四十四話 彼の隣で

 次の日。今日は文化祭の打ち上げがクラスであるため、皆んなでカラオケに来ている。因みに、人生初のカラオケである。


 まあ、それはいいんだけど……。問題は僕の右にとしくんが座っていて、左には新田くんが座っている。


 こうなるとなぜか、直ぐに喧嘩をしてしまう二人に僕は挟まれているわけで。耳元で喧嘩するの止めてほしい。


「陸、何か歌おうぜ!」


「おいっ! 何しれっと、隣に座ってんだ!」


「別にいいだろっ! もうちょっと、大人になれよ!」


 本当にめんどくさいなと思いつつ、この二人の喧嘩についてはもう恒例行事なためアクションを起こすのもめんどくさいのである。


 僕はそんな二人を無視しながら、どんな曲があるのかを見ていた。僕あまり最近の曲とか知らないから、皆んなの歌を聞いていてもピンと来ないんだよな。


 先生は何かのドラマ? の主題歌を楽しそうに、熱唱していてそれが無駄に上手いからなんか腹立つし。


 そんなことを考えていると、数回話したことがあるクラスメイトに後ろから話しかけられた。


「大久保は何、歌うんだ?」


「う〜ん。僕流行りの曲とか知らないし」


「そっか、まあ無理に歌う必要もないしな。でも、この曲なら聞いたことあるんじゃないか?」


 そう言ってスマホの画面を見せられて、映っていたのは遊園地で見たヒーローショーで使われている曲だった。


「うん、これは知ってる」


「アニメとか見んの?」


「あんまり」


 そんな感じで談笑していると、いつの間にか喧嘩を止めていたとしくんに抱きつかれた。僕が驚いていると、話していたクラスメイトは他の人の元に駆け寄っていく。


「としくん、どうしたの?」


「いや……なんとなく」


「話しているだけで、ヤキモチを焼いたりするとか心狭くね」


「うるせー」


 新田くんの言葉にしかめっ面でそう返すとしくんに、僕はなんか可愛いなと思ってしまう。


 大人びていているように見えて、結構子供っぽいところがあったりする。そんな所がギャップがあって、とてつもなく可愛く見えるのだ。


 そんな感じで時間はあっという間に過ぎていき、お開きの時間になってしまった。帰り道に手を繋いでいたんだけど、としくんが口を尖らせながら聞いてきた。


「陸はさっき話していた奴と仲良いのか?」


「うーん、どうだろ。話しかけられたからだよ」


「そっか……話しているだけで、ヤキモチを焼いたりするなんて了見が狭いのかなって」


 そんなことを考えていたのか……そう言って立ち止まって、僕の方を見ている彼がなんか大型犬みたいに見えた。


 ちょうど公園の前だったから、ベンチに腰掛けることにした。そこで、僕は彼の両手を包み込んで、思っていることを告げた。


「そんなことないと思うよ。僕はその、付き合った経験がとしくん以外ないし。これからもないけど、僕だってヤキモチを焼いたりする」


「陸、お前ってマジイケメンだな」


 僕の言葉を聞くなり、みるみるうちに真っ赤になってそんなことを言い始める。よく分からないけど、としくんの方がイケメンなのになと思っていると話し始める。


「俺以外にも笑うようになっていて、嬉しい反面複雑な気持ちになってきて。これが、ヤキモチなのかな」


「ヤキモチか……いいんじゃないかな? よく分からないけど、興味がない相手には絶対に現れない感情だもん」


「やっぱ、イケメンだ」


 真顔でそんなことを言っている彼が、不思議に思えたけど僕たちはお互いに目を合わせて笑い合った。


 そして再び手を繋いで歩き出す。その道中に、彼は夜空を見上げながら嬉しそうにこう言ってきた。


「昔の周りを引っ張っていく優しくて、面倒見のいい陸に戻ったように感じてさ。複雑だったが嬉しかったんだ」


「これからも僕が引っ張っていくね」


「俺がリードする!」


「アハハ」


 僕らの笑い声が冬空に静かに消えていく。これからも、彼と一緒にいろんなことを経験を積んでいきたいと思った。


 会えなかった十年間で、二人とも変わってしまった。今まではそれが怖くて、仕方なかったけど今は違う。


 今は昔と違うとこも、同じとこも全て愛おしくなってしまった。どんな彼でも変わらずに好きだし、僕のことも変わらずに好きになってほしい。


 運命って言葉が本当なら、彼とは運命だって胸を張って言えるように強くなりたい。これからも、彼の隣で笑っていたいから。

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