第26話 リンの村へ
「おはよ」
「おはよ~」
ポーチからいつもの服を取り出し着替える。木の短剣をポーチのベルトに差し、水瓶に溜めていた水で顔を洗い出かける準備をしていく。
「いっぱい歩くからしっかり食べようね?」
「うん」
パン、果実、昨日残してしまった肉の串焼き、トマトを用意する。
「お姉ちゃん、トマト潰すよね?深めの器だすね?」
「ありがと。赤い飲み物取らないと倒れちゃうからね」
朝ご飯を食べ終わり、食器も洗い再びポーチへしまう。
テーブルに地図を広げ…
「教えてもらったリンの村の場所はここだね。あっちの方向かな?」
地図をポーチにしまい教会の外に出て手を繋いで歩いていく2人。
村に到着するまでに何度か魔物に襲われるが、戦闘訓練をこなしてきた2人はさくさく進んでいく。運も良く大型は出て来なかったので、スライム、ウサギ、ウルフなどの小物を❮血の精密操作:槍❯でくないを作り遠距離から討伐していく。
「やっぱりこれ便利だぁ」
「よかったね。お姉ちゃん」
歩いては少し休憩、また歩いては休憩を繰り返し少しずつ村に向かう。
お昼過ぎた頃、歩いていたリリスの鼻に血の臭いがしてきた。
「リン、近いかも…血の臭いしてる。気をつけて」
「うん。盗賊の残りも気にしないとね」
少し歩くと…村があった。潰れた家がほとんどで、今にも潰れそうな家が2件しか残ってなかった…。村の中は周囲に血が飛び散っており、亡くなった村人たちはウルフら魔物の餌になった後のようだった…。
血と肉片が周囲に飛び散っているのを見たリンは、その場に屈み込んでしまう。
この村の惨状をリンに見せたくないリリスは、まだ被害の少ない場所にリンを連れていき休ませる。
「リン、大丈夫?」
「…うん」
「私が見てくるよ」
リンを休ませ、リリスは1人で村を見てまわる。血と肉片を目にしながら…潰れた家や残っていた家を見てまわるリリス…その時ガタッ!とどこからか音が聞こえた。音が聞こえた方に向かって行くと…1人生き残っていた。
だが、その人はかなり高齢の男性で足にケガをしており、潰れた家の瓦礫に埋まっていた。
すぐにリンを呼びに行き…
「生き残りがいたから手伝って?瓦礫どけたいの」
「わかった」
「息してるか確かめないと…まず顔の周りの瓦礫どけるよ」
出てきたのは、もう残り体力も少なそうなお爺さん。
お爺さんが目を覚ますと…
「おお、リン?リンか?」
「うん。リンだよ」
「よかった…お前は助かったんだな?」
「うん。このお姉ちゃんのおかげでね」
「そうか、そうか」
「お前が生きているならティムも喜ぶ…」
「え?ティムちゃん?」
「私とティムは盗賊から生き残り、2人で村にいたところを王都から来た奴隷商人が無理矢理ティムを連れていったんじゃ…。わしは抵抗したがこのとおりじゃ」
「そんな…」
「助けてやりたいがわしの体力も…もう終わる…早く…逃げな…さい」
このお爺さんはティムの祖父だった…早く逃げなさいと言いきると目を閉じてしまう。
「おじいちゃん、おじ~ちゃん!うわ~ん」
ティムの祖父を揺さぶり起こそうとするリン…だがティムの祖父はもう亡くなっていた。知り合いの死を目の前で見たリンは、蹲り…泣きだし…頭を抱えて苦しみだした!
「リン!大丈夫?ヒールできる?落ち着いて…そう落ち着いて」
「うっ…ヒ、ヒール」
すぐにリンに駆け寄り、背中を擦ってあげるリリス。
リリスはそっとお爺さんの顔にポーチから取り出したハンカチをのせ、上から瓦礫を軽く置き直した。
頭痛はおさまっているリンだが、ずっと座り込んで何か考えているかと思ったら急に体を起こしどこかへ走って行った…。リンを追いかけるリリス、リンは今にも潰れそうな家の前に立っていた。
「ここ。私の家…全部思い出したよ」
「あの日お母さんと一緒に夜ご飯作ってたらお父さんが焦って帰ってきて、盗賊だ早く逃げろ!お父さんたちで時間稼ぐから村の裏から逃げろ!って。私とお母さんが急いで村の裏から逃げた時、村からお父さんの悲鳴が聞こえてきて…。私は森へ走ってたけど気がついたらお母さんが私の後ろで盗賊の相手してた。…その時にお母さんが斬られるのを見ちゃって教会まで走って逃げたの」
たぶん、この扉の先にお父さんの遺体があるはず……
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