最終章 未来へ
五十四話 プロポーズ
早いもので三月になった。今日はとしくんに誘われて、いつものメンツで桜を見に来ている。
昔よく二人で遊んだ桜公園で、今日は僕らだけじゃなくて近所の人も大勢集まっている。またこうして見れるなんて、ちょっと前の僕なら思いもしなかっただろう。
毎年、としくんのことを思い出して悲しくなっていた。でも今は違う、隣にはとしくんや皆んなが笑っている。
一年前はこんな関係性になるなんて、思いもしなかっただろう。としくんだけじゃなく、新田くんや先生や九条さん。
僕は色んな人に支えられてここに立っている。言葉に出すにはまだふわっとしてるから伝えられないけど、いつかちゃんと伝えられるようになりたい。
レジャーシートを広げて皆んなで、ワイワイとお弁当を広げて騒いでいる。僕はとしくんを見つめて、自分で作ってきたお弁当を見せながら声をかけた。
「としくん、これ作ったんだけど。食べる?」
「えっ! 陸が作ったのか! 食べる! あ〜ん」
「ふふっ……はい、あ〜ん。美味しい?」
「うん、美味い。陸はいいお嫁さんになるな」
「もうっ! としくんったら」
嬉しそうにしているとしくんを見て、左手に傷を作ってまでも頑張って良かったなと思った。
卵焼きを作るのに失敗して一パック全部無駄にしてしまったけど、母さんがめげずに教えてくれたおかげで美味く? 作れたから良かった。
切る時に失敗して左手を切ってしまって、卵焼きが血まみれになってしまった。そのため、もう一度作ったことは内緒にしておこう。
少し焦げてしまって、だいぶ捨ててしまった。そのため、あまり数がないから申し訳ないけど……。
「喜んでくれて、嬉しいよ」
「陸が作ってくれたものなら、例え人類が食べれないものでも俺は喜んで食べるよ」
「としくん……」
そんなことを爽やかな表情で言うものだから、周りが完全にドン引きしていた。そこなことをお構いなしな彼にこう告げた。
「流石にそれはやめて」
「……うー」
「まあでも、嬉しいよ」
そう言って彼の両手を掴んで、顔を真っ直ぐに見つめて微笑んだ。すると、周りにいた人たちがより一層ドン引きしてどこかへ行ってしまった。
もし手に傷が付いていること気がつくと、としくんが気にすると思って後ろに手を隠した。
するとそれに気がついたとしくんが、左手をすかさず握ってきた。そして嬉しそうに微笑んでから、怪我してる人差し指をカットバン越しにキスをしてきた。
「としくんっ!」
「どうした? 珍しい、喧嘩か?」
「空雅くん、ち……違うよ」
「そっか、仲良くな」
そう言って笑って直ぐに、先生と楽しそうに談笑をし始めた。僕は自分でも分かるぐらいに、顔が真っ赤になっていた。
僕はいつまでも、僕の手を握っているとしくんを直視できずにいた。そんな僕に構わずに、としくんは微笑んでいる。
「としくん、いつもよりも機嫌いいね」
「そりゃあ、陸が俺のためにしてくれたことはなんでも嬉しいよ」
そう言って僕の肩に寄りかかってきて、嬉しそうにこっちを見て微笑んでいた。その光景を見て、僕も更に嬉しくなってしまうから不思議だ。
昼食を食べ終わり、先生と新田くんはバトミントンをしていた。先生があまりにも下手すぎて、新田くんに完璧に負けていたけど。
九条さんは、そんな二人をガン見して変な眼差しを浮かべていた。いつもの通りでなんか、変な安心感があった。
そんな時だった。桜の花びらが風で舞い上がって、一瞬彼の顔が見えなくなった。次の瞬間、気がつくと桜が舞い散る中で僕たちはお互いの唇を重ねていた。
「としくん、好きだよ」
「ふっ……俺もだよ」
「来年も一緒に見ようね」
「ああ、そうだな」
そう言って、僕たちは自分の体をより一層相手に密着させて微笑む。こうしていつまでも、同じ時を共有していきたい。
これから先何があっても、彼となら楽しい未来が待っている。そう思って僕は、彼の手を優しく握った。
するととしくんは咳払いをして、顔を真っ赤にしていた。そして僕の目を真っ直ぐに見つめて、真剣な表情で伝えてくれた。
「来年だけじゃなくて、再来年もその先もずっと。おじいちゃんになっても来ような」
「つっ……はい」
「意味分かってる?」
「えっと、プロポーズみたい」
僕は恥ずかしいのと嬉しい気持ちが混ざって、冗談混じりでそう言ってしまった。彼の真面目で優しい表情を見て本気だと確信できた。
僕は軽く頷いて抱きついて、彼が僕と同じように緊張しているのが鼓動で分かった。あまりにも早くて、ちょっと怖かったけど……。
僕らは立ち上がって靴を履いて、レジャーシートから離れたところで桜を見上げていた。不意に名前を呼ばれて、彼の方を見ると腕を突き出していた。
「陸、俺は幼なじみとしても恋人としても陸が好きだ。どんな形であっても、俺は大久保陸とこれからも一生を共にしていきたい」
「僕もだよ。僕もこれからも、としくんと……田口俊幸と一緒に生きていきたい。頼りないけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕は感極まってしまい少し泣いてしまった。としくんの突き出している腕に、僕も腕を突き合わせた。
僕らはお互いに目を見つめて、僕はとしくんの肩に頭を乗せて顔を近づけて微笑み合う。他の人から見られているけど、それでもこのままでいたいと思う。
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