五十二話 看病

 今日はホワイトデー。今日は土曜日なため、前々からデートに行く予定をしていた。しかし、昨日からとしくんの体調が良くなくて咳をしていた。


 そのためデートは中止することにしていたんだけど、完全に熱で倒れてしまったらしく看病に行くことにした。


 としくんには風がうつるといけないからと、言われたけどこんな時こそ彼氏らしいことをしたい。


 そう思った僕は住所を教えてもらって、住んでいるマンションへと来た。道中、大丈夫なのかな? とか、一人で平気かな? と考えていた。


「うわあ……ここの十五階か。タワマンってやつ?」


 言われたところに来たんだけど、思ったよりも立派なとこに住んでるんだな。そういえば、お父さんって建築関係って言ってたんもんな。


 不動産みたいな感じかなって漠然と思っていたけど、かなりのお金持ちだよね。前から気になっていたけど、デートの時とか払ってくれているし。


 無理してるんじゃないかって思ってたけど、もしかしてバイトとかしてるのかな? 毎週、平日の午後は忙しいっていう時が決まっているからやっぱバイトなのかな?


 そんなことを考えながら、エレベーターに乗り込む。すると後から上品な感じの女性が入ってきたから、何階か聞いて回数を押すと動き始める。


「何階ですか?」


「十五階です。ありがとうございます」


同じ階か……としくんと関係あったりしてと、考えてしまうがそんなことありえないよなと思った。とりあえず、必要そうなもの持ってきたけどこれで足りるかな?


 そう思っていると、いつの間にか十五階に到着していた。女性を先に降りてもらうと会釈をしてくれたので、僕も軽く会釈をする。


「えっと、千五百六号室はと……」


「あの、うちに何かご用事でしょうか」


「えっ? あの、もしかして田口俊幸くんの」


「はい、母です」


 エレベーターから降りて独り言のように呟くと、上品そうな女性が足を止めて声をかけてきた。


 まさかの、としくんのお義母さんだったとは。凄い偶然だなと思っていると、不思議そうに見つめられたから頭を下げて挨拶をすることにした。


「あのっ! 初めまして、とし……俊幸くんと仲良くさせてもらっている同級生の大久保陸です。ご挨拶が遅れまして」


「あらっ、こちらこそご挨拶が遅れまして。君が陸くんね、聞いてるわ。お嫁さんの」


「えっ?」


 一体全体、何を考えてるんだよ。弟くんだけじゃなくて、母親にも言ってるって……どんな神経してるのかな?


 それより恥ずかしい気持ちよりも、嬉しいって気持ちの方が優っている自分も大概だけど。


 僕が黙っていると、更に不思議そうにこちらを見てきた。そのため僕は慌てて、持っていたものを渡した。


「お見舞いに来たのですが、やっぱお邪魔になりそうなので帰ります」


「いいのよ、俊幸くんのお見舞いでしょ。恥ずかしながら、私じゃダメみたいで……心開いてくれないから。お時間大丈夫なら、上がっていって」


「……はい、ありがとうございます。お言葉に甘えます」


 そう言って少し悲しそうに微笑むお義母さんを見て、思っていたよりも優しそうな人だなと思った。


 家に入ると綺麗に整頓されていて、としくんの匂いがしてお家の匂いだったのかと思った。


 それにしても上品そうな感じだけど、香水臭いなと思ってしまった。すると、お義母さんは恥ずかしそうにこう言っていた。


「私、香水臭いでしょ。ごめんなさいね」


「いえいえ、そんなことは」


「私ったら昔からドジで、香水を大量にこぼしてしまうのよね」


 そう言って笑っていて本当に嫌な感じの人じゃないなって、思ったから僕も少し世間話をすることにした。


「香水はつけないですけど、柔軟剤の量を間違えたりするので分かります」


「あらそう? 私なんかわね」


 そんな感じに話しながら歩いていると、としくんの部屋の前に着いたようだった。俊幸と書かれたプレートが、付けてあってなんか嬉しくなった。


「ここよ、あの子の部屋は」


「あの、ありがとうございます」


 部屋に入ろうとすると、お義母さんは少し自虐気味に笑ってこう言っていた。僕はそんなことないと思って、思ったままに口にしてしまう。


「あの子のことよろしくお願いします。私はあの子に嫌われているようだから」


「あの! とし……俊幸くんは、まだ距離感が分からないだけだと思います! だから! その……」


「ありがとうね。それでいつ、結婚するのかしら」


 その言葉を聞いてなんか、うちの母さんと同じ匂いがすると思ってしまった。僕は急激に恥ずかしくなって、会釈をして部屋に入る。


 部屋に入ると、ベッドの上でうなされて寝ている彼を見つけた。ベッドに向かうとすると、ふと机の上に昔に僕と撮った写真が置いてあった。


 周りを見渡してみると他には特になくて、本や参考書があるだけの殺風景な部屋だった。そのため必要以上に嬉しくて、舞い上がってしまう。


「としくん、大丈夫? 熱があるみたいだね」


「う〜ん。り〜く」


「僕のこと夢で見てるのかな?」


 彼のおでこに手を当てて熱を測ると、相当に熱があることに気がつく。おでこに熱さまシートを貼って、水を飲ませようとしたけど危ないかなと思った。


 少し恥ずかしいけど、口に含んで口移しで飲ましてみた。なんか看病してる恋人って、感じで変な背徳感があった。


 自分でも、驚くくらいに胸が高鳴っているのを感じた。それから、少し恥ずかしかったけど体を少し拭いてあげたりもした。

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