四十九話 大晦日
早いもので、大晦日になってしまったようだ。大晦日は退屈だ。なぜなら、としくんがずっとおこたで寝ているから。
夢の中にいるのか起きているのか、分からないぐらいの寝方をしている。おこたも暖かくて、部屋の暖房もつけているから特に暖かい。
完全に寝ているから僕のこと、構ってくれないから非常に退屈である。別に自分から、構えばいいになということは分かっている。
しかし僕もおこたから離れることができずに、彼の方に行くことができないから。本当は、直ぐにでも彼に抱きつきたいんだけど。
僕がそう思っていると、としくんはムクっと起き上がった。そして眠そうに欠伸をして、みかんを欲しがっていた。
「り〜く、みかん」
「玄関脇にあるよ〜」
「――――じゃあ、いいや」
大晦日になったと同時に、としくんは僕の部屋に来てこの調子である。大晦日だし神社とか行ったほうがいいのかな?
でもめんどくさいなあ、外寒いしなあと何度目か分からないことを考えていた。そんな時だった、部屋の扉が開いて兄貴が帰ってきたようだった。
「お前ら、健全な男子高校生なら外で少しは遊べよ」
「あー、どうも」
「あー兄貴、用事でもあるの?」
「君たちね……はあ、俺は物取りに来ただけだ」
僕たちが聞きつつ興味がないことに、気がついたようでため息をついていた。そんな兄貴を僕たちは、興味もないため気にしていなかった。
そんな僕らを見てため息をつきながら、兄貴にしてはいい提案をしてきた。
「初詣にでも行ってきたらどうだ」
「初詣か……陸、行きたいか」
「としくんが、行きたいなら行きたい」
「俺も陸が、行きたいなら行きたい」
「……ほんと、めんどくさいカップル」
ということで僕たちは重すぎる腰を、なんとか起こして着替えて出発した。通りで寒いと思ったら、雪積もってるよ。
僕たちは手を繋いで空いている手には、修学旅行で買ってくれた手袋を嵌めた。家でゴロゴロしているのもいいけど、こうして出かけるのもいいな。
「陸、寒くないか」
「としくんが、いるから平気だよ」
「つっ……俺も、陸がいるから平気」
こうやって何気ないことでも、笑い合える人がいるって不思議だけど嬉しい。それだけで、心から満たされた気持ちになっていく。
初詣のために近くの神社に来た。こんなに混んでるものなのかと思うぐらいに、混んでいてきたばっかりだけど帰りたくなった。
「混んでるね、こんなことなら家でダラダラしてれば良かった」
「クスッ……」
「どうした?」
「僕も同じこと考えてた」
次の瞬間。僕たちは、腹を抱えて笑っていた。人が多いから僕は、いつもよりも体を密着させた。
すると彼は当たり前のように、肩を抱き寄せてきた。ふと見上げてみると、耳まで真っ赤にしていて可愛かった。
自分たちの番になって僕たちは、手を合わせてお願いをする。彼はなんて願うのかな? 僕が願うのはたった一つしかない。
――――としくんとこれからも、一緒にいられますように。
これ以外の願いなんて何もない。ただ彼が隣にいて、笑っていてくれさえすれば、それ以外には、何もいらない。
「としくんは、何を願ったの?」
お願い事が終わった僕たちは、おみくじを買って色々と話し込んでいた。僕はふと気になって聞いてみた。するとフッと笑って、僕の耳元でこう呟いた。
「陸とこれからも、一緒にいられますように」
「……そっか、同じだね」
「つっ……そうだな」
僕が答えると彼は、人目も憚らずに僕を抱きしめてきた。僕も嬉しくなって、彼の背中を抱きしめ返した。
これかはもっと愛情を伝えていこうと思う。なぜならおみくじには【今の人が最上、迷うな】と、書いてあったからだ。
もう迷うわないと誓った僕に対しての、神様からのお告げだから信じようと思う。僕がそう思っていると、意外な人物二人に声をかけられた。
「陸に俊幸、お前ら少しは周りを気にしろ! 公共の場で!」
「あー、空雅か」
「先生も、あけましておめでとうございます」
二人に声をかけられたから、僕たちはゆっくりと離れて挨拶をする。そんな僕たちを見て、ため息をついている新田くん。
そんな新田くんを見て、終始笑顔を浮かべている先生。なんかよく分からないけど、関わり合いを持ちたくない。
僕がそう思っていると、としくんは耳元で呟いていた。僕はその言葉を聞いて、嬉しくなってしまって抱きついてしまった。
「俺のおみくじは【愛情を告げ結婚せよ】だったよ」
「僕はしたいよ」
「俺もだよ」
結婚は男同士だからできないけど、きっと気持ちの問題だと思うから。優しく微笑む彼を見て、より一層側にいたいと思えた。
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