第50話 お別れの準備

 「あの…リリスちゃん?さっきから何故私に向けて話すのでしょうか?」

 「いえ、王妃様が任せるほどのメイドさんならそれなりに信用されてると思っていたので…家族が襲われた今は…」

 「貴様!我が妻に何を言うか!」

 「あなた待って!ここは私が。確かにあのメイドにあなたたちの身の回りの世話を頼んだのは私です。私のみる目がなくてごめんなさいね。でもね?アリアーヌも飲まされてるのよ?何でそう思うの?何か見てきたの?」


 リリスはこれから家族になろうと言っていた2人が、王妃様が任せたメイドに毒を飲まされた事に少し怒っていた。


 「魔力を追って着いた先はベイン男爵の屋敷でした。私は知らないので近くのお店で誰の家か教えてもらいました」

 「ベイン男爵って…」

 「私が王都にくる時、ベイン男爵の家紋入りの首輪を着けた全身ケガとアザだらけの小さな女の子2人が、壊れた馬車の荷台にあった樽の中で亡くなってました。そんな家に入って行ったメイドですよ?」

 「そうですか…」

 「私もリンも王都に着いたその日に誘拐され監禁されています。ティムは盗賊に襲われた村で王都から来た奴隷商人に無理矢理連れてこられてるんです。そして今回、お城の中なら安全だと思っていたのに…」


 リリスの言葉を聞いた大人たちは改めてこの国の状態を認識させられる。


 「アリアーヌちゃん誘拐したのもベイン男爵と関係ある人だと思いませんか?もしくは…本人」

 「まさか…」

 「私の予想ですので無視してもらって構いませんが、黒い噂が絶えない人なんですよね?何故、放置されてるのかがわかりません」


 リリスは話し終わると立ち上がり、リンとティムの所へ行き起こし始める。


 「リン、ティム起きて!」


 肩を掴み体を揺らしながら声をかけるリリス。


 「リン、ティムほら?起きて!」

 「ちょっと、リリスちゃんなにを?」

 「起こしてるだけですよ」

 「今日は寝続けると思うわ」

 「…そうですか」

 「あなたも疲れたでしょ?今日はもうお部屋でゆっくりするといいわ」

 「…はい。…失礼します」


 リリスは扉を開け、リンたちがいる部屋から出て行った。

(自分の国の貴族たちがしている事、全然わかってない…こんなとこさっさと出て安全な土地探さないと)


 リリスが部屋を出た後、部屋の中では…

 「あんな小さな子にここまで言われるとはな…」

 「そうですな。ナーレ領主といいベイン男爵といい、早急に貴族たちがしている悪事を調べないとこの国に未来はありませんぞ」


 王妃様は無言でうつむいていた。


 リリスは王妃様に部屋に戻るように言われたが、お城を出て…冒険者ギルドに向かっていた!


 「ティムも助け出したしもうこんな所無理していなくていいや。今必要なのはお金だ。…馬車代稼がないと」


 冒険者ギルドに着いたリリス…中に入り買取りカウンターへと歩きだす。


 「買取りお願いします」

 「おう。ん?見かけない嬢ちゃんだな?ギルドカード出してくれ」

 「はい」

 「リリス?今依頼に出てるリリスか?」

 「ええ、たぶん合ってますよ。今はお城で客人としてお世話になってます」

 「お城の客人として?ん?あの依頼はなんだったんだ?」

 「ナーレ領主が勝手に依頼したんですよ。もうじき、王様に裁かれます」

 「そ、そうか…なら買取り終わらせようか。出してくれ」

 「はい。これです」


 リリスは手持ちにある薬草や葉っぱを半分取り出してカウンターに置いていく。


 「おう。じゃ見せてもらうぜ?これはまたいい物持ってきてくれたな~」

 「上級ポーションの素材になるかと…」

 「そうだな。それにこれだけの量だ…少し上乗せしといてやるよ」

 「ありがとうございます」

 「ほらよ?金貨3枚だ」

 「ありがとう」

 「おう。まだ依頼出てるから気をつけてな」

 「はぁい」

(1人銀貨7枚もあればナーレまで行けるから、金貨2枚と銀貨1枚さえ残しておけば村まで帰れるかな…)


 冒険者ギルドから戻り、城内に用意された部屋に戻るリリス。

(お金もなんとか出来たし…これならあの子らが起きたらいつでもここを出ることは出来そうだけど、毎回毎回町の入り口で止められるのはちょっとねぇ…出る前になんとか出来るならそれが一番なんだけど…)


 城内の部屋に戻り考え事をしていると外はすでに夕方になっていました。

(リンとティムとアリアーヌちゃんまだ寝てるのかな?大人はいいけどアリアーヌちゃんだけでもお別れの挨拶した方がいいよね…)


 「いろいろ考えてると何か疲れちゃった…今日はもう寝よう」

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