幕間

むかしばなし

 むかしむかし、ある森の中に小さな村がありました。その村の北には小さな社があり、その社には神が一柱いたそうです。その村は神様に守られていることもあり、小さいながらもしっかりと存続し続けておりました。

 神様は人前にこそ姿は見せませんでしたが、様々な恵みを村にもたらしました。ある時は村長に農耕に関する知識を与え、ある時は村一番の狩人に罠の仕掛けを教え、またある時は嵐から村を守ってくれたそうです。


 神様は姿を見せたことはありませんでしたが、一度だけ、たった一度だけ、全ての村人に声を届けられました。曰く、私はこの村を守り、導こう。その代わりに、私のことは村の外の人間には一言たりとも漏らさないように。一度でも他言したのならば、私はこの村を見捨てよう、と。

 村人たちは神様の言葉を胸に刻み、神様の存在をひた隠しにしました。神様への感謝を捧げ、社を作りはしましたが、それだけでした。村の外の人が社について訪ねてきた時も、口を揃えて、ただの願掛けだ、と言い張るほどでした。


 しかし、その約束も少しずつ弱まっていきます。最初に神様から直接言葉を聞いた者はまだ良かったのですが、子供が生まれ、孫が生まれ、世代交代をするうちに、その約束はただの言い伝え程度という扱いになってしまったのです。それでも、親が守ってきたのだからと、しばらくは約束は守られ続けました。

 けれど、ある時、行商人に若い男が漏らしてしまいました。


 行商人は言いました。この村はいつも豊かだ。安心して商いができる、と。

 気をよくした男は答えました。そうだろう、この村は神様に守られているからね、と。

 言ってしまった直後に、若い男ははっとして、すぐに行商人に言いました。今のはここだけの話にしてくれ、と。行商人は最初から信じていたわけではないので、分かっていると笑いました。

 運良く、それを聞いたのは若い男と行商人だけ。若い男は胸を撫で下ろしました。


 けれど、その日以来、神様の加護は失われてしまったのでした。

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