32:大事な友達
《花冠の聖女》が《光の樹》を芽吹かせた。
その吉報は王宮中を駆け巡り、たちまちリナリアは時の人となった。
《光の樹》は芽吹いたばかりで、かつての巨木の姿を取り戻すまでは時間がかかりそうだが、それでも王宮は歓喜に沸いた。
大勢の人間が入れ替わり立ち替わり中庭を訪れ、黄金の光を放つ神秘の芽を見て感嘆のため息を漏らした。
偉業を成し遂げたリナリアは大げさなまでに褒め称えられた。この分だと、明日にはリナリアの名前が城下に暮らす人々の口の端に上り、やがて国中に広がるに違いない。
きっとこれから救国の聖女として持ち上げられることになるぞ、大変だな、とイスカは笑っていた。
労をねぎらわれ、《光の樹》が芽吹いた宴を兼ねた晩餐会に呼ばれたリナリアは豪華絢爛な食堂で国王一家と食卓を囲んだ。
公爵邸でテーブルマナーを叩き込まれたイスカはセレンとして振る舞い、ウィルフレッドやテオドシウスとはもちろん、ロアンヌとも笑顔で会話していた。
リナリアは見ていて感心した。
自分を魔物に変え、兄を殺そうとした疑いのある相手と朗らかに笑い合うなど、リナリアにはとても無理だ。
晩餐会には宰相アーカムや筆頭書記官メイナードといった重臣の他にも、王宮で妃教育を受けているデイジー・フォニスが出席していた。
ふわふわと波打つ蜂蜜色の髪。
ぱっちりとした大きなアクアブルーの目。
その容姿が孤児院でよく遊んでいた人形そっくりそのままだったため、王子妃選考会で初めて会ったとき、リナリアは一瞬、本気で人形が動いていると思った。
選考会では誰もがライバルの足を引っ張り、蹴落とすことしか考えていなかった。
もしも暴力は禁止という条項がなければ、場外乱闘の末に死人が出ていたことだろう。
そんなギスギスした空気の中、リナリアに唯一自ら声をかけてくれたのがデイジーだ。
フォニス公爵家といえば、バークレインと同じ四大公爵家の一つ。
遥か格下の男爵令嬢など相手にする義理はないのに、彼女はリナリアの緊張を見抜いて手ずから紅茶を淹れ、巧みな話術で楽しませてくれた。
デイジーはリナリアだけではなく、色んな女性に笑顔を振り撒き、相手を笑顔にしていた。
デイジーに声をかけられた女性は例外なくデイジーの虜になった。
リナリアもデイジーのことが大好きだ。彼女を嫌う人はよほどの捻くれ者だろう。
「《光の樹》を芽吹かせるなんて本当に凄いわ、リナリア。あなたは私の自慢のお友達よ」
夕食後、デイジーは中庭に面した回廊で甘く微笑んだ。
――晩餐会ではあまり話せなかったから、少しお喋りしましょう。
そう言って、デイジーは人気のない回廊の奥へとリナリアを連れて行った。
デイジーの背後にある太い柱にはフルーベル薔薇の彫刻が施されている。
月光が差し込む回廊で、薔薇を背景にして立つ美少女の姿はなんとも絵になった。
「ありがとうございます、デイジー様」
(友達だって言ってもらえた……!!)
敬愛する女性に友達認定され、胸に感動の波が広がっていく。
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