四十八話 聖なる夜に
四人でしばらく話していたが、店頭販売を開始するらしく忙しくなってきたため僕と彼はお店を後にした。
そこで僕は気になったことがあったから、彼に聞くことにした。正直そんなに、気にはなっていないけど。
「それにしても、二人が付き合っていたなんて驚いたよ。としくんはいつから、知ってたの?」
「だいぶ前からだな。空雅が素直にならないって、相談受けてたから」
「そっか、としくんは優しいね」
「まあ、俺も勉強とか色々見てもらってたし」
僕が褒めると前髪をいじっていて、照れ隠しをしていた。それがなんだか可愛くて、僕はより一層愛おしさが倍増してしまった。
僕は彼に導かれるままに、大きなツリーが飾られている場所に連れて行かれた。だんだんと暗くなってきていて、近くの街頭の灯りでとてもキラキラして見えた。
ここのツリーはとても有名で、クリスマスのこの時期に毎年飾られている。有名なデートスポットで、県外からも来るほどだ。
いつか、こんな風に恋人と過ごしたりするのかな? って漠然と考えていたけど、その相手がとしくんで良かったと思った。
ツリーを見て瞳を輝かせている彼を見て、僕は嬉しくなって微笑みながら声をかけた。
「綺麗だね」
「ああ、ここでツリーの点灯と同時にキスしたカップルは永遠に結ばれるらしい」
「としくんって、意外とロマンチックなこと好きだよね」
「陸だからだよ」
ほんとそうやって、直ぐに恥ずかしくなるようなことを平気で言うんだから。それでも、そんなに僕のことを考えてくれているかと思うと嬉しくなってしまう自分も大概かな。
今かなと思って、僕は自分のカバンから例の小包を取り出す。それとほぼ同時のタイミングで、彼も何やら大きめの袋を取り出した。
その袋から綺麗な、ピンクと緑の毛糸で編まれたマフラーを取り出した。彼は嬉しそうに、そのマフラーを僕に巻きながら言ってきた。
「それは?」
「マフラー、似合うと思って。間に合って良かった」
「これ、自分で編んだの?」
「ああ、だいぶ失敗して毛糸無駄にしたけど」
彼は謙遜気味に笑っていたけど、素人目線でも分かる。このマフラー、僕に対する想いがしっかり籠ってるって。
とても暖かくて彼が僕のために、丹精込めて編んでくれたかと思うとそれだけで心がポカポカしてくる。
彼は色んなことを、僕のために頑張ってくれている。そんな彼が僕はとてつもなく、好きで仕方なくなってしまう。
「ありがとう、嬉しい」
「そっか、喜んでくれて良かった」
僕は彼の編んでくれた、このマフラーを一生大事にすると心に固く誓った。そして今度は僕のプレゼントを、彼に渡す番だと思って小包を渡して中身を見せた。
見た瞬間に、時計ってよく分からないけど……それでも彼に、銀色が似合うと思ったんだ。
「これ、僕からのクリスマスプレゼント」
「かっこいい腕時計、いいのか」
「うん、一目見てとしくんに似合うなって思って」
「陸! 嬉しいよ」
そう言って腕時計を見て、僕に抱きついてくる。人もたくさんいたけど、大抵の人はツリーか恋人のことしか見てない。
そのためここには自分たちしかいないような錯覚に、陥るような不思議な感じがした。僕は彼の左手首に、腕時計をつけてみた。
彼の細くて長い指や、綺麗な手首に銀色がとても冴えていて美しかった。腕時計が似合う人って、大人な感じがして羨ましい。
「似合ってるよ」
「ありがとう。陸、ほんとに嬉しい」
そう言って、もう一度優しく抱きしめてきた。彼に見つめられて、顎をクイっと持ち上げられた。
その時の瞳があまりにも澄んでいて、美しくて僕の胸のドキドキは自分でも驚くくらいに高鳴っていた。
それと同時に、体を密着させているからだろうけど彼の鼓動も聞こえてきた。ますます、鼓動が早くなっていくのを感じた。
「陸……」
「としくん……」
僕たちはお互いに当たり前のように、身を寄せ合って唇を静かに重ねた。それと同時に、ツリーにイルミネーションが点灯して幻想的な雰囲気に包まれる。
それに伴って辺りのイルミネーションも、同時に点灯されて別世界にいるみたいに思えた。
それ以上にとしくんと一緒にいるから、特に幸せに感じてしまうのかもしれない。こんなに幸せで心が満たされて、こんなに幸せなことは他にない。
そう思った時に、初雪が降ってきて更に幻想的になった。地面に降って消えていく。そんな光景を見て僕は、なんだが儚く思えた。
「あっ、雪だ」
「ああ、綺麗だ」
僕たちはツリーを見ながら、静かに降っている初雪を見てより一層体を寄せ合った。言葉はなくても、僕たちは目を合わせてこう思う。
――――永遠にこの幸せが続くといいな。
いつまでもこれからも、永遠に思える時間を共有していきたい。寒いはずなのに、僕たちはいつにも増して暖かく感じた。
このまま時が止まってくれればいいにと、思ってしまった。いつまでも、こうしていたいと思った。
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