四十七話 興味ない
ゲーセンを出て僕たちは、より一層体を密着させて歩き出す。道行く人に見られているけど、今日はクリスマスイブだから特に気にも留めてなかった。
しばらく歩いていると、道の向こうからケンカの声が聞こえた。なんか聞き覚えのあるような気がするな。
「テストのことは関係ないだろ!」
「あるね! 英語とか云々前に国語の勉強をしろ!」
声の主を見るとやっぱり、新田くんと先生だった。こんな道の往来でそんな馬鹿でかい声で喧嘩しないでよ。
「うるさっ……陸、違う道行こう」
「うん、賛成」
「あっ! おーい! 陸に、俊幸!」
僕たちが踵を返そうとすると、最悪なことに僕たちに気がついた新田くんに声をかけられてしまった。
僕たちはお互いに目を合わせて深いため息をついて、何度も大声で呼んでくる新田くんを無視することにした。
「おーい! って、無視すんな! 聞こえてんだろ!」
「うるせー! 邪魔すんな!」
「なんだよ! 見つけたから、声かけただけだろうが!」
「陸との時間を邪魔すんな!」
そんな感じで、いつものように喧嘩をし始める二人。周りからは、何かの催し物か? とか聞こえてくる始末。
どうすればいいのか分からずに、オドオドしている先生。大人が肝心な時に使えないようなので、僕は優しく微笑みながらこう言ってあげた。
「いい加減にしろ」
「……はい」
「……すみませんでした」
すると喧嘩していた二人は、さっきまでも勢いが嘘のようにまるで借りてきた猫のように大人しくなった。
その瞬間周りで見物していた人たちが、蜂の子を散らすようにいなくなってしまった。見渡してみると、そこは先生の実家のケーキ屋【Aimer】の前だった。
すっかり縮こまっている先生を一瞥して、僕は微笑みながらめんどくさいけど聞いてあげることにした。
「聞きたくないですけど、なんで喧嘩してたんですか?」
「聞きたくないって、そんなハッキリ言わなくても」
僕の言葉に、ため息をつく先生を見て思った。正直聞きたくないしめんどくさいけど、色々とお世話になっているから再度聞いてあげることにした。
「まあ、ここじゃ寒いし。中入れ」
「はーい」
ということで先生に促されて、僕たちはお店の中に入れてもらった。今日はイブのため、店頭での販売がメインになっているらしくお店の中にはお客さんはいなかった。
空いているテーブルに座って、僕たちは二人の話を聞くことにした。先生に紅茶を準備してもらい、それを啜りながらだけど。
「そのなんだ、空雅が駄々をこねるから」
「はあ、なんだよっ! それ! 秋也が、俺のこと馬鹿って言ってくるからだろ」
「馬鹿だろ! 数学と国語四十点台だし! 頼むからもうちょっと、成績上げてくれ!」
流石の僕でも平均点ぐらいの点数は取れたのに、四十点は流石に低いよ。まあ、自分だけで勉強してた時はいつもそれぐらいだっから人のこと言えないけど。
そんなことこで、あんな道の往来で喧嘩していたの? 先生も大人気ないにも程があるでしょ。
先生の悲痛な叫びを聞いて、先生って色々と大変なんだなと同情してしまった。僕も成績下げないように、頑張らないと。
来年は受験生なんだし……。受験か、高校とは違うよね。ただ漠然と、大学行くつもりだったけどどうしよう。
それにしても、この二人って息ぴったりだよね。僕がそう思っていると、心底どうでもいいようにとしくんが呟いたことに僕は驚いてしまった。
「どうでもいいけど、やっと付き合い始めたんすね」
「……ああ、まあな」
「俊幸っ! おまっ! 気づいて!」
「普通気づくだろ」
よく分からなかったけど、としくんの言葉に顔を真っ赤にして狼狽えていた。僕がポカーンとしていると、新田くんがモジモジしながらこう言ってきた。
「陸も気がついていると思うが、俺は秋也とつ……付き合い始めたんだ」
「空雅……もうっ、お前って奴は」
そう言って嬉しそうに微笑みながら、新田くんに抱きつく先生を見て僕はただただ困惑していた。
えっ? 修学旅行で言っていた新田くんの好きな人って、先生だったの? 全く気が付かなかった。
「えっ! 付き合ってるの! 全然、気が付かなかった」
「――――陸って、本当に腹立つほど俊幸のことしか見てないよな」
「いやあ」
「顔を赤らめている陸もだが、照れる俊幸にもイラつくな」
そう言ってため息をつきながらも、顔を真っ赤にしている新田くんが幸せそうに見えて良かったと思ってしまった。
そんな新田くんを見つめる先生の優しそうな笑顔を見て、僕までなんだか嬉しくなってしまった。
そこで僕は新たな疑問が湧いてしまった。そのため、先生と見つめ合っている新田くんに質問してみた。
「そういえば、空雅くんはお店の格好してるの?」
「ああ、今日から。ここでバイトさせてもらってる」
「空雅って、手先器用だから。うちのお袋が気に入って、短期間の予定だったけど長期で入ってもらうことになったんだよ」
聞いておいてなんだけど、あんまり興味ないかな。僕がそう思っていると、先生がケーキを勧めてきた。
「値段は少し安くしとくからさ、ケーキ買って行かないか?」
「さっき食べたんですよね。駅前の、カフェで」
「あーなるほどな。あそこ、うちの店のケーキだけど美味かったか?」
先生の言葉を聞いて、昔先生が持ってきてくれたケーキと同じ味だったかと納得してしまった。
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