五十三話 熱量
人の看病なんて初めてやったけど、案外楽しいな……なんて思ってしまう。両親や兄貴にやってもらうことはあっても、誰かにすることなんてないからね。
いつも僕がやってもらってばかりだから、こんな風に何かをするって新鮮だな。来てよかった……。
こんなに弱っているとしくんを見るなんて、思いもしなかった。心配だったけど、元気になってきて良かった。
ひとしきり看病が終わっておでこの熱を測ってみると、さっきよりも熱が引いていることに気がつく。
呼吸も落ち着いてきてるし、汗も少なくなってきていて良かった……。僕は体を拭いたタオルを洗おうと立ち上がろうとした。
そんな時に急にとしくんに、腕を引っ張られて布団の中で抱きしめられた。僕が色々と混乱していると、寝言を言っていて眉間に皺を寄せて泣いていた。
「り〜く、行かないで。ここにいて、俺を独りにしないで……」
「としくん……大丈夫だよ。ここにいるよ」
僕がそう言って頭を撫でると、直ぐに笑っていてそれが可愛かった。僕のことがよっぽど、好きなのだと分かって嬉しかった。
まるで子供のように泣いている彼を、僕はとても愛おしく感じてしまう。体が大きくなっても、昔と変わらずに泣き虫としくんのまま。
それが今はとても、嬉しくなってしまう。変わったところも、変わらないところも全部好きで愛おしい。
しかしこのまま病人といるのは良くないと思い、必死に出ようとしたが全くと言っていいほど離してくれそうになかった。
それどころか……なんというか。としくんのとしくんが、物凄く反応していてそれが当たっている。
「りく……」
それだけじゃなくて僕の耳元で、甘くて色っぽい声でそう呟かれてしまう。僕はちょっとなら、このままでもいいかなと思って目を瞑ってしまった。
気がつくと眠ってしまったらしく、目を開けると僕を抱きしめて微笑んでいるとしくんと目が合った。
僕は気になっておでこに手を当ててみると、しっかりと熱は下がっていた。そのことに安堵すると同時に、彼が少しバツ悪そうに言ってきた。
「その……俺が、引き込んだのか」
「そうだよ。僕の意思で入らないよ、病人なんだし」
「うぐっ……その……夢で、陸が離れていく夢見たからだと思う」
「そっか……よしよし、怖かったね。もう大丈夫だよ」
「……子供みたいに」
僕はそう言って頭を撫でてみると、少し恥ずかしそうにそう呟いていた。まるで大きな子供みたいだなと、思って思わず笑ってしまう。
それにしてもんなんだか、頭が痛いような感じがする。なんだろう? これ……もしかしてと思った時に咳が出てしまった。
「ゲホッ」
「陸……もしかして、うつったのか?」
「そうみ……ゲホッ」
今度は僕が風邪を引いてしまったようで、としくんに心配そうに覗き込まれてしまう。風邪ってキスしたらうつるのかな?
もしかしてそれが原因だったりするのかな? そんなことを熱で、意識が朦朧とする中考えてしまう。
喉が痛いし、熱もあるみたいで全身がだるかった。それでもとしくんが、隣にいてくれるってだけで元気になれる。
我ながらかなり重症だなと思いつつ、僕が隣にいたことで少しでも彼の不安が取り除けていたのかな。
もしそうだったらいいなと思って、彼にここぞとばかりに甘えてみる。こんな時じゃないと、素直に甘えられないし。
なんとなくしか覚えててないけど、お姫様抱っこをされたような気がする。家に連れて行ってもらった。
それから暫くの間、としくんが献身的な介護的な感じの看病をしてくれた。体を拭いてくれたり、お粥を作ってくれたりした。
「はい、あ〜ん」
「自分で食べれるよ」
「いいから、やりたいんだ。ダメ……か?」
「その言い方はずるいよ」
僕がそう言うと彼は嬉しそうに笑っていて、こんな笑顔を見れるなら。看病も悪くないなって、気になるから不思議だ。
次の日にはすっかり治って、学校に行くと九条さんにとニヤニヤと聞かれた。だけど、詳細は言わなかった。
「風がうつるなんて、一体どんな看病したのかしら?」
「べ、別に」
「そういえば、寝てる時に水飲ませるのってよくないよな。むせるし」
「……何を突然に」
僕たちの会話を聞いた新田くんが、突然に訳の分からないことを言い始める。それを聞いたとしくんが、僕の耳元でニヤニヤしながらこう呟いた。
「俺も水、口移しで飲ましたよ」
「なっ! 僕はそんなことしてな」
「へー、したんだ。陸のエッチ」
「もうっ! としくん!」
そんなことを言い合って笑い合って、これからもそんな日常を彼と共に紡いていきたい。そう強く感じた出来事だった。
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