「え?え?いや、私たち王都出て行くんですよ?出るともう入れないですよ」

 「それはお主が決めた事だろ?わしはお主らを追い出す気はないぞ?」

 「え~」


 まさかの王族の言葉に驚き続けるリリス。少し困った顔でリンとティムを見る。


 「お姉ちゃん、アリアーヌちゃんの事きらい?」

 「ううん。好きだよ。でも…ティムもだけど王都を出ると悪人だけじゃなくて、魔物もいるから危険なのよ」

 「あ~」

 「私とリンだけでこれからずっと2人を悪い人や魔物から守っていかないとなんだよ?」

 「…お姉ちゃん?」

 「なに?ティム」

 「私も戦闘訓練する!」

 「え?ティムも動けたらお姉ちゃん助かるけど…どうしたの?」

 「私に力が無かったから王都に連れてこられて、おじいちゃんまで亡くなったんでしょ?今も…私を守れるかで話してるの聞いてて…私も強くなりたい!って思ったの。3人ならアリアーヌちゃん守れるよね?」

 「私も、アリアーヌちゃん守るよ」

 「…リンまで」


 どうやらティムはあの時、自分に力があればおじいちゃんが亡くなる事もなく、自分も王都まで連れて来られる事もなかったんだと思い…今もアリアーヌだけでなく自分も守ろうと考えているリリスを見て、私も強くなろうと思ったらしい。


 「もう…2人の気持ちはわかったよ。でも、いろいろ確認するから待ってね」

 「うん」


 リリスはアリアーヌの目線に合うようにしゃがみ、考えを確認していく。


 「アリアーヌちゃん、これからお姉ちゃんたちが行くとこは悪い人もいるし、怖い魔物もいっぱい出るとこだよ?私たち3人で出来る限り助けるけど、まだみんな小さな女の子なの確実に守れるかはわからないんだよ?それでも一緒に来るの?」

 「うん!行く!」

 「お父さんとお母さんとも次に会えるの早くて一月先、遅いと何年も会えないんだよ?それでもいいの?」

 「うん!お姉ちゃんと行く!」

 「そっか、わかった。お父さんたちにも確認するからリンたちと待っててね」

 「うん」


 リリスは立ち上がり、王様と王妃様にも確認していく。


 「お聞きになったと思いますが、よろしいのですね?小さな女の子3人なので確実に守れる保障ありませんよ?」

 「ああ。先のアリアーヌの言葉でもわかると思うが…アリアーヌはお主のことを好いておる。この城に小さな子供はアリアーヌ1人なのに、私たちは仕事ばかりで何年も構ってやる事が出来なかった。そんな時…お主たちに助けられ姉妹のように扱われれば、お主たちの方に気持ちが向くのも当然じゃ」

 「そうですか…」

 「リリスよ。わしらはこれから腐りきった貴族どもを相手にせねばならん。最悪の場合、命を落とすことも考えられる…。王家の血を引き継ぐアリアーヌをどうか守ってやってくれ。頼む」

 「お願いします」


 王様に最後の確認をしたかったリリスだが、貴族を相手に命を落とすことまで考えられていた事、アリアーヌをどうか守ってやってくれと王様に続き王妃様まで頭を下げてきた事に驚いた。


 「…わかりました。頭上げてください」

 「そうか…よろしく頼む」

 「わかりました。では…私たちも出かける準備がありますので、アリアーヌちゃんの旅の準備をお願いします。長い間会えなくなるので…家族3人でどうぞ」

 「わかった。アリアーヌや、旅の準備しよう。おいで?」

 「うん」

 「ではまた、のちほど…」


 アリアーヌと一旦別れ、リリスたちは部屋に戻り旅支度を始めるのだった。

(まさかアリアーヌちゃんまで連れていくことになったけど、これから無事にやっていけるかなぁ…。)

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